第九話
結果的に私とお義父さん(ラシイ)と仲良くなることができた。
最初は堅苦しい挨拶で始まり緊張していたが、酒が回ってくるにつれてラシイさんは泣き上戸、カノアは笑い上戸でお義母さん(イソラというらしい)はお酒を飲まずに上品に笑っている、というカオスな状況になるのにそう時間がかからなかった。
「私は悲しい、あんなに父のことがすぎだど言って、いたの、に」
右肩には生まれたときのエピソードから肩たたき権の話をひたすらにする娘の父がいて......
「フフフ、エヘヘ」
左肩にはニヤニヤ笑いながら耳に息を吹きかけてきたり、唐突にパンを口に入れてきたりするカノアがいる。
ここは天国なのか地獄なのか......
さりげなくカノアの腰に手をまわして天国成分を補給しておこう。速くも遅くもない自然な速度で腕を動かす。
ややや、柔らかーい!女生徒はかくも素敵なものだったのか!
「聞いているのかい!きみぃ!」
地獄のほうもパワーアップしてきた。涙ながらに迫ってくるラシイさんとの顔の距離はもはや指一本分もない。
「聞いてます、聞いてますって」
「そうか、聞いているのか、あーどこまで話したっけなぁ」
彼はとても酔っている、ふと、今ならなんだって話してくれるかもしれない。これからの自分の処遇について聞いてみることにしよう。
「私の処遇についてでしたよ。この国にはもう治療する人もいないしどうするんでしたっけ?」
「あー、下層に周辺国用の治療院を作成するのでその院長をしてもらう予定だ?周辺国の貿易大臣や外交官は禿が多いからなぁー」
心底不思議そうに彼が言うが、もしかしなくてもこの国がムチャぶりをしていたせいだろう。
「あとは居てくれるだけでいいんだ」
「それはなんででしょう?」
「呪いの対策がまだできていないからなぁ。そのためいてもらわなければ......」
そこで力尽きたようでラシイさんはテーブルに顔を置いた。
地獄側がなくなり必然的に天国側に振り向くがいつの間にやら私の肩を支えに寝てしまっている。
今日はもうお開きでいいだろう、お義母さん(イソラ)に話しかける。
「寝室はどこでしょう二人とも連れていきますよ」
「フフ、ありがとうね。お父さんも娘もとっても楽しそうだったわ」
お義母さんの案内によって二人を運んでいく。
娘さんのベットで一緒に寝たいがそれをお義母さんが許してくれるかどうか、それが問題だ。
「あー、僕の部屋ってどこなんでしょう?何だったらリビングで寝ますけども」
焦ってはいけない、とりあえずは良好な青年を演じておこう。
「カノアちゃんと一緒に寝てもいいんだけれど......」
「マジっす「結婚前ですからね、そういう事は結婚してからじゃあないとね?そうでしょう?」」
フフフと笑うお義母さんは悪戯が成功した子供のように見えた。
小悪魔的な才能がカノアに受け継がれていませんようにと私は神に祈った。