Data,20:愛してる
「う……!」
水沢堂魁のキスは、ラフィン・ジーン=ダルタニアスとは違った、情熱的なキス。
「ん……っっ!!」
魁は何度も口唇を食むように、口づける度に音を立てる。
堪らず悠貴美誠は、後頭部を押さえつけている彼の手から逃れようと、何とか顔を背ける。
よってようやく二人の口唇が離れる。
魁は囁くように言った。
「あなたはガキだけど、反面放っておけない不思議な魅力があるのよ」
「カ……イ……」
「泣くな」
魁は美誠の頬に片手を当てたまま言い放った。
「う……っっ」
「今ここで美誠に泣かれたら、あたしまで……美誠に本気になって思わずあんたを抱いてしまうかも知れないでしょ……」
魁の言葉に、必死で美誠は涙を耐える。
「こんなに美誠を……愛しく思うなんてね。あたしこそホントのロリコンだわ。さぁ早くラフィンの所に行きなさい。でなくちゃあたしがあんたをラフィンから奪うわよ。それが嫌なら、早くあいつの所に……行けばいい」
言うと魁は、ゆっくり美誠から離れた。
魁に言われるがままに美誠は車から降りると、教会の方へと行ってしまった。
「ふふふ……何だかんだ言ったって正直なものね。素直にあいつの所に行くなんて」
魁は呟くと、タバコに火を点ける。
「美誠のボディーガードも今日までだし。すっかり振られたところでもうあたしはここで退散しましょ」
そう言うと魁は車のエンジンをかけるや、その場を立ち去るのだった。
「……ラフィン……」
「美誠……!」
教会の祭壇の前で考え事をしていたラフィンは、美誠の登場に驚く。
しばらく沈黙が続く。
先に口を開いたのはラフィンだった。
「あの……」
だがそれはすぐに美誠によって遮られた。
「俺さ。俺……昨日ラフィンの言動とそれに対する自分の気持ちが分かんなくってさ。魁に……相談したんだ」
美誠は教会の入り口の前に佇んだまま、言った。
「そう……ですか……」
「そしたら魁さ。分からないならはっきりさせてやるって、俺に……キスしてきて……っ」
「……!」
「魁がさ。早くラフィンの所へ行かねぇとラフィンから俺を奪うって言うんだもん……思わず、こっちに来ちまった」
「美誠……」
ラフィンは彼女の名を口にしながらゆっくりと、祭壇の前から美誠の方へと歩を進め始める。
美誠もそんな彼の気配を感じながらも、下を俯いたまま言葉を続ける。
「でもやっぱり恋愛感情っての、よく分かんなくて……だってラフィンとはケンカばかりしてたし」
「美誠」
二人の距離は、少しずつ近いものになっていく。
これに慌てるようにして、美誠は言葉を捲くし立てる。
「多分またケンカするかも知んねぇぜ。だって俺じゃじゃ馬だからさ」
「美誠」
「だからさ。とりあえず今は……」
「愛してる」
こう言ったラフィンはもう、美誠の目の前だった。
俯いたままの美誠の視界には、彼の足が見えていた。
だが相変わらずそのままで、美誠は声を絞り出すように答える。
「やめてくれ。俺にそんな感情持つのは。俺に恋なんて無理だよ」
「これから私を愛してくれても構わない」
「だって釣り合うわけないじゃん。大人のラフィンとガキの俺なんかじゃ……」
「それはこっちのセリフです。クローン体である私なんかが、普通の人であるあなたを愛するなど罪だと思っていました。ですが水沢までがあなたを愛していることが分かった今、例え罪を犯すことになろうとも私が貴女を愛してしまったことは、もう止められないとはっきり解ったのです」
「ラフィン……」
彼の名を口にしてようやく顔を上げた美誠の目からは、涙が溢れていた。
「水沢に貴女を渡したくない。他の誰にも。貴女のことを想うたび、この感情を抑えることが出来なかった。貴女が必要だと。貴女をこの手で抱きしめたいと」
「ラフィン……っっ!」
「貴女を何よりも愛していると……!」
ラフィンは言うや否や、目の前で涙を流しながら立つ彼女を、抱きしめた。
「あ……」
「愛してる」
「お……れも、俺も……ラフィンが好き、だ……」
「美誠……」
美誠はおそるおそる彼の背中に手を回すと、そっと抱きしめ返した。
「俺もラフィンのこと、愛してる」
「美誠……I Love you」
ラフィンは静かに耳元で囁くと、体を離して彼女を優しい眼差しで見つめてから、そっとキスをしてきた。
今度は美誠も、そのキスを受け入れる。
2、3度短くキスをすると、やがて情熱のこもったロングキスを交わしあうのだった。




