deta,53:あたしは男なんだから!
夜――時間は八時を回っている。
夏の八時はようやく薄暗くなる頃だ。
「夜と言ってもザックリ感があるわね。早いのか遅いのか……」
「そうですね」
水沢堂魁の言葉に、隣にいるラフィン=ジーン・ダルタニアスが答える。
二人は教会正門の前に堂々と車を止めて、車内で待機中だった。
ちなみに車は魁の物なので、運転席には魁が、助手席にはラフィンが座っている。
「ひとまず、おそらく早い時間に来るとは思えませんので、戦闘前の腹ごしらえはいかがですか? 日本で言うところの――」
「腹が減っては戦も出来ぬ、ね」
「ええ、それです。これはサンドウィッチです」
「何、手作り?」
「はい。私が作りました」
「野郎が作った飯も味気ないけど、ないよりかマシね」
ラフィンはバスケットを差し出しながら、この一言多い魁の言葉に苦笑する。
魁はバスケットの中へと手を突っ込んでサンドウィッチを取り出すと、大口で食らいつく。
そしてモシャモシャと豪快に咀嚼してから、まだ嚥下することなく言った。
「でも、モグ……あんたの料理の腕前は認めるわ、モグモグ」
「そうですか。光栄ですが、食べるか喋るかどちらかになさってくださいね」
「あたしはこれくらいが丁度いいのよ。ゴックン。これがあたしなんだから」
「言葉遣いの割には男らしいんですよね。水沢は」
「当たり前でしょ! あたしは男なんだから!」
――PM9:00.
周囲はすっかり人通りがなくなってきた頃。
二台のバンが暗闇の中を滑り込むようにして、やって来た。
「あれでしょうか」
「間違いないわ。こんな時間にバンが二台も来るなんて、普通はあり得ないもの」
教会の門の斜向かいは、公園になっている。
その公園に横付けするようにして、二台のバンは止まった。
「舞台は公園で決まりね。行くわよラフィン」
「はい」
魁に促されて、ラフィンは降車すると公園の方へと、バンの正面から堂々と公園の中に二人は入って行く。
「あれはダルタニアスと水沢堂魁……公園に向かうとは随分な偶然だな」
鮫島は一人呟くと、バンの運転席から降車する。
まさか襲撃の情報が氷室遊弥によって筒抜けになっているとは、鮫島は思いもしない様子だ。
鮫島の動きに合わせて、もう一台のバンの運転席から遊弥が降車する。
そして鮫島の方へと歩を進めていく。
「ターゲットが丁度タイミング良く公園に行ったみたいじゃないですか。どうしますか? もう早速こいつらを車から降ろしますか?」
「いや……まだだ」
鮫島は言うと、ラフィンと魁がいる公園へと入って行く。
これに遊弥も続く。
ラフィンと魁は、公園の門を正面から見える位置にあるベンチに腰掛けていた。
「こんな暗い場所で、一体何をなさっておいでですか? お嬢さん」
それは鮫島がラフィンに対して言った、嫌味だった。
「……」
これに無言を返すラフィン。
代わりに答えたのは、魁だった。
「今夜は熱帯夜だからね。公園に涼みに来たのよ。あんたもここに来るなんて、奇遇ねぇ?」
「成る程……確かに奇遇だな」
「それで、一体何しにここに来たのよあんたは?」
「ああ、お嬢さんをお迎えに参上したのさ」
遊弥は黙って鮫島の背後で控えている。
「そう。でも悪いわね。この子あんたとは行かないって」
「こっちは狙っていた獲物を目の前にして、正直興奮しているんだ……だから、強引にでも連れて行く」
「ふーん。じゃあこっちだっておとなしく従ったりはしないわよ」
「俺と一緒に来いダルタニアス。痛い目に遭う前にな」
「……」
「お断りですってよ」
「そうか。じゃあ仕方ないな。なるべく乱暴な真似はしたくはなかったが。おい、氷室」
鮫島に声をかけられたのを合図として、遊弥はバンに向かって指笛を鳴らした。
するとドアが開いたかと思うと、ゾロゾロと異形な容姿をしたクローン体が降車して、こっちへと向かってきた。
「何が乱暴な真似はしたくなかったよ。準備はバッチリじゃない」
魁は背後の腰に差し込んでいた銃を手にする。
ラフィンもゴムでその美しくて長い金髪を、後ろ一つにまとめて縛った。
その様子を見て鮫島は鼻で笑う。
「おやおやお嬢さん。気合い十分ってことか? やる気満々だな」
「私のやる気を、あの連中が片付いたらあなたにも披露して差し上げますよ」
ようやく口を開いたラフィンの冷ややかで抑揚のない口調と鋭利な双眸に、思わず鮫島は危険を察知して素早く遠くまで後ずさった。
そして半ば慌てて号令をかけた。
「やれ、お前達!!」




