Data,1:双葉学園売店名物
梅雨も終わり、いよいよ本格的な夏到来の七月初め。
暑さも日が増すごとに強くなる中、この双葉学園は校内から聞こえる若々しい少女達の賑わいで満ちていた。
生徒達が全て女ばかりの双葉学園は、そこが女子校である事を物語っている。
全国から生徒が集まる女子校なものだから、校内ではいろんな地方から来た生徒達の、いろんな方言の会話が飛び交っている。
今の時間はランチタイム。
校内の食堂に行く者、そして売店で昼食を買う者、または弁当持参など様々だ。
全国から来たいろんなタイプの生徒がいるものの、やはり女子校なだけあって華を感じさせる。
――が、そんな中それを感じさせない女子生徒が一人……。
「だあぁぁーっっ!! くっそぉっっ!! まーた今日も俺様が好物のウインナーフライが売り切れてやがったぜ!!」
その少女は悔しげに大股歩きで屋上にやって来ると、三人の女子生徒が座っている輪の中にドカリと腰を下ろした。
「美誠……あんたいつも四時限目が終わる頃寝てるから、売店に間に合わないのよ……」
呆れながら三人の中の一人、セミロングでどこか大人っぽい山村満里奈がその少女に声をかける。
「美誠は一見寝てるようには感じさせない器用な寝方してるから、それに気付かない先生が多いもんね」
持参した弁当を突きながらこう言ったのは三人の中の二人目、普段からおとなしく小柄で髪を左右二つに分けてまとめたヘアスタイルがよく似合う西沢望だ。
「そんな居眠り美誠の為になんとこの梓さまが、四時限目終わりのチャイムの後にごった返す売店で買っておいてあげました!!」
そう言って最後の一人、背が高くてショートヘア、お喋り大好きな藤井梓が隠してあった透明パックに入ったウインナーフライを、自慢げに美誠と呼ばれた少女の前に差し出した。
「うぬおぉぉーっっ!! さっすが梓! やるじゃんか! うわーい嬉しー♪ サンキューな!」
目を輝かせて大喜びしながら悠貴美誠、高校二年の17歳は梓からそれを受け取る。
長く伸ばした艶やかな黒髪をポニーテールにまとめ、少し小生意気さを感じる二重の黒い瞳。
身長158cmの体重41kg細身で少し小柄。
一見可愛らしい女の子に見えるが、その性格は強気で男っぽくよく動き回る。
ちなみに彼女が好物としている双葉学園売店名物ウインナーフライとは、ウインナーに天ぷらのような薄っすらとした衣をつけた食べ物で、一パック6本入りで200円で売られている。
他では見たことも聞いたこともないこの風変わりな食べ物は、校内で莫大なる人気を維持していた。
「利子付きで300円、うちに払うてな♡」
「じょ……っ、冗談だろオイ! このビンボーな俺から金、倍取りしようってか!」
梓の言葉にムキになる美誠。
生まれた時から親のいない美誠は児童施設出身で、この高校の学費はその施設から出ていたものの、生活費は週末2日のバイトで賄っていた。
まぁもっとも、双葉学園は地方から来た生徒の為に、食堂付き寮も完備されているから大して生活に支障はないのだが。
「冗談やて! うちも金のないあんたから余計に金取るほど鬼やないっつーわけで、うちからの奢りや。感謝しぃや♡」
「さっすが梓! 感謝するぜ♡」
「あたし達二人からは金取るくせにねー」
「うん……」
満里奈と望がお互い頷きあう。
「あんたらはええやないか。親から小使い貰てる余裕あんねんから。それに比べて美誠はそうゆう親おれへんねんで」
「まぁそういう湿っぽい話はよそうぜ! 今は飯だ飯!」
美誠は言うや否や、ウインナーフライにパクついた。