Data,23:あんたを助けたのはラフィンよ
「あいつ逃がして大丈夫なのか?」
「んー、多分大丈夫じゃないけど、まぁ今はとりあえず別にいいんじゃない?」
水沢堂魁は言いながら銃をベルトの間に挟むと、今度は万能ナイフを取り出して悠貴美誠の手の縄を切り離してから、今度は先の細い金属で脚の手錠を解除する。
そしてふと脇を見て、魁は顔を顰めた。
「ゲッ! 何あんた吐いたの!? 女の子のくせにはしたない!!」
「しょうがねぇだろう! 目の前で人溶けたんだからっ!!」
「じゃあこれで口の中ゆすぎなさい」
魁はズボンの後ろポケットに突っ込んでいた水の入ったペットボトルを取り出すと、美誠に渡した。
「魁……四次元ポケットみてぇ。何でも出てくる」
美誠はすっかり自由になった身でペットボトルを受け取ると、口に含んで口腔内をゆすいでからペッと床に吐き捨てる。
「ドラ○もんじゃないわよ!」
「ドラ……あ、そういえばあの鮫島って奴、魁が……まんじゅう屋の……む、息子だって……っっ!! ブワハハハハッ!!」
美誠は言いながらイメージの違いに、腹を抱えて爆笑し始めた。
「そっ、そのことは他の誰にも言うんじゃないわよ!! 情報屋兼便利屋がまんじゅう屋でしただなんて、恥ずかしいったらありゃしないんだから!!」
「え、何、もしかして後継ぎ?」
「後継ぎがこんな裏家業やってるわけないでしょう。バカね」
魁は呆れながら答える。
美誠は数回、口をゆすぎ終えると空になったペットボトルを握り締めてから、ポイッと室内へと投げ捨てた。
「ここ、どこだろう」
「山中にある廃墟よ。あいつらクローン体のアジトの一つだった場所」
二人は歩き出しながら言葉を交わす。
「だった? 過去形?」
「だってさっきの銃弾でクローン体、全員溶かしちゃったもの」
「その銃弾……」
「あんたとラフィンが口ゲンカのきっかけになった、ラフィンお手製銃弾よ」
「あ……クローン体の組織を破壊することが出来る薬が入っているっていう……」
「そ。倒したのはあたしだけど、あんたを助けたのはラフィンよ」
「そっか……」
魁の言葉に、美誠は少しバツが悪そうに俯く。
しかしふと、魁へと顔を上げる。
「でも、よく俺がここに捕まっているって判ったな」
「あたしの情報網をバカにしないで頂戴。あんたの一挙手一投足までお見通しよ」
「え!? マジで!? このスケベッ!!」
「どうせスケベ呼ばわりするんだったらいっそここで、お前を襲ってやろうか! ああん!?」
「あ、はい! すみません! ごめんなさい!」
ただでさえ美誠は、魁から口唇を奪われているのだ。
それを思い出して美誠は慌てて謝った。
やがて二人は停めてあった魁の車へと辿り着き、それぞれ中へと乗り込む。
「しかしあんた……女の子なんだからもうちょっと、おとなしくしおらしくしなさい。こんなんじゃ何度助けたってキリがないじゃない。自分から敵の懐に飛び込んだりされたら。男勝りなのは別として」
魁はエンジンをかけると、車を発進させる。
「だって……ルームメイトまで危険に晒したくなくて……」
「どっちみち、もうあの寮には戻れないわよ。意味、解かるでしょ?」
「うん……」
すっかり敵から目をつけられた以上、寮生活に戻っても一緒という事だ。
「とりあえず今日はゆっくり寝なさい。もう夜が明けるわ」
魁の言うとおり、走っている車の窓から空を見ると、薄っすら白み始めていた……。
「んで、結局ここに来ることになったわけだな」
早朝のセントティべウス教会リビングにて、美誠はラフィン・ジーン=ダルタニアスを前にして言った。
「ええ。教会なら私を警戒して他のクローン体は近付けませんし、何よりも水沢の手元に置いておくのも別の意味で大変危険ですからね!」
そう言いながらラフィンは、魁の隣に立っていた美誠の肩に手を回して、自分の方へと彼を睨みつけながら移動させた。
「はいはーい。だったらあたし、もうあんたの協力しなくったって全然構わないんだけど?」
「それは困りますので、これからも宜しくお願いします」
「あのねぇラフィン。あんたのその目、お願いしますの目じゃないんだけど?」
魁は口元を引き攣らせながら言う。
「学校は? どうなるんだ?」
「学校は可能な限り通わせますよ。私が車で送迎しましょう。距離がありますからね」
「ま、ひとまず美誠は眠りなさい。あの騒ぎで気絶した以外、一睡もしてないでしょ。退寮の手続きとかいろいろ、その間にあたしがやっておくからさ」
「う、うん……」
元気なさそうに頷いたかと思うと、美誠のお腹が切なそうにグゥと鳴った。
「……何よお腹空いてるの? 全くあんたったら吐いたり食べたり……」
「それは関係ないっしょ!?」
ラフィンの手前、美誠は顔を真っ赤にして魁へと食ってかかる。
「クスクスクス……分かりました。簡単なものになりますが、少し早い夜明けの朝食を用意しますよ」
そう言い残してラフィンは、キッチンの方へと歩いて行った。
「まぁ、手続きしに行くにもまだ早いから、あたしも一眠りしていこうかしら。あたしも全然寝てないし。どう美誠。あたしと一緒に寝――」
直後、キッチンから魁の頭めがけて丸いパンが飛んできた。
「痛っ! 冗談よ! ってか、食べ物を粗末に扱ってはいけませんラフィン!!」
キッチンへと声を荒げる魁に、美誠はラフィンの反応が嬉しくてクスクス笑うのだった。




