Data,12:随分しょぼいの食べてんのね
「ちょっとチビ助! あんた何の為のボディーガードか分かってる!? 少しでもこうして時間が空く時はあたしの所に来なさいよ!」
教材置き場にて。
「はぁ……でも普通そっちから俺を守る為に来るんでは……」
「まぁ、小生意気なこと言うガキねあんたは!」
英語代理教師として着任している通称、ボディーガードの水沢堂魁からニギ~ッとほっぺをつままれる悠貴美誠。
「イチャチャチャ……」
これに振り解く様にして魁は、美誠の頬から両手を離す。
「いいこと? あたしはあくまでここでは教師で通してんのよ? そのあたしがいちいちあんたの所に行ってたら怪しいでしょうが! だからあんたからあたしの所に来るのよ! そしたら大して目立ちゃしないでしょ? あくまでもさりげなくよ、さりげなく!」
「あの、魁さん。もう少し静かに話せませんかね?」
「それぐらい出来るわよ! ただあんたがあまりにも気が利かないからヒスっちゃっただけよ!」
「はぁ……すみません」
理不尽さを覚えながら持ってきたウィンナーフライが入ったプラケースに、美誠は視線を落としながら呟く。
その視線の先に気付く魁。
「あら? あなたまた随分しょぼいの食べてんのね」
「放っといてくれます? 何せ俺……」
「解ってるわよ両親いないから週末バイトしてんでしょ? 知ってるわよそれぐらい。何せ情報屋兼便利屋なんだからそれぐらい基本よ基本。しかしただでさえそうやって生い立ち不幸なのに、更にダルタニアスのトラブルに巻き込まれちゃうだなんて。ホントあんたってツイてないわよねぇ……」
魁は額に片手を当てると、顔を横に振りながら嘆息混じりで言った。
この彼の言動にムッとする美誠。
「いちいち気に障ること言いやがってムカつく奴ですね。人の人生あんたなんかに同情されたかないです」
すると魁はコロコロ笑いながら答える。
「あらヤダ。同情なんかしてないわよ図々しい。あたしは呆れてるだ・け!」
「何かマジムカつくな。それにさっきからチビやらガキやら。俺にはちゃんと名前があるんです」
「フ。確かにダルタニアスの言う通り、威勢がいいわねあなた」
「ンな事言ってたんですかあいつは!!」
「いいわ。その威勢に免じてちゃんと名前で、美誠って呼んであげる」
「美誠?」
まさかのいきなり呼び捨てかよと、内心毒吐く。
「そうよ美誠。何か文句ある?」
「別にぃー。ま、せいぜい頑張って俺様を守ってくださーい」
「オホホホなかなかあなたといると退屈せずに済みそうだわ、よろしくね美誠」
「しょーゆーこちょホッヘふぉちゅみゃみゃにゃいじぇ言っちぇくだしゃい……(そーゆーことホッペをつままないで言ってください……)」
学校が終わり、帰りの時刻。
「なぁ魁さん。俺はもう寮に戻らなきゃなんねぇけど、さすがにあんたまで女子寮に来ることは出来ませんよ。その間のボディーガードがいなくなるってことっスよね。どうするんです?」
体育館の裏で落ち合う美誠と魁の二人。
「ん? 別にボディーガードだからって何もあんたにベッタリしなくったって大丈夫よ。寮の周辺で見張っといてあげるわ」
「そんなに離れていても大丈夫なんですか?」
「平気よ。どんな状況でもすぐに行動できる技量はあるからね。そんなことで手間取ってたんじゃ初めからダルタニアスもあたしなんかに頼みゃしないわ」
「こりゃまた大した自信で。じゃあ俺は寮に戻りますから」
その時、魁のケータイが鳴った。
普通にケータイに出る魁。
「それじゃ」
会話を始める魁を他所に、さっさと寮へと足を向けた時。
「美誠! ダルタニアスからよ」
そう言って彼がケータイを差し出してきた。
これに表情を一変させると美誠は、奪い取るかの如くケータイを手にすると、彼の名を呼びかけた。
「ダルタニアスさん!?」
“こんにちはミス・ミコト。今のところ何事もなかったようですね――”
「何事もクソもあるか! よりによってこんな訳分からんオカマ野郎を寄越しやがって!」
「なっ! ちょっとオカマ野郎とは何よこのクソガキ!」
「どうせ英語教師に変装してくるんなら別にあんたでも良かったろう!」
“しかし私にはクローン集団撃退の為にすべき事がありますし、仮にそうした所でプライベートでもきっと貴女と私はいろいろと関わる事が多いでしょう。今後起き得る数々のトラブルによってね。それでは周囲に怪しまれるでしょうから、私達は初めから他人同士にしておいた方がいいと思ったのです。それに裏世界のいざこざの経験ならば私より、水沢の方が上ですしね”
「水沢って、この水沢堂魁とかいう奴の事?」
“はい、そうで――”
ラフィンの言葉を最後まで聞かないうちに、魁が美誠からケータイを取り上げた。
「ちょっとラフィン! この小娘クソ生意気だからイジメとくわね。じゃあ何かあったら連絡する」
そう言って魁は一方的に、ケータイの通話を切ってしまった。
「あっ! コラまだ俺が最後まで話し終わってなかったのに!」
「あんたがガキのくせしてこの気高き魁様を貶すからよ。お子様はさっさとおうちに帰っておネンネしてなさい」
そう言い残して彼は、学校の門を出て行ってしまった。




