Data,2:スッゲー綺麗な人……
その日の夜。
寮の自分の部屋で悠貴美誠はTVゲームに夢中だった。
同じルームメイトである山村満利奈は二段ベッドの二段目で寝転びながら、ケータイで彼氏との話に夢中だ。
ちなみに西沢望は実家が近いので、学校には家から登校している為寮にはいない。
そして関西弁の藤井梓はと言うと。
「へーイお二人さん! 何してはんのー!?」
暇をもてあそんで耐え切れなくなったらしく、四部屋向こうの自分の部屋から遊びにやって来た。
「あたしは愛しのダーリンと電話中よ。邪魔しないでね」
満利奈は梓を一瞥してから言うと、再び彼氏との会話に戻る。
「はいはい、お熱いこって。ほんで美誠は……」
「ぬがーっ!! やられた! くっそー! 二回挑戦して二回ともラスボスに負けちまった!」
梓の言葉が終わらないうちに、美誠の怒声が上がる。
「何や。タイミングよく負けてんな。ほなここらで一つ気分転換にゲームやめてうちと話せぇへん?」
美誠の傍に座りながら言う梓に気付くと彼女は、我に返ったようにゲームの電源を切りながら言った。
「ん? 何だいたのか梓。うん、いいぜ」
これに梓は満面の笑顔を見せる。
「なぁ、明日土曜で学校休みやし、良かったら一緒にショッピング行けへん?」
「別にいいけど、俺明日10時から3時までバイトだぜ? その後で良ければ付き合うけど」
「うん。別に構へんで。満利奈は?」
すると少し前に彼氏との電話を終えていた満利奈は、ニッコリ笑顔を浮かべると二人を見下ろしながら答えた。
「あたしは明日、彼氏とデートだから♡」
「何や仕方ないなぁ。望は明日都合悪いらしいし、ま、ええわ。ほんなら3時に美誠の店行くよってに、二人っきりで仲良ぅデートしよな♡」
「おう!」
片腕を組んでくる梓に、美誠は無邪気に片手を天に突き上げて返事をした。
駅前の喫茶店にて。
「ありがとうございましたー」
支払いを終えて店を出て行く男女二人の客に、テーブルを片付けながら声をかける美誠。
「悠貴さーん! もう3時になったから上がっていいよー!」
店の奥から声をかけられて、美誠は短く返事をする。
同時にベルの音と共にドアが開き、友人の梓が姿を現した。
「ヤッホー! 美誠、仕事頑張ってんかー?」
「おう梓、来たか! 丁度今、店から上がりの許可貰ったところなんだ。帰る用意してくっから、少し待っててくれ」
美誠はエプロンを外しながら言い残すと、急いで店の奥へと引っ込んだ。
そして急いで用意を済ませて出てくると、店の人に一声かけて梓を伴って店を出た。
しばらくショッピングしながらアーケードを歩いていると、一緒にいるはずの梓がいない。
美誠は背後を振り返ると、梓は勧誘に捉まっていた。
どうやら英会話の生徒を勧誘しているらしく、いつも堂々としている梓ではあるがこういうのだけは毎回、無視できないところがあった。
そんな梓の性格を知っている美誠は、しぶしぶ彼女と共にせめて教室に見学だけでもと言われるがまま、すぐ側にあったビルの二階へと上がって行った。
二階のフロア全てが英会話教室になっているらしく、梓は言われるがまま事務室で説明を受けていたが美誠は、学校で習うだけで十分だと断って英会話教室内を見て回っていた。
時間帯的に夕方で、もう誰もいない教室に入ってホワイトボードにある授業の名残を眺めていると、ふと誰かが入って来た。
教室は前後に出入口があってドアは開けっ放しだったのもあり、その誰かは教室の中に美誠がいることに気付かず、そしてまた美誠も背後から入って来た誰かに気付かずにいた。
その者は真っ直ぐ窓へと歩み寄り、外の景色を眺め始める。
いや――様子を窺っていると言ったところか。
ここでようやくホワイトボードから目を離した美誠は、窓際に立つその誰かに気付き驚きの短い声を上げた。
これにその誰かも気付いて、美誠の方を振り返った。
その人は、長い金髪を後ろ一つにまとめて、蒼い双眸をしていた。
外国人――であることは分かったが、思わず美誠は息を呑んだ。
その美しい顔立ちをした相手に、美誠は見惚れてしまった。
が、ここで相手が美誠に声をかけた。
「もしかして、ここの見学の方ですか?」
流暢な日本語、だがその声に美誠は驚いた。
長髪に美しい顔立ちからてっきり女かと思っていたら、男だったからだ。
「あ、友人の付き合いで……勝手に教室に入ってすみません」
「いえいえ、構いませんよ。もう今日はこれで教室は終わりですので、私は帰りますがまた機会があれば。では失礼します」
その“彼”は、美しい顔でフワッと笑顔を見せると美誠に軽く会釈をしてから、教室を後にした。
しばらく立ち尽くしていた美誠は、安堵してからボソリと呟いた。
「スッゲー綺麗な人……」