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【完結】義理の妹が結婚するまで  作者: 夏目くちびる
第一章 春休み(文也の場合)
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感動

二話連続マン爆誕。

いつも読んでくださってるあなた、本当にありがとうございます。


 いつもの倍のスピードで走った。


 食った量が少な目だったからあっという間に燃料が切れてしまったが、人間は車と違ってここからも気合で走ることが出来る。俺のバイクも気合で走ってくれたらいいのにと思ったが、その理論で行くと車体がどんどん痩せていってしまうから駄目だとすぐに思い直した。


 線路沿いを走っていると後ろから電車が来た。競争のつもりで全力を出してダッシュしたが、あっという間に俺を追い抜いて更にその先に見える駅も通過していってしまった。どうやら急行電車のようだ。


 ……しばらくして俺の体力に限界が来た。気合ではもう動かない。疲れて倒れそうになったが、柵に手をついてそれを拒否すると、ゆっくりと歩いた。


 気が付けば家から随分と遠い場所へ来てしまった。無計画に走り出してしまうのは俺の悪い癖だ。


 パーカーのジッパーを開けてから、ポケットに手を突っ込んで歩く。息は既に整っている。さあ、歩いて帰ろう。


 ……家に着いたのは、二十一時を過ぎた頃であった。


 鍵を開けて中に入る。風呂場へ直行し、服を脱ぎ捨ててシャワーを浴びる。ボディーソープが尽きていたかたから詰め替えて、念入りに体を洗った。


 泡を流して脱衣所で体を拭いていると、扉の向こうから声を掛けられた。


 「三時間以上も走ってたの?」


 声色が少し暗い。


 「いや、遠くまで走って、そこから歩いて帰ってきた」


 そんなこと、夢子にとってはどうでもいいことだ。要するに心配をかけるなと言っている。


 「ふうん。誰かと会ってた訳じゃないんだ」


 「いや、そんなことはないけど」


 むしろ一人になりたくて仕方なかった。


 「お兄ちゃん、連絡来てたよ。女の人から」


 「見たのか?」


 見られて困るようなものはないが。


 「うぅん。画面に表示が出たのが見えただけ。スマホ、リビングに忘れて行ったでしょ」


 言われて、俺が今日音楽を聴いていなかった事に気が付いた。


 「そうだな、それで心配したのか」


 「別に心配してない」


 嘘だ。俺にもわかる。


 「さーやって誰?」


 「バイトの同期」


 夢子以外、時子さんと中根くらいしか女の連絡先を知らない。


 「そっか」


 換気扇のスイッチをオフにする。


 「今日は酒は飲んでないのか?」


 「飲まないよ。あれだって別にちょっと興味あっただけだし。次飲むのは大人になったとき」


 「それがいい」


 人生急ぐことはない。二十歳で出来ることは二十歳でやればいいのだ。


 服を着る。ドライヤーはしていない。……少し伸びてきたような気がする。


 夢子は扉の少し隣に寄りかかっていた。口を尖らせて俯いている。


 「おかえり」


 「ただいま」


 それを聞くと、不意に夢子が抱き着いてきた。


 「悪いな」


 思わず笑ってしまう。


 「別に心配してないってば」


 言葉とは裏腹に、夢子は俺の胸に顔を埋めて動かない。その態度に俺は「察しろ」という声を聞いたような気がして、だから黙って頭を撫でてやることにした。


 しばらくして飽きたのか、夢子は俺から離れて俺をリビングへ誘った。テーブルの上には一本のDVD。今流行りの恋愛物だった。


 「これ見よ」


 「いいけど、俺あんまり恋愛映画って見たことないんだよな」


 何なら邦画もあまり見ない。


 「面白いらしいよ。真琴におすすめされた。すごく感動するんだってさ」


 なるほど。あいつも中々ギャップの多い子だな。


 こんなもので泣けるものかと思ったが、大人しく夢子の隣に座ってそれを見ることにした。


 ……結論から言えば、俺は泣いた。しかも号泣だった。


 物語は割と王道で、主人公の男の子が不治の病にかかりながらもヒロインと恋をして、最後にはヒロインと死をもって離れ離れになってしまうという、掻い摘んで言えばただそれだけの話だった。


 物語終盤の雰囲気から割とやばかったのだが、最後にヒロインが泣き崩れるシーンで涙腺が爆発。ぽろぽろと涙を流してしまった。ちなみに夢子はそんな俺をみてもらい泣きしていた。


 あぁ、面白かった。冷静になって考えてみれば色々と突っ込みたくなる部分はあるのだが、やはり物語自体が面白いとそういう些細な部分は気にならないものだ。


 「お兄ちゃん、泣きすぎじゃない?」


 ティッシュで涙を拭きながら夢子がそう言った。普通に考えて恋愛映画を見て号泣する大学生(予備軍)を見れば気持ち悪いと思いそうなものだが、意外にも彼女はそうではないようだ。


 「まあ、いい映画だったからな」


 泣いたのは、随分と久しぶりの事だ。


 余韻も薄れて、時刻は間もなく零時。子供はとっくに寝る時間だった。


 歯磨きを終わらせて、ついでにトイレも済ませておく。そういえばと思い出してスマホを見ると、中根からの連絡があった。訳の分からんスタンプが送られてきているだけだったから、俺は特に反応をしなかった。


 「それじゃあ、寝ますか」


 うん、と頷いて夢子は俺のシャツの裾をつまんだ。エスコートしろということなのだろうか。


 リビングの電気を消して階段を上がる。自分の部屋に着くと、夢子は先にベッドへ潜り込んだ。壁際が好みのようだ。


 後を追って俺もベッドへ入る。布団と毛布の隙間に入ると、深く深呼吸をして目を閉じた。

次回も楽しみにしていてください。

評価するくらいなら簡単だと思うので、もし少しでも気に入ったらぜひ下の星を塗ってくれるととてもうれしいです!

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