表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/15

2.正攻法などクソ喰らえ

 ぶつかった木を背にして狼と向かい合い、改めて相手を観察してみる。

 奴は殺意むき出しの銀色の目を光らせて、灰色の毛を揺らし涎を垂らしながら私のことを威嚇していた。

 きっと久々の獲物なんだろう、よく見るとガリガリだ。

 チラリと見えた牙がやたらと鋭く、思わず息を飲んだ。うげぇ、噛まれたら痛いじゃ済まないだろうなぁ。


「グルァッ!!」


 ――来る!

 狼が低い姿勢から地面を蹴り、その牙で私を喰らわんと飛びかかってくる。普通に逃げても牙の餌食。

 ギリギリまで引きつけて……今ッ!!


 私は奴の牙が眼前まで迫った瞬間、自らの身体を目一杯背にある木に押し付けた。

 今の私はスライム。転がっていたときに気がついたが、基本丸い体みたいだけどある程度は柔軟性があるらしい。

 筋肉みたいに力を込めれば、その部位が少しは固くなる。

 ある程度変形ができて、弾力があって。そんな私が壁に体を押し付ければ……弾かれるッ!!


『ガブッ!!』

「ガァッ!?」


 さっきまで私がいたところに、狼が鋭い牙をたてて噛み付いた。

 その鋭さが災いして、牙が木の幹に食い込んで狼は動けなくなってしまったようだ。牙を引っこ抜こうとじたばたしている。


 ……お、おお? これチャンスなんじゃない?

 とにかく、やるなら今しかない。ふぬーっっ!!


『ドム! ドム! ドム!!』

「……!!」


 私は狼の後ろに回り込むと、がむしゃらに体当たりを繰り出した。

 体当たり! 体当たり! 体当たり!! ……いやそれしかできないんだって!

 残酷かもしれないが、やらなきゃやられる状況だ。今の私に余裕なんてない。何せ今は最弱モンスター。正攻法なんてクソ食らえだ!


 そして、何発目の体当たりなのか数え飽きた頃。


『ベキッ!!』


 は? 何、今の音は。

 嫌な予感がしたので慌てて距離をとると、狼が噛み付いていた木の幹が割れてしまったらしいことが分かった。ゆっくりと奴がこちらを振り返る。

 え? これまずいんじゃないの?


 狼はよくもやってくれたな、と言わんばかりに私のことを睨みつけている。

 その鬼気迫る迫力に思わず後ずさってしまうが、ここで背を向けるのは得策ではないように思った。


 というのも。格上相手に逃げ切れるとも限らず、よく見れば息も絶え絶えで、見るからに弱っているのが分かったからだ。

 あと一撃、渾身の一撃を加えれば勝てる。

 なんとなく、そんな気がした。


「ガァッッ!!!」


 狼が最後の力を振り絞り、私にとびかかってくる。

 最初の勢いと比べればスピードもかなり見劣りするし、怖さもない。これならいける!


 奴のお腹の下に潜りこんで躱してやろう……と、ここで私は慢心していた。悪い癖だ。昔から、勝利を確信するとすぐ油断してしまう。


『チッ!』

「――ッ!!」


 いくら相手が弱っていても、元のスピードが異なる。

 例え有利な状況でも、今の私は最弱モンスターであるということが頭から抜け落ちていた。


 躱すのが一瞬遅れ、奴の爪に少しかすってしまったのだ。

 致命傷にはならなかったとはいえ、残りHP、一ポイント。

 ギリッギリだ。かすっただけで瀕死。痛い。痛い。でも、まだ動ける。


 痛いなんて言っていられない。ここで動かなきゃ死ぬ。

 死ぬことに比べれば、これくらいの苦痛はなんてことないはずだ。


 爪による攻撃を掠められたものの、狼の身体の下に滑り込むことに成功した私は自らの身体を限界まで押し縮めた。

 スライムの身体の弾力を利用して、思い切り地面を蹴る。

 私は奴の下腹部をめがけて、渾身の体当たりをお見舞いした。


 相手がオスでさえあれば、必ずそこには生物の急所がある。喰らえ!


『ドスッ!!』

「~~~ッ!?」


 脳天に感じるのは、何かが潰れる嫌な感触。それと共に、狼の声にならない断末魔が響いた。

 私に弾かれるように、狼の身体がふわりと一瞬浮く。

 そして、地面に足がつくと同時に、奴は崩れ落ちた。真下にいる私は潰される形になる。


 うわっぷ、やめて!


 そして訪れたのは、しばしの静寂。や、やった……!?

 奴の腹の下からなんとか這い出て、ふらふらしながらも様子を確認する。

 どうやらまだ死んではいないようだけど、狼は気を失っているようだった。


 ……あ、今ならいけるんじゃないの?

 私はステータスを確認する。そこにあるのは、<捕食>という文字。

 使用条件は不明だけど、捕食というからには対象を食べるスキルに間違いない。

 少し可哀想な気もするが、ここで見逃す理由もない。

 私も死にそうになったんだ。心を鬼にして……いただきま~す!





 うん、結論から言うね。

 なんかすげーグロかった。

 <捕食>のスキルはどうやら『使う!』と思って対象に触れたりすると発動するらしい。

 自分の半透明の身体が対象を包み込み、徐々に溶かしていく。


 相手が絶命した瞬間、光の玉となって死体は消えたものの。

 途中まではなんか骨とか中の筋肉とか見えてたし。しかも溶かすのに数分もかかってしまった。

 おそらくだけど、相手が気を失うとか瀕死でないと使えないだろうな。


 だけど、<捕食>を使ったことで空腹は満たされたようだった。妙な満腹感がある。

 声帯どころか口も無いスライムがどうやってものを食べるのかと思っていたけど、なるほどこうするんだね。


 狼の死体が消えた代わりに、死体があった場所に何やら青い宝石のようなものと小さな袋みたいなものが落ちていた。

 宝石に触れると、触れた瞬間に宝石はぼんやり光って私の身体に吸収されていく。

 そして、次のアナウンスが頭の中に流れた。


『経験値を取得しました。

レベルが1→2になりました。SPを1獲得しました。

レベルが2→3になりました。SPを1獲得しました。

レベルが3→4になりました。SPを1獲得しました。

新しいスキルが獲得できます。』


 どうやら、あの宝石は経験値を獲得できるらしい。

 いきなりレベルが3つも上がったのは<早熟>の効果だろうか?

 レベルアップに伴って、怪我も治った。

 うんうん、これは頑張って敵を倒したご褒美だよね。


 SPってのはスキルポイントの略だったのか。新しいスキルを取れるというし、後で確認しないとね。

 ……そして、気になるものがもう一つ。

 私は落ちていた小袋の口を広げ、中身を確認してみた。


 中には見たことのない硬貨と、獣の皮だろうか。

 触れると、また次のイメージが浮かんできた。


『16ジル』

『獣の皮(並)』


 うーん、なるほど。

 予想では、多分この世界の通貨は“ジル”というんだろう。

 獣の皮の方は用途がよく分からないけど……。一応持っていこうかな。

 いつか使えるかもしれないし。


 でも、どうやって持っていこう。

 小袋っていっても私の身体と同じくらいのサイズ感だし、骨が折れるなぁ。私、手ないし。

 どうしたものかと頭を悩ませていると、脳内にまた例のアナウンスが響く。


『初めてアイテムを取得したので、スキル<道具入れ>を習得しました』


 そんなのあるの? と思うのもつかの間。眼の前の小袋が消えてしまった。

 えっ、どういうこと!? 私のお金は!?

 ……と思ったら目の前にお金が出てくる。もしかして自由に出し入れできるスキルなのかな。

 また念じるとお金が消えた。


 ゲームでよくある、インベントリにアイテムをしまっておくシステムらしい。

 手足がない私にとって、これは非常に有り難かった。遠慮なく使わせてもらおう。


 あ、そういえばレベルが上ったけどステータスはどうなっただろうか。



『種族名:スライム Lv.4 固有名:なし 性別:女 状態:正常

HP 1/8 → 22/22

MP 2/2 → 12/12

筋力 G 敏捷 G+ 器用G 知性G 精神G SP 0 → 3

魔法  なし                  

スキル <捕食>Lv.1 <早熟>Lv.1 <回転移動>Lv.1 <酔耐性>Lv.1 <道具入れ>Lv.1』


 う、うわー。

 スキルこそ増えたけど、HP・MP以外の能力なんにも変わってないんですけど?

 身体はなんとなく力強く、軽くなったようなような気がするけど……。

 些細な変化ぐらいじゃあ、GランクはGランクってことか。


 ……どうせ、Gランクが最弱なんだろうなぁ。

 ふ、ふん。別にいいし。

 私みたいな頭脳派はスキルで工夫していくんですよーだ。


 ところで、魔法が『なし』になってるってことは取得もできるってことだよね。

 魔法、使いたいなぁ……。

 だけど、知性とか精神がGランクの私ってどうなんだろう……やめた方が良いのかな。


 ぐぬぬ、と悩みつつも取得できるスキル一覧を表示してみる。

 転生時と同じく、どうやらスキルは数字に応じてとれるものが決まっているらしい。

 有用そうなものは当然ながら必要ポイントが多かった。

 <HP自動回復>10ポイントって……3しかないんですけど私。

 

 ちなみに魔法はというと、炎・水・風・土・光・闇の六属性が基本で、毒・麻痺とかの状態異常系は別枠みたい。

 取得は……こちらは5ポイントから。うーん、足りない。


 一人で幾分か悩んだあと、私はあのスキルを取ることにした。

 そう、<鑑定>。

 2ポイントも必要だけど何かと情報が足りなすぎるし、役にたたないということはないハズ。


 というわけで早速気になってたあの項目に使ってみよう。<鑑定>!



『<捕食>

選択した対象を食べることができる。ただし、対象のHP割合が一定以下でなければならない。

<早熟>

獲得経験値が増加し、また成長効率が増す。

<回転移動>

移動時に身体を回転させて移動ができ、速度が増す。

<酔耐性>

ステータス異常:酔い状態に耐性を持つ。』


 う、うん。目新しい情報はなし……か。だけど<早熟>がハズレスキルじゃなくて良かった。

 持っていたスキルも大方予想通りだね。


 あっ、<鑑定>をその辺の草とかに使ったらどうなるかな。


『雑草。』


 ……。いや、せめて名前くらい表示しようよ。

 雑草ってお前。そんなの見れば分かるわ。

 アレだよ、私みたいな玄人はポイントに頼らなくても、行動次第で取れるスキルに頼るのサ。

 ……断じて負け惜しみじゃないよ、ホントだよ。


 <鑑定>もレベル1って表示があるし、バンバン使ってレベルが上がるのを祈るしかない。

 そしたら今よりはマシになるはずだもの。多分……。


 それで、だ。

 これからは自分の長所を伸ばすことにしようと思う。

 なんでかって、唯一自分のステータスで敏捷がG+とマシだからなんだけど。

 素早くなれば先手もとれて、逃げやすくもなるし。

 ついでに敏捷値に依存する攻撃の威力は増しそうだし。一石三鳥でしょう?


 行動次第でスキルが増えるということは、能力値も行動に依存してくると思うんだよね。

 物理攻撃ばっかりしてたら、筋力が伸びる。敵の攻撃を受け止めていればHPが伸びる。みたいな。

 この世界はその手のシステムで間違いないと思う。


 というのは、この世界が私が好きなMMO-RPGにシステムが酷似しているもんだから、そう思うだけなんだけど。

 私みたいなクソザコモンスターが生き残るとなれば、努力次第で伸びしろがあるのは非常に助かることだった。

 レベルに依存して能力値が固定だったらつまんないもんね。

 それこそ本当に詰んでいたところだ。


 はぁ、しかし……私がこうして考え抜いてスキルを取得してる一方で、初期ポイントがアホみたいに多いやつらは最初から全部取得できるのか……。

 何だかずるいなぁ。


 ポイントが余ったので、消費が一ポイントの中で比較的便利そうな<気配感知>も取っておいた。

 勝てないモンスター相手に逃げ出す際、きっと役に立つ。

 こればっかりは使ってみないとわからないけどね。


 さて。あらかたレベルとかスキルとかの概念がわかってきたところで、次にすべきことなんだけど。

 冷静になって考えれば、私は今右も左も分からない森の中にいるわけなんだよね。


 いかに今はモンスターの姿といえど、当然疲労はたまるし、森のなかに宿屋とかお店があるわけでもなし。

 拠点的なものがないと狩りもままならないだろうなぁ。

 サバイバルの基本は、衣・食・住の確保だってよく言うけど。


 衣はモンスターだから裸でもまぁやむを得ないとして、問題は食と住だよね。

 私には<捕食>があるから案外食べもの問題もなんとかなるかな?

 そうなると、残りはじゅう。……手頃な住処を見つける必要があるよねぇ。


 今日一日はそれに費やすことになりそうかな。やれやれ……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ