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6.一筋の光明

 川のほとりでメタリックな鈍い輝きのボディーをぷるぷると揺らし、彼(たぶんオスだと思う)はそこに佇んでいた。

大自然の中に、その異彩を放つ色彩はとても溶け込んでいるとはいえず違和感が際立っている。

 一方で私はというと、近くの茂みに隠れながら気配を殺して限界まで近づき、もう一歩で攻撃範囲に入るというところだった。


 チャンスは一度しか無い。そして勝負は多分一瞬で決まる。

 あのモンスターに次いつ会えるかなんて分かったものではない。

 絶対にモノにしてみせる。私は意識を集中し、そして。勢いよく、飛び上がった。


 空中でできる限り縦回転する。

 自らの身体をタイヤのように回転させ、地面に設置した瞬間。

 私は彼に向かって、弾かれるように体当たりを繰り出した。


 そう、作戦というにはお粗末すぎる作戦。“ただ体当たりをぶちかます”というものである。

 しかし、この作戦は私にしかできないのだ。相手の大きさが自分と同じ、もしくはそれ以上でないと、“体当たり”なんて技は使えない。

 人間が自分より遥かに小さな相手に体当たりを使ったとしても、まず当たらないのだ。


 しかし私はスライムだ。この体当たりは、先制攻撃であればまず間違いなく当たる。

 想像して見て欲しい。相手が自分と同じサイズであり、相手が気づいていなければ。

 例えば、電車のホームから相手の背中を押して突き落とすくらいは。

 その意志さえあれば、容易いのだ。


『ガキンッ!!』

「ッ!??」


 硬い衝突音。体当たりをかました、こちらの方がダメージをくらったらしい。

 だが、体当たり自体にダメージは必要ない。狙いは、追加効果にある。


 もし自分が手足がある生き物であれば、爪で斬りかかる、手で殴る、足で蹴る、武器を使う。

 まずはそういった攻撃手段が浮かぶだろう。でも、私には手足がなかった。

 だから体当たりしか使えなかった。体当たりしか使えなかったからこそ、その特殊性に気がつくことができた。


 ありったけの<回転移動>から発生する体当たり。

 そこには追加効果が発生する。それは、ノックバック効果である。


『バシャーン!!』

「――ッッッ!!!」


 メタリックな彼が弾かれた先は川の中。

 予想通り、その質量は一度沈めば簡単には浮かんでこられないほど重いことが、体当たりした感覚で分かった。

 地面に生き埋めにしてダメージが入ることが分かっている以上、それは川の中でも同じはず。

 だから、私はそこに確実性を増す。


 彼は、その重さゆえほとんど川の流れに流されていなかった。

 狙いやすくなって好都合だ。彼が浮き上がってきそうになったら、使ってやれば良い。

 <道具入れ>から岩を大量に!


『バシャーン!』


 なんとかもがいて水面に顔を出そうとしているが、その都度私が岩を使って彼を川底に追い返す。

 それを何度か繰り返したあとだろうか。

 ついに力尽きたようで、水底にいた彼は経験値石に変わった。

 おお!? やっぱりすごい量だ……えっ、待って石が流されてない!? ああーっ!


 川底の石が、流れにそって下流の方向へ運ばれていく。

 私は、不得意な水泳を余儀なくされ、再び川に飛び込む羽目になった。


『経験値を獲得しました。経験値を獲得しました。経験値を――』





 はい、おはようございます。

 すっかり日も暮れて夜になったというのに、私は今、夕刻頃に目覚めた河原にいる。

 川底で敵を倒してしまったら経験値石がどうなるかまで、考えが回らなかった。

 いやだってさー、倒す方法がこれくらいしか思いつかなかったんだもの。

 なんとか経験値石は全部拾えたから良かったものの……。


 あたりもほとんど真っ暗だった。幸い今夜は満月で、視界は確保できているのが救いだ。

 でもね、ただ元の位置に戻ったわけじゃない。転んでもただでは起きない。

 凄いんだよ、これが。見てくださいこのステータスを! じゃーん!


『種族名:スライム Lv.8→15(Max) 固有名:なし 性別:女 状態:正常


HP 33/41 → 80/80

MP 22/26 → 48/48

筋力 F+ 敏捷 E 器用 F 知性 G 精神 F SP4→11

魔法  <麻痺魔法>Lv.1     

スキル <捕食>Lv.1 <早熟>Lv.1 <回転移動>Lv.3 <酔耐性>Lv.1 <鑑定>Lv.1

    <気配感知>Lv.1 <道具入れ>Lv.1 <策略家>Lv.1 <恐怖耐性>Lv.1

    <痛み耐性>Lv.1 <無謀な挑戦者>Lv.1 <水泳>Lv.1』


 なんと一気にレベルが7つも上がったのだ。

 あのメタリックな彼はレベルいくつだったんだろう?

 SPも貯まって嬉しい尽くしだぜ! いやっほう。


 水の中でもがき続けた結果か、<水泳>なんかもゲットした。嬉しいような複雑なような、微妙な気分だけどね。

 そしてSPが溜まったことでやっと、取りたかったスキルをとることができる。

 そのスキルは、<HP自動回復>。

 ……うん? 予想通りだって?


 いやいや。読んで字の如くだけど、このスキルめっちゃ強いと思うのよ。

 貴重な薬草くらいしか回復手段がないんだもん私。SPを10ポイントも使ったとしても、これがあれば攻撃を避けさえすれば長期戦だって耐えられる。


 これは傷持ちの銀狼戦で学んだことだけど、相手が何をしてくるか分からないときは慎重にならざるを得ない。

 そしてそれは格上が相手の時だけではない。だってそうでしょう?

 明らかに自分よりステータスが低いやつが襲ってくるということは、策があるか……よっぽど頭が悪いかのどちらかだ。

 あの銀色の狼はちゃんとそのことを分かっていた。だからクソ雑魚の私相手でも容赦なくトドメを刺しに来た。

 ……いや、後者だと思われてたら笑えないんだけど。


 ともかく。回復手段があれば勝負を焦ることはなくなるわけ。後は<鑑定>スキルが成長すれば言うことなしなんだけど。

 と、まぁスキルやステータスに関しては概ね良好といえる。

 問題は、レベルの横の表記。カッコしてMaxとか書いてあんのよ……。

 レベル15程度で上限になるとは思っていなかった。まさかこれで成長打ち止め?

 渋い顔でそんなことを考えている時だった。唐突に、私の頭の中に例のアナウンスが響く。


『レベルが上限になりました。個体、“スライム”の進化が可能です。』


 おっ、マジで? そんなシステムがあったんだ。良かったー。

 けど、そんなもん進化しない選択肢ないんじゃないの?


『進化すると、各ステータス及び成長率が上昇しますが、レベルは1に戻ります。進化を実行しますか?』


 あー、一応レベルが下がるデメリットはあるのね。

 周りの環境によって進化できるかどうか考えないといけないのか。

 例えば、場所が強い敵ばかりがいるダンジョンだったりしたら進化してレベルが下がるのは命取りになってしまうと。


 逆に今回みたく、周りに大した敵もいなさそうな場合は大きなデメリットはないといえるわけだね。

 じゃあ早速、進化する方向でお願いします!


『進化を開始します。』


 私が進化を望んだ瞬間。身体が光り、それと同時に眼の前が真っ白になる。

 しかしそれも一瞬で、気がつけばまた元の風景が目の前に飛び込んできた。

 月明かりの淡い光に照らされ、私は新たな姿で河原に降り立った。


『進化が完了しました。進化に伴い、<変形><硬質化>のスキルを取得。進化ボーナスにより、<鑑定>のスキルが成長しました。』


 お、おお? マジで?

 進化、美味しすぎるな。新しいスキルが2つに、ボーナスまでついてくるなんて。

 あ、そういえば進化して見た目はどうなったのかな。

 私は水辺まで移動し、水面に移された自分の姿を確認してみた。青い半透明だった身体は、紫色に。

 そして、サイズが一回り大きくなったようだった。続けてステータスを開いてみる。


『種族名:ハイスライム Lv.1 固有名:なし 性別:女 状態:正常

HP 40/40

MP 24/24

筋力 E 敏捷 E 器用 F 知性 F 精神 F SP1

魔法  なし     

スキル <捕食>Lv.1 <早熟>Lv.1 <回転移動>Lv.3 <酔耐性>Lv.1 <鑑定>Lv.2

    <気配感知>Lv.1 <道具入れ>Lv.1 <策略家>Lv.1 <恐怖耐性>Lv.1

    <痛み耐性>Lv.1 <無謀な挑戦者>Lv.1 <水泳>Lv.1 <HP自動回復>Lv.1

    <変形>Lv.1 <硬質化>Lv.1』


 え、ちょっと待って。レベル1に戻ったわりに随分強くない?

 進化前のレベル1のときはステータス全部Gランクだったよね? マジかよ。

 下がったといえば敏捷値くらいなんですけど?

 知性と精神なんかは成長しちゃいましたし。

 なに? うっかり同レベル以下のやつに喧嘩売って、相手が進化済みだったりしたら。

 私が銀色の狼にボッコボコだったのはそういうわけなの?


 それとも、進化してレベル1に戻るといっても元の私が弱すぎたからこんな感じなのかな。

 いかに“スライム”という種族が不遇だったかがよく分かった。

 ちょっと進化というシステムがぶっ壊れている気もするけど……。これはスライムとかいう最弱種族でレベル上限までたどり着けたご褒美なのかもしれない。


 この時、私はこの理不尽な世界に対抗しうる唯一の武器が、進化であるということを理解していた。果てしないと思っていた頂点に向けて、一筋の光明が見えた気がする。


 あ。

 待てよ。さっき、<変形>スキルを得たってあったなぁ。

 これまでも少しなら身体の形を変えられたけど……もしかして。


 グネグネと、私は身体を変形させようとしてみる。

 お、おお……? すごい。これすごいかもしれない!


 今まではちょっとつぶれたり伸びたりとか、ある程度“球体”を保った変形しかできなかった。

 だけど今は、四角くなったり円柱型になったり、限界まで平べったくなってみたりと、ものすごく融通が効く。

 もう一個の<硬質化>と組み合わせればかなり応用が効きそうだ。

 あ、顔の形なんかも変えられたりして。早速やってみよう。


「ピ……ピギ……?」


 え、待って私声出てない?


『口を形成したため、発声することができるようになりました。』

「ピ! ピィ!」


 や、やったぁ! なんか言語はしゃべれないけど、とりあえず発声できるようになったぞ!

 ちょっとだけ人間に近づいた気がする。今まで目しかなかったもんなぁ。

 進化をしたことで、ますます希望が見えてきた。

 もう最弱種族とは呼ばせない。見てなさいよ、全員追い越してやるからね! 

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