Data,14:気色悪いわね!!
放課後、言われた場所で待っていた悠貴美誠。
目の前を水色のワンピースを着た女が通り過ぎていく。
そしてしばらくすると微かに呻き声が聞こえ、見ると100メートル程先でさっきの女が蹲っていた。
「大丈夫ですか!? どこか苦しいんですか?」
美誠は慌てて駆け寄り声をかける。
しかし女は物凄い顔色で酷い痙攣を起こしている。
「ど、どうしよう……! 救急車……!」
すると突然ガシッと女に腕を捉まれた。
「な……!」
「あ……あたしを助けてくれるの……?」
「当たり前じゃないか! あんたの苦しみ方は普通じゃない! 救急車呼んでやるから手を離してくれ!」
「だ……だったらカンタンよ……あなたがあたしと一緒に来てくれればいい」
「来てくれってどこに……」
「そ、そこに主人の車が……あるの。その車の中に安定剤がある、わ……そこまであたしを連れてってちょうだい……」
「ん、ああ、分かった」
美誠は女に肩を貸して支える。
「どこにある? その車は」
「ホラ……見えるでしょう? 100メートル先にあるあの黒い車……」
すると別の車が背後から横付けしてきて、水沢堂魁が窓から顔を出した。
「ちょっと何してんのあんた! 角で待ってろって言ったじゃない!」
「だってこの人が倒れてたから……あの黒い車まで連れてってほしいそうなんだ」
「黒い車……?」
あれは……全窓スモークガラスのバン。あやしいわね。
「いいわ美誠。あんたはあたしの車に乗ってなさい。あたしがその人を連れてって……」
魁は言うと車から降りてきた。
するとここで初めて女が声を荒げた。
「放っといて! あたしはこの子に連れてってもらいたいのよ!」
「じゃああたしも一緒に……」
「あんたには用はないわ! この子にだけ用があるのよ!」
「用……?」
「お、脅されてるのよ……! この子を連れてくるまで安定剤を渡さないと……!」
「ちょっとどういう事よ」
「うるさい! あたしは早く安定剤が必要なのよ!! でなきゃあた……あたし……う、ぐ……っっ!!」
「!?」
突然、女の体が異常な変形を始めた。
「うわっ! 何だこいつ!!」
「……!!」
美誠は後退り、魁は無言で様子を窺う。
「ぐぅ……が……っっあああああっっ!!」
女は叫ぶと片腕で魁を払い飛ばした。
とたん魁は4~5メートルも吹っ飛んだ。
「魁っっ!!」
女は狂ったようにそのまま魁に飛びかかる。
「来ちゃダメ美誠っっ!!」
魁の言葉に、美誠は足を止める。
「く……っ、こいつ……っっ!! 化け物か!?」
押さえ込まれるのを必死で耐える魁。
変形した女の外見は、頭が割れ異常に発達した巨大な脳みそをむき出し、両腕の二の腕が細身の女のウエストくらいに筋肉で太くなり、アンバランスなくらい上半身も筋肉で逆三角形に発達していた。
「ど……っっきなさいよっ! 気色悪いわね!!」
魁は渾身の力で女を突き飛ばすと、バッとナイフ2本を取り出して女めがけて投げつけた。
ナイフは女の両足に突き刺さるが、女は平気そうだ。
「うっそ……これがダルタニアスの言うクローンの刺客だと言うの!? ただの化け物じゃないのよ!!」
ダッと魁は駆け出す。
「美誠!!」
美誠の方を見ると、美誠はいつの間にか4~5人の男に黒い車に連れ込まれようとしていた。
女の方は、さっきまで魁がいた所の塀をぶち壊していたが、その力に肉体が耐え切れず片手が潰れている。
「やめろっ! 離せ!!」
「美誠!!」
魁は飛び込むと男達を殴り倒す。
男達はそれぞれ体に何か異変を持っていた。
魁はゾッとしながらも美誠を引き寄せて自分の車に戻ろうとすると、さっきの女が残りの片腕を振り上げて突進してきた。
必死に美誠を抱きかかえるように、脇へと飛びのく。
派手な音を立てて女は、黒いバンの車のボディーにめり込む。
「大丈夫? 美誠」
「ああ、大丈夫だ」
「こんなの一気に相手してたらさすがのあたしも苦しいわ……」
言葉が終わらない内に美誠が片足を上段に突き上げ、立ち上がろうとする男の一人に思いっきり振り下ろす。
「あんたはいいから早くあたしの車まで走りなさい!!」
「分かった!」
駆け出す美誠の前を他の男達が立ち塞がる。
「邪魔なんだよ!!」
美誠は男の懐に飛び込むと力一杯腹に膝蹴りし、そのまま抜けながら身を翻してもう片方の足で蹴り飛ばすと、車めがけて走る。
「さすがじゃじゃ馬。ただおとなしく車に走ったりしないわね」
魁は言いながら男達と格闘すると、急いで美誠の後を追う。
そして黒い車体から派手な音と共にめり込んだ自分の体を抜け出してくる女に、急いで美誠を車に乗せながら気付く魁。
「もうあいつ人間として扱わなくていいわね」
言いながら魁は銃を取り出すと2、3発女に向けて発砲した。
頭や胸に銃弾を喰らった女は、さすがにその場に倒れ込む。
車に乗り込んだ魁は、男達が起き上がるのを確認しながら、車を急発進させた。