第12話 決勝戦
エンリル・カルム、固有魔法は風司。大気を操ることができ、少し動かすだけで基礎魔法の風の比ではない突風を発生させる。
微細なコントロールは行えてないものの、威力は並の魔法使いでは歯が立たず、幼少の頃から犯罪者や賞金首と戦ってきた。
積み上げた功績と被害は大きい。そんな彼女にとって、魔法学校では実力を発揮出せずにいた。強すぎるあまりに。
しかし、今宵は全力を出せる相手かもしれない、そう思って浮き足立っていた。
オルトの試合を振り返り、奇策とともに気になっていた選手を倒し、魔法を見たうえで本気でいいとも言ってくれた。
ただ魔法を放つだけでなく、戦いになると期待している。
「……はよはよ」
「時間きっかりに開始だから待てって」
昂ぶるエンリルに審判のハンズが制する。
「随分やる気だね……」
「……うん♪」
オルトの魔法道具は前回と同じで、防護コートと長杖。純粋な魔法勝負を挑む。
(まずは初撃を耐えなきゃな……)
防ぐ術はなく、あの突風をどこまで劣化させるかが明暗を分ける。
「っし、そろそろだ。用意はいいか?」
「待ってました」
「いつでもいけます」
「では……始めっ!」
開始の合図とともに、エンリルの前方に空気が集束していく。
『風薙』
轟音を響かせ、地を削りながらオルトへと向かう風の爆弾。エンリルが持つ最大の攻撃魔法であり、山をも吹き飛ばす威力。
「ぐあっ!?」
オルトは踏ん張ることもできず飛ばされ、壁へ激突する。
「なんつー威力!? しかもまともに喰らったぞれ!?」
「これがエンちゃんの全力……」
観客席にいたバイトとシャルールが、あまりの威力に脱帽する。
(……でも、あのオルト君がこれで終わる気がしない)
まだ続く、シャルールだけでなく、当人のエンリルすらそう感じていた。
(おかしい……本来の10分の1も出なかった……弱める魔法?)
エンリルはいつになく真剣な表情で様子を伺う。見据える先には、横たわるオルト。
(先生がまだ止めない。ということはまだ意識が……!?)
「あ……れ……!?」
エンリルはふらつき、片膝をついた。
脱水症状。体内の水分量を劣化させられ、彼女は渇きと倦怠感に襲われていた。
オルトは杖を介して『風薙』を最大限劣化させ、更には壁を脆くしてクッション代わりに耐えぬいた。それでも受け身を取れず、全身を強く打っているためにすぐ起き上がれない。
「いつつ……でもこれで、やられっぱなしじゃなくなった……!」
固有魔法の制約を変更し、不可逆的な劣化のみを禁止にし、自然と治るものの劣化なら人体に使用可とした。
そして、練習としてバイトで散々試した。
「……驚いた、こんな隠し玉があるなんて」
「つい最近身につけてね。君みたいにド派手じゃないのが残念だ」
(これが1番彼女に効くかもな……)
「ん……ふぁあ……」
大きな欠伸をして虚な目をするエンリル。次に仕掛けたのは睡眠不足。脱水症と合わさり、意識が朦朧としていく。
バチン!!
エンリルの手元で魔弾が爆ぜ、苦痛な表情で目を覚ます。
(気付けに自爆したか……一筋縄じゃあいかないか)
『風砲』
「くっ!!」
突風に吹かれて地べたを転がされ、またしても壁にぶつかる。
(さっきより威力は数段劣るけど、溜めがなく出が速い……!)
『風砲』『風砲』『風砲』
「うおっ!?」
怒涛の魔法を浴びせられ、劣化しても確実にダメージが蓄積する。
「ハァハァ……!」
エンリルが魔法を唱えるなか、肩で息をするようになって中断する。
低酸素血症。体内の酸素量が減り、自然と呼吸が早まっていく。
深刻になるのは意識の低下。睡眠不足は脳の酸欠、脱水は酸素を運ぶ血液量が減る。加えて酸素そのものが減ったので、回復することなく脳の機能は落ちていく。
(限界だな……これ以上は命に関わる……)
いつ倒れてもおかしくない、故にもう追い討ちできないでいた。
しかし、再びエンリルの周囲に空気が集束していく。
(嘘だろ……!? 意識を保つのでやっとなはずじゃ……?)
途切れ途切れの意識で、最大の魔法を準備するエンリル。
彼女を突き動かすのは、生まれ持った驚異的な固有魔法があったからこそである。強者こそ、勝たねばならないと。
『風薙』
(天晴れだ……そんな君だから勝ちたい)
オルトは再び迫る風の爆弾に危機はなく、晴れ晴れしくもあった。相手の全力を凌げば決着する、今までまともにできなかった真っ向勝負。
まだ神級魔法には辿り着けてない。それでもオルトはこの2年間、唯一の劣化魔法だけと向き合ってきた。その集大成……
『纏う排斥』
絶え間なく劣化し続ける魔法。巨大な風の塊が小さく変貌していく。
それでも尚、満身創痍なオルトには充分であった。もう起き上がることができない。
「……エンちゃんの勝ち……!?」
「いや……」
エンリルも既に意識なく倒れていた。刹那の沈黙に、審判のハンズが勝敗を下す。
「若葉杯決勝……両者戦闘不能による引き分け!」




