vol,3
出口を出た瞬間。
辺りの時間が止まった。
何が起こったのか、オレには、わからない。
空から黒き翼が、ひらひら落ちてきた。
「何だ?羽根…?」
どこからか、男の声がした。
「何年ぶりの人間界…だ?」
男の姿は、緋色の目、碧き髪、その頭の上には、角、背中には、黒翼、最後に尾。その姿は、先ほど本で読んだ人物、天界の鴉にそっくり。
そんなオレに気が付いたのか、彼は、こちらに来た。そして、オレを不思議そうに見た。
「貴様…、なぜ動ける?」
(俺が聞きたいよー。それ。)
「………。」
何も返答できない。自分が何者かわからないからだ。男は、オレを上から、見下しながら、何かを思い出した。
「まっまさか…、蒼獣なのか?生きていたのか!?」
(蒼獣?それは、カミサマが最も愛した者の一人。何故、オレを見て、それが出てくる?)
オレは、パニックになった。気が付くと、走っていた。しかし、男は、オレの真横を余裕そうに飛んできている。
「どうして逃げる?」
「貴方は、ハァハァ、オレを殺しに来たのでしょう。ハァハァ。」
「なっ、いや…。勘違いさせたなら、すまない。俺は、ケイスケを助けに来た。」
「何を言ってるんですか!?」
「本当だ。だから、逃げることはない。」
その言葉にケイスケは、足を止めた。息は、それほど乱れてはいない。
ケイスケが足を止めたことを確認すると、男は、話し始めた。
「まず、勘違いをさせて悪かった。俺の名前は」
「天界の鴉、ゼロ…。」
「知ってたのか。なら話が早い。神話のことは、知っているな。」
ケイスケが頷いたことを確認すると、ゼロは続けた。
「人間界の蒼獣とは、ケイスケのことだ。」
「えっ?しかし、蒼獣は、死んだんでは?」
「あぁ…。ケイスケは、死んだ。」
「そこで神は、死を与えたことを後悔した。しかし、死んだ者は帰らない。神には、ある技術が有った。そうして造られたのがケイスケ。」
「じゃあ、オレは何なんだ!?」
感情が高ぶる。自分は何なのか?造られたとは、どういうことなのか…。
「じゃあ俺は何なんだ!?」
押さえられない。この感情…。確かにすべての生き物は、カミサマが生み出した。しかし、オレは、生み出されたのではなく、造られた。オレは、真実が知りたかった。
「アンドロイド。そして神は、月光乃ケイスケというアンドロイドを回収しようとしている。」
「オレがアンドロイド…!?」
理解できない、いや、理解したくない現実。今まで自分は人間。それが当たり前だと思っていたことが、すべて違った。しかも生き物でもない。機械。
ならば今、見えている、この皮膚は何なのか…。
考え始めたら、すべてがいやになる。とにかく今は、自分の疑問をぶつけるより、彼が話していたことの疑問をぶつける。
「どうして、神は、オレを回収しようとしているんだ?」
「ケイスケとオレを使って、世界を滅ぼして、新たな世界を創りだそうとしているんだ。そのためには、かつての同士が必要なんだ。」
「じゃあ、ゼロは、オレを回収しに来たのか?」
「いや、それをやらせないために、今、俺は、ここにいる。」
「ゼロ…。オレ…。カミサマを止めたい。」
「その言葉を待ってたんだ。力を貸そう。」
「でも…。」
「?」
「神を裏切ることになるが?それでもいいのか?」
「何を言ってるんだ。俺は、人間界に来たとき、すでに任務をするつもりはなかったんだから。心配するつもりないんだ。」
ゼロは、ケイスケに笑顔を向けた。
そして、辺りの時空切断の結界を解いた。