deta,92:ああ! 今行く――
11年後――。
「ママー! 見て見てー!!」
「サンドウィッチできたー!!」
子供達の呼びかけにキッチンへと、掃除から戻って来た30歳の美誠=悠貴・ダルタニアスはそれを覗き込んで満面の笑みを浮かべた。
「ワオ! 美味しそうに出来たね! よし、じゃあ月廻、唯晏、おでかけの準備して」
「はぁ~い!」
母親の指示に従って、二人の子供達は部屋の方へと駆けて行った。
月廻は女の子で10歳、唯晏は男の子で7歳だ。
美誠は手早くランチを包み、バスケットの中に入れると階段を上がって書斎をノックした。
中からの返事とともにドアを開けて、室内へと声をかける。
「ラフィン。デスクワーク終わった? もうこっちもピクニックに行く準備できたよ」
「ああ、分かった。じゃあ行こうか」
ラフィン=ジーン・ダルタニアスは椅子から立ち上がると、美誠の後に続いた。
40歳になったラフィンは英会話教室を設立していた。
リビングに下りると、丁度子供達も元気良く下りてきてバスケットを持つ、持たないで揉め始めた。
「こぉら! 二人とも行く前になってケンカしないの!」
子供達に注意する美誠。
「月廻、唯晏、そんなに振り回したらせっかく作ったランチが、グチャグチャになるぞ。そうしたらパパは二人が作ったランチを、食べられなくなってしまう」
父親ラフィンの言葉に二人は顔を見合わせると、仲良く二人で一緒にバスケットを持った。
教会の外に出て、車に荷物を積み込んでいると、麻宮清神父がやって来た。
「ホッホッホ……今日もルネとイアンは元気そうだ」
「麻宮神父、今からみんなでピクニックへ行ってきます」
ラフィンの声掛けに、月廻と唯晏も続く。
「行ってきますおじいちゃん!」
「おじいちゃんいってくるね!」
これに麻宮神父は子供達に笑顔で手を振った。
目的のピクニック場所へダルタニアス一家が到着すると、42歳になった水沢堂魁と35歳になった水沢堂セレアとその子供達二人が、もう到着していた。
男の子の彪は11歳、女の子の亜理朱は9歳だ。
「遅ぇぞ! 俺らは15分前には来てたぜ!」
魁がベンチに座ったままラフィンへと声を投げかける。
「ああ。待たせたな」
悠然と彼へ答えるラフィン。
すると今度は氷室遊弥一家が到着した。
34歳の遊弥と27歳の氷室エレインの子供は二人とも女の子の乃愛7歳、エルザ4歳、更に三番目の子供を妊娠していた。
「ごめーん! 結構待った!?」
遊弥の言葉にラフィンが返答する。
「いや、俺は今来たところだが、あいつは15分前に」
子供達は合流するや転がる小犬のようにしてそれぞれじゃれつきながら、芝生の上で遊び始める。
「今日は雲も風もない、いいお天気ね」
セレアの言葉に、美誠も頷く。
「うちの子達、とても楽しみにしてたもの」
エレインは車からピクニックセットを運び出そうとしていた。
「大丈夫エレイン!? 私が運ぶよ!」
心配する美誠に、エレインが豪快に笑って答えた。
「平気平気! これくらいで流れやしないわよ!」
そうして妊娠7ヶ月のエレインは、せっせと芝生へ運び出して行ってしまった。
「すっかりたくましくなっちゃったねー、エレイン……セレア、表情と感情作りの練習、気合い入れすぎたんじゃないの?」
「そんなつもりはなかったんだけど……まだ若いし元気もあり余ってるわね……」
美誠とセレアは感心しながら彼女の後ろ姿を眺めつつ、言葉を交わした。
セレアの方も日を浴びられるようになって、すっかり肌色も良くなっていた。
「オルァ遊弥! さっさと用意しねぇか!」
「魁さん、仕事オフの時くらい人使い荒いのやめてくんない!?」
相変わらずベンチで偉そうに座っている魁へ、遊弥は文句を返す。
「あいつもジジィだから足腰立たないんだろう。俺も一緒に運ぼう」
「聞こえたぞラフィン!!」
「聞こえるのを分かって言ったんだ」
やがてランチも済ませて、女達と子供達、遊弥はまた元気良く遊び始めた。
ボール遊びをやっているみんなを眺めながら、ラフィンと魁はシートの上で寝転がっていた。
「元気いいなーあいつら」
「若さには勝てない年になってきたな」
「年って、お前はまだ40だろう。俺はもう42だぜ!?」
「たった二歳差だろう。大して変わらん」
「お前なぁ、40過ぎると体の老いは早ぇぜ!? まずはだなぁ……」
魁は上半身を起こすと、ラフィンに論じ始める。
するとボールが見事に、魁の後頭部にぶつかってきた。
「誰だ俺にボールぶつけたの!!」
しかしみんなは笑い転げている。
「ほら、お前もみんなのところに行ってこい」
「何。すぐ戻ってくるさ。おーまーえーらー白状しなかったら全員一人ずつにボールをぶつける!!」
そう怒鳴りながら、魁はみんなの方へボールを手に猛然と、走って行ってしまった。
「しっかり体力あるじゃないか」
ラフィンはクスクス笑いながら、一人口にする。
そしてファッとあくびをする。
みんなの遊ぶ光景を眺めながら、ラフィンは幸福感を味わわずにはいられなかった。
クローン同士と人間同士。
生まれ方は違っても、こうして家族を持ち家庭を育むことが出来ている。
一人一人が個であり、父であり、母であり、その血を受け継ぐ子供達。
「パパー! パパもこっち来て、一緒に遊ぼうー!」
「遊ぼうパパー!」
月廻と唯晏だ。
美誠も大きく手招きしているのが見える。
「ああ! 今行く――」
ラフィンは大声で答えてから、ふと目蓋をゆっくりと閉ざす。
愛すべき存在に、数多き幸あらんことを――。
ラフィンは大きく息を、ゆっくりと深く静かに吐いた。




