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3回目~

 親に連れられたお袋の実家。

 ついに最後の日となった。

 こちらに来てからというものの、何か特別なことがあったわけではない。確か、お祭りに行ってきたが、何をしていたか記憶が曖昧だ。

 だからきっと、その程度のことだったのだ。


「あーやる気でねー」


 畳に寝転がったまま無駄な時間を過ごしていく。

 家に帰るとすぐにテストが待っているが、やる気が起きない。

 こっちに来て結構な時間があったはずなのに、勉強をした記憶がない。今のままなら、テストがヤバイことになるだろう。

 それでも暇を持て余している。

 何気に今日はいつもに増して暇なような気がする。こちらに来てから色々とイベントがあったはずだ。

 公園、買い物、お祭り……誰かと一緒に遊んだ気がする。誰だったか覚えていない。何故だろうか。

 いつもなら、お袋が俺を呼び出して買い物へ行けって押し付けてくるはずだ。

 なのに、今日は静かなものだ。気になって1階へ降りてみる。


「なー、お袋。今日の買い物は大丈夫か?」

「今日は雨だから、お隣の伊藤さんと一緒に行ってきたわ。やっぱり車でいけるのは楽でいいわねー」


 いつもはここで買い物をメモするところなのだが、今日は買い物が無いのか。

 何気なく、いつも使っているスマホのメモアプリを起動する。今日は別段用事があった訳ではないはずだ。


8月17日

・必ず思い出せ

・名前「矢国やくに 澄子とうこ

・年齢「17歳 高校2年生」

・誕生日「7月10日 かに座」

・身長「150cmくらい」

・体重「秘密」

・髪は白髪のセミロング

・身長の割りに大人びている

・親友、友達以上恋人未満

・―――


 知らない女性のプロフィールがぎっしり書かれている。こんなストーカーまがいな事をしていたのかと、自分の人格を疑う。

 実家に連れて来られてからのことだろうから、何をしていたか分からない。

 夢遊病者よろしく知らず知らずに情報を集めていたのか?

 読み進めていくと、プロフィール以外のことも書かれている。


 ここからは赤い大文字で書かれている


・16日に撮った彼女の写真がある。絶対に確認しろ。

・彼女は3日ごとに記憶から消える。

・忘れるな。

・彼女と会え。

・絶対にいつもの時間、いつもの場所へ行け、絶対だ、忘れるな。


 このメモは間違いなくストーカーのそれだった。

 実は二重人格で影でこんな事をしていたのだろうか。それはちょっと洒落にならない。

 ただ、気になることがあった。

 誰かと遊んでいたような気がする。誰かは思い出せない。もしかしたら、このメモの人物かも知れない。それでも、こんな意味の分からないプロフィールを書くものだろうか。

 もしかしたら、一緒にいた女性の事だろうか。

 メモに書かれていた16日の写真を見てみる。


 そこには綿菓子をかぶりつく女の子が写っていた。その姿は身長と相まって子供のようで、楽しそうにしている。紺色のワンピースが可愛い。しかも、俺の好みにジャストヒット。

 そこも重要だが、写真の彼女は総白髪だ。こんな一目見たら忘れそうに無いはずなのに、思い出せない。

 メモに書いてあった「絶対にいつもの時間、いつもの場所へ行け、絶対だ、忘れるな」という一文が気になる。

 もしかしたら会えるのではないかと思ってしまう。

 時間は16時を過ぎている。いつもの買い物の時間を考えれば随分と時間が経っていた。それでも一応、いつものバス停に行ってみようかと考え始めた。


 俺は傘を差しながら、バス停を目指す。

 我ながら何をしているのか良く分からない。こんな雨の日にわざわざ行く必要なんて馬鹿にも程がある。

 だが、下心はある。写真に写っていた彼女は俺の好みだった。出会えるのなら、一度見てみたい。あわよくば、会話とか交わしちゃったり、携帯の番号を交換しちゃったりして。

 欲が溢れ出していた。


 案の定、バス停に彼女はいなかった。

 彼女の代わりにベンチに座っていたのは杖を持った白髪交じりで背が曲がったお婆さんだった。このお婆さんとはどこかで出会った気がした。


「お婆さん、ここに女の子がいませんでしたか?」

「知らないねぇ」


 やはり、時間が遅かったから出会えなかったと考えるのが自然だ。もしそうなら、悪いことをしてしまった。

 突然思いついた事があった。このお婆さんはこの辺りに住んでいるだろうから、彼女のことを知っているかもしれない。


「もう1つ、総白髪の女の子知りませんか?」

「さぁ? 覚えがないねぇ。白髪の子なんて見たら忘れないと思うけどねぇ」


 やっぱり、彼女の手がかりは無い。

 この残されていたメモは何かおかしい。こんなメモなんてあっても不気味なだけだ。

 それに、こんなストーカーのようなメモを他人に見せられない。

 俺はメモを削除したほうがいいと、削除ボタンに指を伸ばした。



―――

「テスト終わったー、俺も終わったー」


 盆明けの実力テストが終わった。何故こんな時期にテストをするのか理解に苦しむが、学校が指定した訳だから納得とか関係ない。学生は従うのみ。

 盆休みに全く勉強しなかった俺は自己採点でもかなりヤバイ点数だった。自業自得とはいえ、これは後悔せざるを得ない。


「どうした? テストの点がいいこと以外いいところがない、健吾けんごくん」

良雄よしおか。その言い方止めろ。俺の長所がテストの点だけみたいに聞こえるだろ」


 勉学自体は得意ではないが、勉強して点数だけは稼ぐようにしている。それ以外の実技、実習、等はからっきしで、俺が頑張りを見せられる唯一のものがテストの点というだけだ。


「でも、珍しいな。お前が勉強しなかったのは」

「あー、お袋の実家に行ってたんだよ。ほら、あるだろ、場所が変わると気分も変わるって」


 自宅では集中できなくとも、図書館ならできるとか、その逆パターン。


「お前、ゲームばっかやってただろ」

「確かにソシャゲやってたけど、あんなのすぐにスタミナ尽きるだろ。主にゴロゴロしてたさ」

「うーん、それだけじゃなさそうだな」


 彼はこちらを訝しみながらこちらをじっと見てくる。何を邪推しているのか分からないが、きっとろくでもないことだろう。


「お前、遊んでただろ」

「そりゃ、ゲームも遊びだろ」

「いや、違う。お前から微かにリア充の臭いがする」


 友人が意味の分からないことを言う。確かに良雄の影には女がいるらしく、彼女がいなかったためしがない。そんな彼が何かを嗅ぎつけたということか。


「そうだ、女だ。女の臭いだ。今の健吾からは彼女ができた凄みを感じる」

「女の子か……」


 そういえば、女の子と祭りに行ったはずだ。誰だったか思い出せない。もしかして、お袋だったのだろうか。


「お前には幻滅したぞ!」

「いや、お前に幻滅されるようなことはしてないだろう」

「麗しの姫を忘れたのか?」


 そんな事を口にした覚えは無い。一体、何のことだろうか。


「お前、ずっと前に自分の好みの女がいて、出会ったら告白するって言っていただろ?」

「そんな事もあったな。ていうか、よく覚えていたな。俺ですら忘れかけてたよ」


 学校で会った事がある。

 すぐにでも告白してしまいそうな女生徒がいた。

 一目惚れだった。それ以来会ったことは事はないが、出会ったら告白すると言い回っていた。


「別に遊んだだけならいいんじゃない? まだ付き合ってもいないし」

「この不誠実者が! 他の女との浮気だろ!」


 浮気なのか。告白したい娘がいるのに、他の娘と遊ぶのは浮気なのだろうか。

 でも、心に決めた人がいるのにそんな事をするなんて、彼女に対する浮気のような気がしてきた。


「まあ、女遊びしたいという気持ちは分かる。お前、スケベだし」

「スケベは関係ないだろ? それに女遊びとか、言い方に気をつけろ!」

「これと決めた女を一途に想うのがお前のいいところだからな。最後には彼女に行き着くさ」


 これは良雄なりの励ましなのだろうか。

 「麗しの姫」なんて口にしたことは無いが、確かに俺は彼女に出会っている。

 だが、この狭い学校の中にいて、今まで会った事がないというのも不思議な話だ。

 もしかして、見間違いとか、別の学校の生徒だったかも知れない。

 やはり、他の女の子と遊ぶことは浮気かな。


「久しぶりだし、その辺にいる奴捕まえて、遊びに行かないか?」

「それもいいかもな。ちょっと気晴らしもしたいしな」


 テストが最悪だったり、「麗しの姫」だったり、なんか色々と考えることはあったが、今日一日遊んで忘れて次に進もう。


―――


 夏休みが明け始業式が行われている。

 体育間には生徒が集い、校長のありがたい言葉をもらっている時間だろう。

 俺はトイレに行っていて体育館に行くのが遅れているが、このままサボるわけにはいかない。そんな長いトイレが許されるはずも無い。

 始業式に参加しようと階段を下る途中、ちょうど踊り場に差し掛かった頃だった。


「あれ? 健吾くん?」


 誰か知らない人の声を聞いた。

 彼女のリボンから上級生だということが分かるが、小さな体からは先輩という感じを受けない。

 大人びた雰囲気をして儚い印象を受ける彼女は一目見て好みだと分かる。大人びているのに子供のような笑顔が似合うそんな女の子。

 何より目を奪うのはそのセミロングの総白髪。そんな一度見たら忘れない特徴を彼女を持っていた。


「あ! ああ! あああ!」

「何? 何?」


 この総白髪、一度見たら忘れられないその髪を俺は知っている。


「矢国 澄子?」

「はい?」

「矢国 澄子だよな!」

「ええ、はい」

「誕生日は7月10日のかに座!」

「そ、そんな大声で人のプロフィール言わないでくれるかな!」


 俺は興奮していた。

 彼女を何度も見ていた。忘れるはずがない。


「でもどうして、どうしてその事を? 忘れたはずじゃ……」

「どうしてって、神社の祭りに行っただろ? もしかして、忘れた?」

「私が忘れる訳ないじゃない」


 そう、彼女は忘れない。忘れているのは自分の方。


「見て、見て! ここ、スマホの画面!」


 俺は押し付けるようにメモの画面を開いていた。そこには、彼女のプロフィールがぎっしりと書かれており、何をして遊んだとかが細かく記載されている。


「な、何これ? 怖いんだけど!?」

「思い出したんだよ! その、白い髪! それ見て思い出した。澄子さんの写真を見たことを!」


 そう、俺は忘れていた。彼女のことを。出会ってようやく点と点がつながった。

 写真の人物と実在するする人物。俺は彼女の白髪を覚えていた。


「ちょっと、距離が近い! 近い!」


 彼女は照れているのか、顔を少し俯かせて俺を押し出そうとする。所詮、女の細腕である。抵抗はさせない。


「俺、澄子さんのこと覚えてた。また会えた」

「そうだね」


 偶然もあるものだ。帰省先で出会った彼女が同じ高校へ通っていた。もしかしたら、前に良雄と話した「麗しの姫」というのは彼女だったかもしれない。

 何故なら、彼女は俺の好みで今すぐにでも告白したいから。


「でも、駄目。健吾くんは忘れてる。私のことは澄子って呼ばせたもん」

「ああ、うん。忘れた」


 俺は悪びれることもなく言った。それは、紛れもない事実だから隠す必要はない。


「メモで思い出すとか、最低!」


 そう言いながらも彼女は、俺の胸に飛び込んできて服をギュッと掴んできた。


「そんなの卑怯、レギュレーション違反!」

「まあ、いいじゃないか。メモ越しだけど、俺は知ってた」

「私はずっと覚えていたんだからね! また一緒に遊びたいって思ってたんだからね! 本当に反則だよ」


 前の俺は「初めまして」かもしれないが、今は「初めまして」ではない。きっと、彼女にとっては初めてだったのではないだろうか。それは思い上がり過ぎかもしれないけど。


「また会えたからいいじゃないか」

「馬鹿、阿呆! 遅いのよ! あの日私待っていたんだから、雨の日に傘を差して、いつもの時間、いつもの場所で」


 やっぱり来ていたのだ。あの時、彼女に会えなくてメモを消すつもりだったのに、何だかそれが躊躇われて結局消さなかった。もし、彼女に会えるかもしれない。それだけだった。


「ごめん、俺も行ったんだけど遅かった。でも、俺は忘れてしまったけど、覚えていた」


 彼女は複雑そうな顔をしていた。屁理屈だとか、無理やりだとか思っているだろう。

 そんな彼女が可愛くてつい抱きしめてしまう。


「3日経っても俺は覚えている。忘れてしまうかもしれないけど、俺は覚えているよ」

「そんなの……反則って……」


 俺の胸に顔をうずめた彼女の声は泣き声みたいで聞き取りにくい。

 彼女の顔は見えないが、落ち着くまではこのままでいようと思った。


「なぁ、俺も3日経つと例外なく忘れるみたいだ。でも、必ずメモをするから、覚えておいてやる。何度忘れても、何度も覚えているよ」

「もう、私は1人じゃないの?」

「俺がいる」


 彼女は俺の体を軽く突き飛ばし、距離を取る。もう、泣いてはいないようだが、その後が少し残っている。


「ほ、ほら、まだ始業式だから! 早く体育館へ行きなさい」


 彼女はもう元気になっている。あの写真のように笑う彼女が可愛くて愛おしい。


「じゃあ、澄子も一緒に行くぞ! お前、ずる休みしようとしてただろ。自分のことは忘れられるからってそんなのは許さないからな」


 彼女の手を取ると、驚いたのか手がびっくと反応する。それでも構わず他をギュッと握る。


「俺が覚えてるから、ずる休みはばれるからな。覚悟しておけよ」

「うん、覚悟する」


 俺は彼女の手を握り踊り場を後にする。

 もうこれで、彼女は孤独じゃない。俺が覚えておいてやるからな。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

特に補足はありません。

ご感想お待ちしております。


また何処かで会えたら幸いです。

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