表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/57

秋刀魚

読んで下さりありがとうございいます。感謝します。


修羅場の変、始まりです。

 中根と酒を飲んだあの夜から二週間後。今日は件のサークル主催のバーベキューの日だ。




 早くに着いてトラや初期のサークルメンバーと現場で準備をしていると、時間が進むにつれて人がどんどん増えてきて、予定時刻になる頃には三十人以上の人間が集まっていた。……こんなにいたっけ?




 「今日は勧誘も含めた懇親会のようなもんだから、新しい部員やサークル外の奴も多い。ゲストを連れてきた奴はみんなに紹介してやってくれ」




 トラが場を仕切る。訊けば俺がそうしたように、他の部員も仲間を連れてやってきたようだ。中には他大学の奴もいる。インカレサークルにでもするつもりなのだろうか。




 みんなにプラのカップや皿、割り箸を配りバーベキューコンロに火を点ける。その間に紹介が始まった。これなら黒子に徹する事が出来る。そう考えながら、話を耳に入れつつクーラーボックスに氷水を張って、ドリンクを冷やした。




 しばらくして準備も終わったころ、ほぼ同時に俺が紹介する番が回ってきた。皆が俺に……いや、俺の両隣に注目している。




 「もしかしたら知ってる人も多いかもしれないけど、俺と同じ学科の中根紗彩さん。それと」




 もう一人。




 「えっと、妹の新目夢子。まだ高校生だからお酒は控えさせてくれ」




 二人が挨拶をする。美少女二人の登場で会場(五分の三くらいは男だ)は更に沸いた。あのテンション、さては既に飲んでいる奴もいるな。……まだ午前中だぞ。




 夢子がここにいる理由を語るには、三日前の出来事を説明しなければならない。




 × × ×




 「あぁ、わかった。まあそのうち来ると思ってたぜ」




 中根のサークル加入の件を話すと、トラはすんなりと受け入れた。元々知った顔だし、特に異論はなかったようだ。ただ。




 「ルールって程じゃねえけど、うちのサークルは男の方が多いんだ。下手に掻き回されねえように気を付けておかねえとな」




 「それに関してなんだけどさ」




 俺は中根がどうして前のサークルをやめて、次はどうしたいと思っているかを伝えた。




 「……ふーん。まあフミがそう言うんなら信じるか」




 話が早くて助かる。




 俺は当日の移動手段として借りるレンタカーや、大型のバーベキューコンロ、テントの手配をしていた。今は何でもインターネットで申し込みが出来るから楽だ。作業は終わったから、あとは取りに行くだけ。借りた車は型落ちのミニバンだ。




 「悪いな、いっつも雑務させちまって」




 トラが俺に缶コーヒーを手渡す。




 「いいよ。気にすんな」




 俺はそれを受け取ると、礼を言ってからプルタブを開けた。結局のところ、俺がサークルに貢献しようと思ったらこういう業務的な部分しかない。場面を盛り上げたり、組織をデカくするために動くのは向いていないからな。




 そういえば、こうしてトラと二人で話すのは久しぶりだ。サークル活動が盛んになって、トラはバイトのシフトを減らしているからだ。




 「そういや夢子ちゃんはどうなったんだ?」




 トラはそう言って部室の窓を閉めた。




 「色々あってな、今は俺の家に住んでる」




 事の経緯を説明した。




 「そりゃなんとも。大好きなお兄ちゃんと住めてうれしいだろうな」




 「茶化すなよ」




 今は一応収まってはいるが、いずれ時子さんとのわだかまりを解かなければならない。




 ワリ、と笑ってトラはコーヒーを飲んだ。




 「バーべキューさ、夢子ちゃんも連れてくれば?」




 提案の意図がよくわからなかった。




 「いや、サークルのイベントに妹連れてくるか?普通」




 「彼女連れてくる奴とかもいるし、別にいいんじゃね?」




 陽キャってなんでこうもウェルカムなんだろうか。




 「まあ向こうが暇だったらだよ。休みの日に一人で居たら寂しいだろ」




 その通りかもしれない。夢子も少し、寂しがり屋なところがあるからな。それに、俺がこうして話をしたものだから、トラは夢子に会ってみたいのかもしれない。ならば夢子にも少し協力してもらってもいいだろう。




 「わかった。誘ってみる」




 了解して、二人で部室を出た。その後はゲーセンでゲームをしていたが(格闘ゲーム。俺はトラに一度も勝ったことがない)、そのうちトラに連絡が入った。どうやら外せない緊急の用事が出来たようだ。さては女だな?




 頑張れよ、と見送って俺は帰路についた。




 最寄り駅で降りると、偶然にも夢子がいた。どうやらちょうど、俺が何時に帰るのかを確認して、返事次第で買い物をして帰るかどうかを考えていたようだ。ちなみに父が送ってくれる生活費は全て夢子に一任してある。




 「お兄ちゃん何食べたい?」




 今日も作ってくれるらしい。




 「今日はサンマが食べたいですねぇ」




 秋らしいメニューがよかった。どうせなら炊き込みご飯も食べたい。




 「いいよ。じゃあたけのこご飯も作ってあげる」




 夢子の料理スキルの向上は凄まじい。つい先日は俺が名前も知らないような北欧の料理を作っていた。味はもちろんうまかった。




 買い物を終えて道を歩く。エコバッグ(レジ袋を持ち歩けば?と提案したらかわいいのがいいと言われて購入した)の中には割と多い食料が入っている。ここから減るにしても、あの備え付けの小さい冷蔵庫に全て収まるだろうか。




 「そういえばさ、今週末サークルでバーベキューやるんだよ」




 「へぇ、そうなんだ」




 夢子は俺の少し前を歩いている。




 「それでさ、部長がよかったら夢子もどうかって」




 「うーん。でもそれって私が行ったら変じゃない?」




 やっぱりそう思うよな。




 「そう思うなら強制はしない。忘れてくれ」




 煮え切らない態度で「うん」と言った。きっと迷っているのだろう。しかし知らないところへ、しかも年上ばかりの場面に行くのは少し勇気が必要だと思う。変にかしこまっても居心地が悪いだけだしな。




 悪いなトラ。夢子は無理そうだ。




 家に帰ってから夢子はすぐに料理を始めた。切ったたけのことしいたけ、調合した出汁を入れて炊飯器のスイッチを押す。次に秋刀魚を焼いて、味噌汁を作った。ついでにとほうれん草のお浸しを加えて、今日は純和食、と言った面々だ。ちなみに俺はというと、テーブルを拭いて、大根おろしを擦っていた。幼稚園児でももう少しマシな働きをする気がするが、まあ仕方ないだろう。




 出来上がって、それを運ぶ。最高にいい匂いがする。




 「いただきます」




 手を合わせて箸に乗せ、それを食べる。思わず「ゥンまああ~いっ!」と叫んでしまいそうな味だった。こういう時、食べる量が減ってしまったことを悲しく思う。その代わり、しっかり味わって食べよう。




 その夜、食事を終えて皿を洗っていると来客があった。




 「出てくれ」と夢子に頼む。彼女は大人しく俺に従って玄関に向かう。扉を開ける音。夢子が扉を開けたという事は配達業者だろうか。しかし、そんな俺の予想に反して部屋に入ってきたのは。




 「やっほ~。来ちゃった」




 そういって憎たらしく笑う中根だった。

次回もお楽しみにしていてください。


気に入ったら是非評価とブックマーク、コメントなどをお願いします!!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 楽しい修羅場のはじまりですね。 わくわくです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ