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【完結】義理の妹が結婚するまで  作者: 夏目くちびる
第一章 春休み(文也の場合)
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初恋

目標だった評価100ptをこんなに早く超えられるとは思ってもいませんでした。

とんでもねえサイズの感謝を皆様に送ります。

 静かだ。夢子は俺に背中を向けている。寝息は聞こえない。きっとまだ起きていて、目を閉じているだけだ。




 俺は夢子に体を向けて、肘をついてから体勢を変えるとこの前のように頭を撫でた。夢子の体が少し震える。しかしすぐに、柔らかく細いその体から力が抜けたようで、体のラインがさらに緩やかになった。




 前と同じことをしているだけなのに、相手を意識するだけでこんなにも緊張してしまうとは思ってもいなかった。




 ……夢子を撫でる手を止めてしまった。春休み初日に聞かれたことを思い出したからだ。




 ――だから、私にどうやってお兄ちゃんが女の人を信じらるようになったのか、教えてほしい。




 きっと、俺は両親の離婚と母親との別れにケジメを付けたことで、女の人を()()()()()()()()と思い込んでいただけなのだ。




 本当はいつ嫌われるか分から無いことに怯えていて、だから真剣に向き合うことをしていなかった。「父さんが前を向いたから」だなんて方弁もいいところだ。




 俺は、父と時子さんを横で指を咥えて見ていて、これが本当の形等と達観した気になっていただけだ。中には何もない。空っぽの存在が新目文也という男の正体だ。




 受験前フラれたときもそうだ。俺はきっと、真剣ではなかった。もし真剣に好きだったのなら、浮気相手やあの子本人に腹が立って文句の一つでも出るのではないだろうか。




 そうでなければ、情けなくしがみついて「捨てないでくれ」とでも頼むのではないだろうか。




 それができると言うのが、真剣の証なのではないだろうか。




 男に対する感情をとことん還元していくと、俺の場合はやはり父に行き当たる。




 不器用だが、俺をここまで育ててくれた。もしかしたら俺の知らないところで母と父の間にはドラマがあったのかもしれない。昔一度だけ、父が家で泣いていたのを見たことがある。あれはひょっとして……。いや、話がズレてしまったな。




 仕事一辺倒で俺に構うことなどほとんどなかったが、それでも守られていた自覚はある。仮に、本当は邪魔で嫌いだったとしても父は俺を捨てないでいてくれた。だから尊敬しているのだ。




 それでは、女の場合はどうだ?




 ……やはりあんただ、母さん。俺の心の、深いところにいるのは。




 つまり、俺が本当に怖いことは嫌われることではなく、その先の結果である捨てられることだ。




 そして、俺は捨てられないために好かれるのではなく、関わらないことを選んでいたのだ。




 「ふっ」





 本当に、馬鹿馬鹿しいな。




 「……どうしたの?お兄ちゃん」




 夢子が訊く。突然吹き出して、不気味にでも思ったのだろう。




 「いや、どうにもしないよ」




 果たしてこの笑顔は、自嘲か決別か。




 「そっか。映画、面白かったね」




 「そうだな」




 再び頭を撫でてやる。




 「真琴に感謝しないとね」




 「あぁ、夢子のおすすめを教えてやれば、喜ぶんじゃないか?」


 

 「そうだね、何にしよっかな」




 クスリと笑うと、夢子は体を少し反らせて、背中を向けたまま俺に体を預けるような体制をとった。




 言葉は無かった。ただ、肌が触れて、そして。




 俺は、夢子を抱き締めた。




 夢子は何も言わなかった。もしかしたら緊張したのかもしれない。予想外の行動に混乱したのかもしれない。だが、抱きしめた俺の手に自分の手を重ねて、そしてぎゅっと掴んだ。俺にとって、それは何よりの答えだった。




 夢子の髪の匂いだ。甘く、こんなに甘い香りを俺は他に知らない。




 少し力を込めるだけで夢子の体はさらに俺の方へ引き寄せられる。こんなにも細く小さな体なのに、とても安心する。




 夢子の首元に唇で触れる。また少し、彼女の体が震えた。踏み込む勇気は、今はまだない。




 抱き締めて、時間がどれだけ経ったのだろうか。未だ五分程度しか過ぎていないようにも思えるし、もう何時間もこうしているような気分にもなっている。




 いつの間にか、緊張は消えていた。そして夢子の温もりを感じながら、俺は眠ってしまっていた。




 ……その日、見た夢の内容を、俺はきっと、生涯忘れないだろう。

次回も楽しみにしていてください。


評価するくらいなら簡単だと思うので、もし少しでも気に入ったらぜひ下の星を塗ってくれるととてもうれしいです!

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