第11話 新たな劣化
若葉杯準決勝を終え、オルトは火傷の治療を受けた後に、もう1つの準決勝を見学しようとした。しかし、訓練場に戻った時には既に終わっていた。
決勝の相手はエンリル。これまでの試合全て、審判が介入して止めている。それほどまでに彼女の風魔法が強すぎるのであった。
(今回ばかりは勝ち目がみえないな……)
オルトの魔法はあくまで劣化、100を0にすることはできない。強力すぎる魔法を劣化させても、威力は多少残る。自力での防衛手段がないため、被害は避けられない。
攻めようにも近づくことはおろか、飛び道具すら吹き飛ばされてしまうだろう。攻撃は最大の防御と言わんばかりに、攻守共に兼ね備えている。
早急に対策が必要、オルトは新たな魔法道具を探そうとする。
「今回はちゃんと見応えあったぜ、火だるま人間さん」
讃えるように話しかけてきたのはバイトだった。
「それはどうも」
「みんなお前に注目してるぜ、次はどんな風にやんのかって。俺にだけこっそり教えてくれよ」
「……何が目的?」
「なぁに、心配してるだけさ。相手はあのエンリル、生半可なやり方じゃ勝てねえだろ? 一度身をもって味わったが、正直小細工は通用しねぇ……手を貸してやらんこともない」
「……益々怪しいんだけど」
疑うオルトに、観念したかのようにバイトは息を漏らして続けざまに言う。
「優勝したのがお前なら、俺の初戦敗退にも箔がつくだろ」
「せっっこ」
「るせー!! こっちは家系柄、面目ってのが大事なんだよ! いいから協力させろ!」
「なんだその言い分……!?」
かくして、バイトが手を貸すようになった。
「で、この後どうすんだ?」
「何か有用な魔法道具でも探そうと思ってね」
「アレに対抗する物なんてあんのか? あったとしても、そんな代物は持ち込み適正内に入らないだろ。自分の魔法でどうにかするしかないんじゃないか」
バイトの言うことは至極真っ当、しかし他に手立てもない。
「それができたら、苦労しないさ……」
「そうかい……ま、後2日あることだし、休んだらどうだ? 火傷もあるし、疲れただろ」
「いや、そうこう言ってる場合じゃない。疲れなんて気にしな…………待てよ……」
オルトが気になったのは疲れそのものだった。
(疲労というのも正常ではなく……劣化した状態と言えるんじゃないか……!?)
人体に作用する劣化は老い、初めて人に向けて使用した時からずっとそう思い込んでいた。取り返しがつかないため、以降は人への使用は避けてたことから発想には至らなかった。
(劣化の種類なんて考えもしなかった……だとしたら、疲労だけじゃなくても他にも……!!)
「ハハ……視野が狭かったな、僕はなんて馬鹿だったんだ」
「どうした急に……人は動いたら疲れんだぞ?」
「そういうレベルの話じゃない!! 僕はハンズ先生にちょっと用ができた! また後で声かけるから!」
「お、おい!」
駆け足で離れていくオルトに、バイトはただ1人取り残される。
「なんなんだ一体……?」
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若葉杯決勝前日、食堂にてヘロヘロになったバイトが食事を摂っていた。
「なんかアンタ顔ひどいわよ、体調悪いの?」
対面に座って来たのはシャルール。様子を見かねて声かける。
「ん〜あぁ、オルトの魔法に色々試されてなぁ……」
「ふ〜ん、結構仲いいんだ」
「ま、応援してるからな」
「へぇ〜! 意外だね。あたしはエンちゃんを応援するけど」
「エンちゃん……? あぁ、エンリルか。なんだ、コテンパンにされて拗ねたか?」
「両方に負けたくせに何言ってんのよ!? あたし達は元々仲良かっただけだし、それに……ちょっと怖かったから」
「オルトが? まぁ確かに、火だるまで迫ってくるのはトラウマにもなるわな」
「それもなんだけど……なんか、底が知れない執念じみたものを感じて……なのに普段は温厚だし」
「っと、噂をすればだ」
「あれ? 珍しい組み合わせだね」
2人話してる所にオルトが学食を持ってやって来る。
「オルト・アルトイズム被害者の会ってわけよ」
「人を勝手に加害者にしないでほしいな」
「あ、あたしは別に何も思ってないから……!」
「あ、シャル……こんなとこにいたんだ」
ハンバーガーとポテトを乗せたトレイを持って、エンリルがやって来る。
「エンちゃん!」
助け船がきたように、シャルールが活気を取り戻す。
「おーおー、決勝の役者がお揃いで」
「えーっと……ワンちゃん出す人」
「名前覚えてないんかい」
「じゃあ…………噛ませ犬?」
「プッ」
「ぶち殺すぞ」
「そっちは……起こしてくれた人」
(あぁ、初めて会った時のことか。そういえばちゃんと挨拶してなかったな)
「オルトだよ、明日はよろしくね」
「明日……何かあるの?」
「若葉杯だよエンちゃん!?」
「あ、そうだったんだ……よろしく」
(マジかこの子……ある意味大物だな……)
「あ、1つ確認なんだけど、持病とかって持ってないかな? 安全のために聞いておきたくて」
「私は……健康1番」
「その割には不健康まっしぐらな飯食ってんな」
「そっか、それはよかった。遠慮なくやれる」
「……私も本気でやっていいの?」
(今までのあれは全力じゃないってか……どこまで通用するか、もってこいだな……)
「勿論だ」
「!……とことんやろ……!」
嬉しそうにポテトを食べるエンリル。その会話聞く2人は内心穏やかではなかった。
(エンちゃんの本気ってやばくない……? オルト君でも我慢どうこうの話じゃすまないって!)
(おいおいオルト、やりすぎんなよ……お前のアレはエグすぎる……)
純粋な闘志と杞憂が生まれるなか、遂に若葉杯決勝当日を迎える。




