Data,11:ボディーガードの件
次の日の二時限目。
一体誰がボディーガードだ?
悠貴美誠が考えていると、教頭に連れられて一人の若い男が教室に入って来た。
「えー、一身上の都合により今までの英語教師がしばらく休職する事になった。で、まぁその間の一週間だけこちらの方に代わって頂くことになったので、よろしく頼む」
教頭に簡単に紹介されると、その男は教壇の前に立った。
「水沢堂 魁です。一週間という短い間ではありますが、皆さん、よろしくお願いします」
白いスーツがよく似合う男だ。
……こ、こいつか?
もしかしてこいつが例のボディーガードって奴か?
どう見ても鍛えられた肉体とは思えない。
内心密かに思いながら、美誠はこの新任教師をまじまじと見つめていた。
しかし英語の授業が終わると、早速お呼びがかかった。
「悠貴さん。先日の小テスト、君いなかったらしいね」
あ、学校さぼってダルタニアスさんに会いに行ってたからな。昨日。
「3分で終わるから少し、僕と一緒に来てください」
「……はい……」
訝しげに彼の顔を見ると、彼は美誠にウィンクして見せた。
ま、まさかやっぱりこの華奢男……!?
美誠は不安を抱えたまま、誰もいない閲覧室に招かれた。
この教室は普段、映像などを観る為に黒幕のカーテンと防音ドアなので、外に声が漏れることがない。
彼は美誠を中に入れてドアの鍵を閉めるや否や、突然大声で言葉を発した。
「ちょーっと! もう何なのよいきなり! あのダルタニアスの奴このあたしにガキのお守りを押し付けたりしてさー!」
突然の豹変振りに、美誠は飛び上がるほどに驚いた。
「あなたも聞いてるわよねぇ? ボディーガードの件。大体あたしは普段、情報屋兼便利屋をしてんのよぅ! もう! 確かに銃の腕もそれなりにあったりするけどさぁ、こんなところじゃあ裏情報の仕入れなんて出っ来ないじゃないのよぅ! 知ってる? おチビちゃん。情報ってのはね、生き物なのよ。こう一週間も学校なんかで燻ってたら、あっと言う間に情報は先へ先へと進んじゃうの! まったくあの外人ったら、まだこの国に来たばかりで行き倒れているあいつをあたしが助けてやって、今の教会に匿わせてやったのをいい事に、もうあたしをコマ扱いしてんだから、ホント恐れ入るわよねぇ! あたしが裏の人間なのを分かっててよ!? 度胸がなきゃこんなあたしにこーんな思いっきり違う事頼まないわよねぇ! ま、だからこそそんなあいつに協力してやってるあたしがいるんだけど」
魁は教室内をウロウロと歩き回りながら、身振り手振りで一気にそう捲くし立てた。
これに半ば戦々恐々としていた美誠だったが、勇気を振り絞って訊ねてみた。
「……あ、あのぅ……ひょっとしてあなた、オカマさん……ですか?」
「んまーぁっっ!!」
ビクゥッ!!
突然室内に響き渡る奇声に、更に美誠は飛び上がって驚く。
「人に守ってもらおうとしていて、よくもそんなこと言えるわねこのチビ助は! いい? あたしはこんな口調をしてるけど心は立派な男よ、オ・ト・コ! そんじょそこらの小汚い変態と一緒にしないで頂戴! これでも女を愛することも出来るし女とSEXだってするの! だって当然でしょ! あたし男なんですもの! 断じて男にはキョーミなくってよ! あ、あと10代のガキにもね。やっぱり恋愛対象としては二十歳からでしょう」
「は、はぁ……でも、その口調で言われても説得力が……」
「あんただって男言葉使ってるじゃない。それと一緒よ」
「ああ、なるほど」
この指摘には、どうやらスムーズに受け入れられたらしい。
美誠はポンと手を打って納得する。
「と、言うわけぇ! 分かった? これからあたしがあんたを守ってあげるから、あんたはくれぐれも余計な事してあたしの足を引っ張らないでちょーだい!」
「……はい……」
美誠は、魁の圧倒力にそれ以上、何も言えずにいた。
弁当の時間。
友達と昼食を食べようとしていると、再び魁が現われた。
「やぁ悠貴さん。さっきの小テストだけど、解答が一つ抜けていたみたいでね。食べる前に少し、その答えを書いてくれないか」
笑顔で言う彼の言葉は、当然美誠を呼び出す為の嘘である。
そもそもテストで無回答の書き直しなど、あるわけがない。
「は、はい……」
しかし美誠は、渋々と彼の後を付いて行く。
「何や、早速あの先生に目ぇ付けられてるみたいやな、美誠」
その後ろ姿を見て、藤井梓がポツリと言った。