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【完結】義理の妹が結婚するまで  作者: 夏目くちびる
第一章 春休み(文也の場合)
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真理

いつもありがとござます

 盗み聞きしていると(人聞きが悪いが、他に正しい言い方が見当たらなかった)、どうやら三人の共通点は吹奏楽部のメンバーであるという事と、三人そろって同じ高校へ進学したという事だった。夢子の進学先は県内でもトップの有名校であるから、望月と真琴もかなり成績がいいことになる。




 若者特有の支離滅裂な会話やふにゃふにゃした口調が彼女たちにはない。あれはあれで結構好きなのだが、頭のいい彼女たちにそれが当てはまることはなさそうだ。




 まもなく始まる高校生活に思いを馳せて、三人はとても楽しそうに話をしていた。やがて会話は移ろい、恋の話になっていく。




 「真琴って好きな人とかいないの?」




 夢子が訊く。望月はご飯茶碗を置いて少し前のめりになった。どうやらこの手の話が好きなようだ。




 「いないよ。できたことないし」




 「そんなこと言って~、そういえば卒業式の時呼ばれてたよね?どうだった?」




 「別に、断った」




 散っていった戦士に敬礼。




 「結構かっこよかったのに」




 望月が言う。




 「別にイケメンだから好きとか、そういうんじゃないでしょ」




 「それはわかるけど、かっこよくて優しい人だっているでしょ?」




 「知らない。あたしの周りにはそんな奴いなかった。オラついてるの、ほんとダサい」




 それはきっと、真琴相手だから少しでも強く見せてアピールしたかったんじゃないだろうか。見た目は少しそれっぽいですし。




 「ていうか、理子だって告られてたじゃん。卒業旅行の時」




 卒業旅行か、俺の時は有名なテーマパークだった。だが一緒に見て回る友達がいなくて、一日に四回公演されていたミュージカルと三回あったパレードを全て一人で見た。しかも全部同じ席から。朝から座っていてたから、一番見やすい最高の席だったのを覚えている。




 「あぁ、確かにバス乗る前いなかったよね。あの時?」




 夢子も食いついた。




 「私も断ったよ。だって好きじゃないのに申し訳ないもの」




 かなり大人の意見だと思った。別に勢いに任せて付き合ってしまうのもいいと思うのだが、こうしてしっかり自分の価値を理解している女性は軽率な答えを出さないのだろう。




 人生のパートナーには、互いに自分にはない要素を求めるものだと、とある心理学者が言っていたような気がする。それを考えるのであれば、美男美女が相手に顔を求めないというのは当然のことなのかもしれない。



 しかし、逆説的になんでも持っている(ように見える)この三人には恋人が出来にくいのではないだろうか?皮肉なものだ。




 そういえば俺の母は美人だったし、時子さんも美人だ。父の顔は、俺と似ている。




 ……別に深い意味はない。




 「ところで、お兄さんにはいないんですか?彼女」




 矛先は突然俺に向いた。その流れで行けば次は夢子だったと思うのだが。




 「いや、いないよ」




 「そうなんですね、なんでいないんですか?」




 なんでいないのか、というのは暗に自己分析して聞かせろという事なのだろうか。しかし、ここで皮肉や自虐をするのは明らかに愚策な気がする。というか、俺の浅い考えなどお見通しなのではないだろうか。だから大人しく、これだと思う理由を挙げることにした、




 「人に優しくないからじゃないかな」




 かなり致命的だと思う。俺は人に優しくない。なぜなら……。




 「そんなことない!」




 突然夢子が立ち上がった。望月と真琴は驚いた様子で夢子を見る。妹は真剣な顔で俺を見ていたが、すぐに思い直したのか、座って恥ずかしそうに俯いた。




 ……いつの間にか、二人はにやにやとしている。




 自分に自信があるからなのか、この三人は基本的に保守的な意見を言わない。主張ははっきり、言いたいことを言うようだ。だからこうして衝突してしまうのだろうか。俺に女の子の付き合い方はよくわからなかった。




 そういえば、俺は二人に自分を夢子の兄だと自己紹介したっけ。名前ではなく兄と呼ばせてしまったことに、多少のむず痒さを覚える。




 夢子はまだ俯いているが、果たして今のはそこまで恥ずかしがるようなことだったか?大声を出すことくら誰でもあると思うのだが、思いの外妹は恥ずかしそうだった。




 しかしこうなってしまうと、俺の存在は邪魔でしかない。大人しく残りのごはんとおかずを平らげて御馳走様を言い、皿を片付けてからリビングを出ることにした。




 いてくれて構わないと二人は言っていたが、普通に考えればそうはいかない。丁重に断ることにした。




 「一緒に食事できて楽しかった。夢子もわざわざ俺の分までありがとうな」




 二人が会釈し、夢子はそっぽを向いていた。 




 「それじゃあゆっくりしていってくれ。冷蔵庫や戸棚にあるものは、全て飲み食いして大丈夫だから」




 そういって俺はリビングを出た。




 なんとなく家にいずらかったから俺はまたロードワークに出る事にした。廊下を歩いている時、リビングの前で微かに俺の事を話しているのが聞こえたが、黙って出ていくことにした。




 大量に食事を摂る俺にとって、ロードワークや筋トレは重要なライフワークだった。やめてしまえばたちどころに太ってしまうだろう。別に見た目にこだわりはないのだが、不健康なのはよくないと思っている。だからこそ、運動を続けていられる。




 いつものコースを走り終えて家に戻ると、俺は真っ先にシャワーに向かった。リビングの前を通った時、やけに中が盛り上がっているようだった。二人の高い声が廊下にまで響いている。なんなら、シャワーを浴びている間もずっと聞こえていた。……もう一人はどこへ?




 脱衣所で体を拭いていると、何故か急に扉が開いた。そちらに目を向けると、夢子が陰から俺を覗いている。俺は何かを隠すわけでもなく、ただ水滴を拭きとって下着を身に着けた。髪の毛は短いから、ドライヤーはしていない。




 「この前のお返しだから」




 何を言っているんだこいつは。




 しかし、何やら様子がおかしい。顔が妙に赤く見える。




 「夢子~?お兄さんいたの~?」




 向こうから望月の声が聞こえる。さっきよりも、どこか張りのない声だった。




 その時、俺に電流が走る。




 「あぁ、お前ら酒飲んだのか」




 「えへへ」




 夢子はふにゃふにゃだった。避けて通ろうとすると、よくわからない言葉を口にした後、肩に寄りかかって壁と自分の体で俺をサンドイッチにしてしまった。




 「缶ビールか?それとも父さんのウィスキー?」




 「わかんない」




 ならば自分で確かめるしかない。夢子を反対側の壁にそっと傾けて、半袖のシャツと短パンを身に着けてからリビングへ向かった。




 「あ~、お兄さんだ~」




 望月がグラスを片手に俺を出迎えてくれた。部屋の反対に目を向けると、真琴がうなり声をあげてソファに倒れている。どうやらアルコールに適性が無かったらしい。




 「おいしかったか?」




 置いてあったウェスキーの瓶を持ち上げて望月に訊く。グラスの中を見る限り、どうやらロックかストレートでこいつを飲んだらしい。誰か一人でもハイボールを知っていれば、こうはならなかっただろうに。




 「おいしくないで~す~」




 そういってへらへら笑った後、彼女はアーモンドチョコをつまんだ。あれは父のモノだ。彼はバーボンをロックで、チョコレートとミックスナッツをつまみに飲むのが好きなのだ。夢子はおそらくそれを真似したのだろう。




 三人の代わりに広げられたグラスと瓶とお菓子を片付けていると、夢子が後ろから抱き着いてきた。




 「酔ってる」




 そうだな。




 「酔ってるんだよ~」




 わかってるよ。




 向き直って、頭を撫でてやった。熱がこもっている。触れている肌からそれが伝わってくる。夢子の心臓の音が高鳴っている。果たしてこいつは何杯飲んだのだろうか。




 「あ~、そういうことする~」




 言いながら、望月はにやにやしながらこちらを見ていた。俺は不自然な苦笑いを向けた後、夢子を引きずりながらキッチンへ入り、新しいグラスに水を汲んだ。




 一つを望月に、一つを真琴に、一つを夢子に。




 夕飯の皿がそのままになっていたから、俺はそれを洗うことにした。作業中ずっと夢子は引っ付いていたが、その軽さからあまり気にはならなかった。




 洗い終わってからペットボトルのコーラ(当然のように2リットル)とグラスを持ち、テーブルに着いた。夢子は俺の隣に座ったかと思うと、糸が切れたマリオネットのように突っ伏して寝息を立て始めた。



 

 妹の口にその長い髪が入っていたから、それを指先で動かす。唇に触れたとき、夢子は俺の指を舐めた。




 一連の流れを見ていた望月は終始にやにやとしていた。ひょっとしてこいつ、趣味が悪いな?




 「普段から飲むのか?」




 俺が訊く。




 「そんなわけないですよ~。今日が初めてです~。でももう高校生なので~」




 一応言っておくが、お酒は二十歳になってからだ。高校生から飲んでいいのはオーストリアくらいだ。日本ではだめだぞ。と、口に出すわけではない。




 「お兄さんは飲まないんですか~?」




 「そりゃ飲まないよ」




 というか未成年だし。等とここでいうのはナンセンスなのだろう。




 何年か前に一度だけ飲んだことがあったが、俺はラッキーなことにほとんどアルコールが効かない体質だという事が判明した。だからこそ、俺は飲みたいと思ったことが少ない。

ほほほhh

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