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桜舞う瞬間⦅とき⦆に  作者: レイ
桜舞う瞬間に
2/9

後遺症


キーンコーンカーンコーン。

学校のチャイムが鳴り響く。


6限目の授業が終わり、特に部活にも入っていない僕はさっさと帰宅をすることにした。正門から帰る方が自宅へは近いが、当然のように裏門を使った。裏門にはあの薄紅色の花はない。木々達がただ葉を茂らせて静かに佇んでいる。他に珍しいものや目を奪われるようなものは何もない。それだけだ。それだけなのを心地よく感じながら、僕は自分の家に向かって歩き出した。



「ただいま」

 帰宅して一応声を掛けたが、返事はない。両親は2人とも働いていて、夜遅くまで帰ってこないことが多い。玄関で靴を脱いで、自分の部屋へ入り、鞄を机の上に置く。制服から適当なシャツとジーンズに着替えてから、リビングへ行ってソファで寛いだ。


誰もいない家で、スナック菓子を食べつつなんとなく惰性でテレビをつける。

「――では、明日の天気をお知らせ致します。明日は晴れのち曇り。最高気温は二十五度。全国的に暖かくなるでしょう。桜は今週が見ごろのピークになりそうです」


アナウンサーが天気予報を告げた後、画面いっぱいに満開の桜の様子が映し出された。どこかの公園だろうか。風に揺れる花を見て人々は目を細めて嬉しそうに桜に見とれている。


ピッ。

僕は素早くテレビを消した。

「はあ…」

溜息は誰もいない部屋で重く響いた。

テレビを消しても桜の様子が頭に残って離れない。

映像がじわじわと思考を浸食してきて、僕の心をざわざわとかき回す。

 

さくら。花びら。桜。満開の…。

嫌な単語が蛇のようにうねり、僕の体を這いずっていく。

キーーン。微かな耳鳴りとめまいがし始め、僕はソファの背もたれに身を預けながら目をつむった。まともに立っていられなくなり、目を閉じてじっとしていると渦をまくような闇の中に、あの薄紅色の花びらが、ひらひらと舞っているのが見えた。


「くそっ」

僕はテレビのリモコンを叩きつけるように、サイドテーブルへと放った。ガシャンという音が耳障りでそれが余計に僕を苛立たせた。


(…シャワー浴びよう)

頭を振ってソファから勢いよく立ち上がり、僕はシャワーを浴びにリビングを出て行った。とにかく何かをしなければ。頭からあの薄紅色の花を消したい。頭から冷たい水を被り、さっきの映像を体から遠ざけようと僕は必死に努力した。


三十分ほどしてやっと気分が落ち着き始め、今度は夕飯の準備に取り掛かる。キャベツ、人参、玉ねぎを適当な大きさに包丁で切って、油をしいたフライパンに入れる。強火で野菜を炒めて、簡単な野菜炒めを作った。炊飯器からご飯をよそい、冷蔵庫にあった梅干しと納豆を出してテーブルに並べる。僕はもくもくとそれを食べて、食べ終わった食器を片付けた。


さて、どうするか。

夕食後はいつもテレビを見ながら、だらだらと寛いでいるが、今はもうそんな気分にもならず、すぐに自分の部屋に戻った。

 自分の部屋にいてもやはり落ち着かず、とりあえず課題でもやろうと思い立つ。どのみち明日が提出期限だから今日までにやらないといけないものがあった。


「プリントどうしたっけ」

僕は授業中に出されたプリントを鞄から探りだした。教科書を見ながら問題を解いていく。途中分からないところは、高須にでも明日聞こうと思い、飛ばしていった。

もくもくとシャープペンを走らせ、1時間ほどで八割方プリントは埋まった。分からないところは教科書を見て考えてみるが、公式が詰まった数学の教科書を見ていると次第に眠気が襲ってくる。


「明日授業までに高須に聞けばいいか…」

高須は他の科目は平均並みだが、数学だけは飛びぬけて成績がいい。腹の立つことにあまり勉強しなくても何故だか数学だけはすぐに理解ができるのだ。  

 

(ああいうのをセンスがいいっていうんだろうな)


「……」

時計を見ると二十三時を過ぎていた。

(眠い。あとは明日にしてもう寝るか)

重くなってきた瞼に抵抗するのを止めて、僕は自分のベッドに寝転がった。

体を横に倒すと最近寝不足のせいもあり、すぐに睡魔が襲ってきて僕の意識は途絶えた。

 


 

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