いや、そこは婚約破棄してください~ヒモ貴族誕生?~
「……」
何故俺は今、謁見の間で跪いているのでしょうか?
「面をあげよ」
「はっ」
言われた通りに顔をあげ陛下のご尊顔を拝見する。殿下に宰相閣下、知らない紅髪の美少女が見下してくる。
帰りたいです……
「クレリア・ルナ・アートサイトの許嫁、レイト・ユーモスで相違無いな?」
クレリア・ルナ・アートサイト……誰?
「レイト・ユーモスで間違いございませんが現在、許嫁などはおりませんが?」
「ほう?」
「っ……」
陛下が不思議そうに首を傾げ、美少女が俺を睨む。
何やらかしましたか?処刑ですか?
「もう一度聞く、その方に、許嫁が居たと聞いているが?」
「……過去にはおりましたが」
確かに俺、レイト・ユーモスには許嫁がいた。
貧乏男爵家の次男である俺には勿体無い位の才女であったのを覚えている。
そもそも、子爵のご令嬢だったのでむしろ兄貴が結婚すべきだったのに親の付き合いで何度かあったときに何故か気に入られたらしく、俺が許嫁になっていた。
過去形なのは、彼女の家が後継ぎの居ない公爵家の分家であり、俺が12の時にその本家の養子になったからだ。
最近、殿下とも仲良く王妃の座が目前らしい。スゴくね?とかこの地方貴族学校でルネス君がいってた気がする。
「その者の名前は?」
名前?えーと……あれ?出てこない
最後にあったのは養子にいく1年前位だったから5年くらい前だよな?……レニス家の……く……く……あ、そうだ。
「レニス子爵のご息女であった、クレア・レニスです」
「っ!?」
殿下と紅髪の美少女がずっこける、なんで?そして、陛下が爆笑してる……畑耕さないといけないので帰っていいですか?
「な、なるほどな、何故に婚約は過去形だと申すのだ?」
ひとしきり笑った陛下が続ける。
「彼女はレニス家子爵のご令嬢でしたが、本家の公爵家に養子に行きました、婚約がそのまま継続されるはずがありません」
「ふむ?確かにそう考えるのも不思議ではないか……」
普通にそう考えない人がいるのでしょうか?というか男爵家の次男が公爵令嬢と婚約とか無いです。
「だが、その婚約はまだ生きている」
「ふぇ?」
変な声が出た……あり得ないだろ?
「驚くのも無理はないが、我が国に養子縁組による婚約解除の規律はない、だが身分が違いすぎるのも事実」
いや、そこは婚約破棄してください。
……あ、わかった、公爵令嬢が自然消滅や手紙での婚約破棄は外聞が悪い、しかも殿下と仲が良いわけだから、わざわざ陛下が引導を渡すのか、いくらか慰謝料とか出たらラッキーだな。
「よって、レイト・ユーモスをクレリア・ルナ・アートサイトの付き人に命じる」
「はっ、仰せのままに……え?」
なんですと?
「貴族学校もクレリアと同じ、王都のものに通うがよい」
絶対、孤立します。
「ついでに笑わせてくれた礼に男爵の地位をくれてやる」
ついでで親父と同じ地位にしないでください。
☆
「なんだこれ」
謁見の間から出て案内された客室で独り言が漏れる。
公爵令嬢の付人?男爵?編入?意味がわからない。
というか、クレリア?クレアじゃなかったのか……
あ、一応一人で王都に来るのは不味いので使用人として来てもらった領民の娘を宿にほったらかしだなぁ等と考えていたら、扉がノックされる。
「はい」
「やぁ、義息子よ」
「部屋違いです」
即、扉を閉める。
なんだ今の無駄にダンディーな中年……
「なんで閉めるのだ!?反抗期か!?開けなさい!!パパだよ?ほら、一緒に狩に行こう?それとも釣り?ボードゲームもあるぞ
?」
うちの親父だったら殴ってる。
「お義父様?何しているのですか?」
「おお、クレリアちゃん、義息子が部屋に入れてくれないのだよ?」
「は?」
「何故睨むっ!?」
よそでやってください。そして帰して、一週後に領地の若いので集まっての釣りキャンプがあるんです。
「そもそも、面識のない不審者がいきなり訪ねてきたら混乱します」
「不審者じゃないよ、パパだよ?公爵だよ?」
はい?公爵?
「改めて君の婚約者の父親のオラルド・ルーン・アートサイトだ、一応、公爵の地位にいる。気軽にパパと呼んでくれ」
「よろしくお願いします、アートサイト公爵閣下」
威厳たっぷりに名乗ってくる公爵閣下、さっきのは幻覚だし最後の言葉も幻聴だろう。
「これが反抗期……世間の父親はこんな辛いものを乗り越えているのか……」
「お義父様、ダ……レイト男爵が困っています、というかキモいです」
「娘も反抗期?……いや、いつも通りだった」
この漫才いつまで続くんだろう?笑えば良いのかな?それとも笑ったら不敬罪?
「あの、取り敢えず事情を説明してもらえますか?」
「おお、そうだったね、では少し昔話をしよう」
「昔話ですか?」
「あるところに、側室含め夫婦仲は良いが子宝に恵まれない貴族がいた」
公爵の事だな……
「その貴族はなかなかの身分であり、跡取りがいないのは問題だったため、分家から養子をとることになった。
ところがだ、その分家もほとんどが一人っ子だったのだ」
「はあ……」
「そして、ある子爵に子供が二人いたので下の子を養子に迎える事になった」
公爵の視線を受け、クレリア嬢が続ける。
「ですが、その子爵令嬢には、物凄くラブラブで仲がむつまじい許嫁がいたのでした」
俺の他に許嫁が居たのかな?月に1・2度位しか会わなかったし……
「お義父様方……その貴族はその娘を可愛がりまして、その事実を知ったとき……」
「うむ」
暗殺者とか、差し向けたとか?あれ?今、俺、殺されちゃう?
「娘に土下座しました」
「へ?」
「いやぁ、気付かなかったとは言え、愛し合う二人を引き離すなんて、申し訳無いことをした」
「はあ」
なんか、物凄くヌルイ公爵閣下だな……
「まあ、あからさまな逆玉狙いなら、退場してもらったけどね」
あぶねぇ、目がマジだ……いや、陛下の前で逆玉わっしょいする奴はいないけど……
「話を戻すけど、そのまま婚約だと身分的な面で五月蝿いのが湧きそうだったから、こういう形になったんだよ」
「何故陛下が?陛下も協力者なんですか?」
「あ~あれはね……」
何故、めんどくさそうに目をそらすんですか?
「そこからは、私が話そう」
「……来ましたか」
「そう邪険にするな、オラルド」
「へ、陛下!?」
「パパと呼べ!」
「!?」
後ろからの声に振り向いてみると、先程謁見した国王陛下と、どことなく陛下に似ている金髪の美少女がたっていた。
あれ?何処かでみたことあるような……
「さて、レイトよ、この娘を覚えているな?」
「そのお嬢様ですか?」
観察してみる、緊張した面持ちでこちらを見ている。美少女なのは間違いし確かに何処かでみたことあるような気はする。なんだろう……どこでみたんだっけなぁ?
あと、微妙にクレリア嬢から殺気が漏れてる……助けてください。
「3年前……留学生……」
「3年前?……ああ、ソフィアさんだ!」
答えを出せないことに見かねたお嬢様が出してくれたヒントを元に記憶を辿ると、一瞬で答えが出た。
ソフィア・テオランド、3年ほど前に1ヶ月ほど王都から地方貴族学校に留学生として、視察に来た令嬢だ。
一緒に誘拐されたのに忘れてるとは不思議だね?
「お久しぶりです、息災そうで何よりです」
「ええ、貴方も」
少し頬を染めながら応えてくれる、光栄ですが暫定許嫁の前なんです……
「何故ソフィア嬢がここに?」
「さて、事の始まりはその3年前の留学だな」
「はぁ?」
俺の疑問を無視して陛下が話を始める。
「約3年前、ソフィアは見聞を広めようとあちこちの地方貴族学校に留学を繰り返しており、そこをついて、誘拐事件があった。
まあ当事者だから覚えていて、当然だな」
すいません、さっきまで忘れていました。
「そこで巻き込まれた青年が彼女を救い、さらに献上品に匹敵するものを彼女に差し出した」
確かに、一緒に誘拐されたから二人で山に逃げ出して、遭遇した熊やら鹿とかを有り合わせで作った弓で狩って食べたけど、あれ献上品?
ふと、ソフィア嬢を見やると、首に見覚えのあるペンダントが……
「あ」
そういえば、あの時に遭遇した、トカゲの眼球で障壁装飾品作って渡した気がする……念のためにって。
領に住んでた彫金師から、特殊装飾品を習ってたし。回収するの忘れてたな。
「それを聞いた私は思ったのだ、『ヤバイ、カッコよくね?息子にほしい』と」
「はい?」
「拐われた王女を助けだし、竜を倒し、装飾品を贈る、男なら憧れるだろう?」
「え?王女?竜?え?」
俺の困惑を余所に、くすりと笑いソフィア嬢が言葉を紡ぐ。
「改めて、自己紹介を私の名前はソフィア・テオ・グランファール、この国の国王、ラルク・テオ・グランファールの一人娘です」
「え?一人娘?殿下は?」
「私に嫡男が居ないと色々問題があってな、今はソフィ―ルと名乗ってもらっている」
あれ?聞いていいのそれ?
「まあ、それはいいとして、ソフィアも、君を気に入ったようだし適当に出世させて、私の義息子にする予定だったのだが、オラルドが割り込んできてな」
「こちらが先です、割り込んできたのは陛下です」
「と、まあどちらも譲れなくてな」
あれ、勝手に将来とんでもないことになりそうじゃないですかね?
「そして、思い付いたのだ」
「……何をでしょう?」
凄い嫌な予感がする。
「うちの娘、今、息子扱いだしクレリア嬢と偽装結婚して君を愛人として二人同時にくっ付けようと」
「この話を聞いた時は陛下を尊敬したものだ、余計な地位をつけることなく娘の本願を叶えられると、あと、義息子と遊べると」
「それで付き人ですか」
二組の父娘が満面の笑みでうなずいている。
亡命しようかな?
「そして、本日決行に至ったのだ」
「因みに拒否権は?」
「君はこの国を滅ぼす気があるのかい?」
「はい?」
「現在、私の血を引くのはソフィアだけだ、そのソフィアが子をなさないとなるとな?」
いや、陛下の直系でなくとも……というかまだまだ作れるでしょう?作って下さい。
「さあ、国のためにも王女を抱け」
普通に最低です。殿下も頬を染めないで。
「なに、レイト君は好きに過ごしてくれればいい、クレリアちゃんやソフィア殿下とイチャイチャしたり、私と狩に行ったり、キャッチボールしたり」
ヒモですよね?それ……
「おい、ズルイぞ私とも遊べ、ほら、お小遣いあげよう?」
金貨を差し出してくる陛下……
「離れてた分、いっぱい愛しあいましょうね」
蕩けるような笑顔を向けてくる、クレリア嬢。
「ふふ、次期国王の父親ですね、影の王ですよ?」
いいえ、普通に託卵クソヒモヤローです殿下。
大国、グランファールはこの先、更に繁栄することになるが、その歴史に影の王と呼ばれかけた男がいるとかなんとか。
「ところで、ユーモス男爵」
「なんでしょう、宰相閣下」
「今度、義兄弟……君の父君の領で釣りキャンプがあるらしいね」
「はい」
「ウェアを新調したいんだが、一緒に行かないかい?」
貴方もですか……
「新しい釣竿見に行こう」
ひょっこり出てくる公爵閣下……
「私なんか釣船買ってあげるし」
陛下も……
「つれていけませんよ」
「「「え?」」」
このあと、めちゃくちゃ怒った(娘達が)