第八話
早々に鳥人族の陣営に入れたのは幸運だったのだろう。一日に三食たべることができるし、風呂トイレは現代と変わりなく使うことができる。
それでも若干の不満はある。それは道が鳥人族用に作られているため、行ける場所が限られているってことだ。
「いつもすまないね、私も君たちみたいに素敵な羽があればよかったんだが」
「いえ、救世主様の羽は私どもが成りますので、いつでもお声掛けください!」
青色の綺麗な羽をもつ青年(フローといったっけな?)が私を上階層に連れて行ってくれている。
移動方法はカノアに運んでもらった方法と変わらず空中ブランコ方式だ。たまに乱暴な鳥人族に当たるとおまたがひゅんとなるので今回のドライバーは当たりだ。名前を覚えておこう。
世界樹の里は鳥人族用に作られているため基本的に上下階層に移動する階段や梯子は存在しない。皆、飛んで移動してしまうためだ。
低階層の一部は飛べない人のために階段や梯子が設置されているがそれもほんの一部だ。
「救世主様のおかげでほぼすべての鳥人族は羽根を取り戻しました、本当にありがとうございました!」
私が世界樹に来てから約一ヶ月。私が治療している間にいつの間にやら戦争は終わっていて、いつの間にやらあだ名が[救世主様]になっていて、いつの間にか治療が必要な人がいなくなっていた。
そう、ハゲがいなくなってしまったのだ。
戦争による呪いのせいで禿げてしまっていた鳥人族ではあるが、いつの間にやら終戦したため、当然呪いは解除済みで新たに呪いで禿げる人はいない。
しかも鳥人族は基本的に禿げることがないのだ。そのため私のチートは現在無用の長物と化した。
せっかく物語の主人公のようにヒロインの故郷を救ったのに無職になってしまってはヒロインに立ったフラグも消滅の危機である。
こうなったら王様に直談判だ!
私に安定した仕事と今回の報酬を要求しに現在は上階層にある謁見の間に行っている最中なのである。
-------------------------
人間大のフクロウ。それが私から見た王様の姿だった。
「あなたには大変助けられました。この度の戦争は私どもの歴史の中でも類を見ない世界樹の危機でした」
図書館においてある本がしゃべりだしたらこんな声がするんだろうな。王様の声には溢れる知性と静粛さを感じた。
やめてほしい、仕事と報酬を要求するために強気の姿勢で来たのに一瞬にして拝見するだけで名誉、会話するだけで神聖みたいな雰囲気にされてしまった。
知性溢れる声で話される内容はこの度の戦争の経緯と私が成し遂げた治療行為がどのように戦争終結に役に立ったかを私がわかりやすいように話してくれる。
端的に言えばジャイ〇ン的な行為を周りの国に敷いていたら反逆されましたって内容だった。
神聖な雰囲気にも関わらず私は苦々しい顔になってしまった。
「なぜそんなことを?」
ふと疑問に思ったことをいつの間にやら言葉にしてしまった。
王様や大臣はキョトンとしているし真面目に質問することにした。
「なぜ周辺国からお金を得る必要があるのですか?周辺の森は肥沃で食料は問題ありません。衣服や嗜好品は必要でしょうが、戦争の理由になるほど世界樹アイテムの値段を吊り上げる必要性を感じません。何よりこの街は良い街ではありますが贅沢な街ではなさそうです」
私が一ヶ月過ごした感想である。
この街は世界樹を信仰していて清貧を美徳としている印象だった。鳥人一人ひとりの意識が高いため明らかな贅沢品は趣味が悪いとされているし、情には熱いため治療した人は私に敬意を払ってくれる。
周辺国から暴利を貪っているのは印象と違うのだ。
「世界樹のために技術を買っているのである」
なんとこの国は周辺国から得たお金のほとんどを世界樹を覆うためのバリアのために使用されているらしい。
バリアは有害な魔素をブロックし世界樹に必要な魔素だけを通すシステムで透明な網のような形状をしているらしい。
ブロックした魔素を浄化するために月に一回は大規模なバリア張り直しをしているらしくそれも大きくお金がかかる原因らしい。
「バリアがないと世界樹に何か影響があるのでしょうか?」
「ないとは言い切れないのである。世界樹アイテムである雫に効果が低下する影響が確認されているため20年前からバリアを張り始めたのである」
本体である世界樹には影響が確認できていないが朝露である雫には影響があるので念のためにってところか。
正直過保護化とも思うが鳥人にとって世界樹は神同然だ、当然の処置かもな。
「失礼しました。当然の行為でしたね」
「いや、今となってはやりすぎだったと感じている。私たちにとって世界樹の保護は当然だが、世界樹を信仰していない種族にまでその価値観を強要していた。私たちは反省すべきだ」
この王様と話しているといささか調子が狂う。私の知っている王様はもっと俗っぽかったり、尊大な態度だったり......漫画やアニメの影響だな、本当の王様はみんなこんなにカリスマがあるのかもしれない。
「すまないが時間が来てしまったらしい。申し訳ないが報酬などについては大臣と話してほしい。ラシイ大臣後は頼んだよ」
ラシイと呼ばれた黒い羽で顔に皺が刻まれたダンディなおじさんが私を別室に案内してくれる。
「申し訳ありません。王は現在他国との友好に尽力されております。救世主殿をぞんざいに扱っているわけではありませんので何卒ご理解をお願いします」
「いえ、わかっております王様も大変でしょう」
「報酬の件もですがこのラシイ、それ以外にもお話したいことがございます」
「何でしょうか?私にできることならなんでも聞きましょう」
「では、娘の[カノア]についてなのですがどのような関係性なのでしょうか?」
まさかのヒロイン(カノア)のお父さんと会合である。
正直カノアとはチッスもしていないような純情な関係であるがフラグとしては立っているような気がしている。
治療に忙しかったのもあるし余り仲を深めることができなかったが一緒に仕事をした仲であり、友達以上恋人未満だと私は思っている。
「あーいやその」
「そろそろ夕飯の時間でもあります。どうでしょう報酬の話も我が家でやるというのは?妻の作るスープは絶品なのですが」
丁寧に話すラシイさんはいつの間にか上下移動用の空中ブランコを片手に私に話しかけてくる。
若干の恐怖を感じながらも抗えない空気を感じ、私は頷くしかなかった。
ちょっとずつでも投稿をしようと思います。
短い話もあると思いますがよろしくお願いします。