第六話
世界樹は現状確認されている限り一本きりの超貴重な大樹である。
莫大な魔力を光合成により作成し大地や空気を通じて常に魔力が放出されている。
放出された魔力は周囲の生物に様々な恩地をもたらす。清浄な魔力に包まれている周囲の森は魔物は近寄れず、希少な動植物が大量に存在する。
その中でも特に貴重なものは3つ。世界樹の枝と葉と雫である。
世界樹の枝は魔法道具の触媒として最高峰の素材となる。そのままでも魔力を通せば回復の力を使用することができる天然の杖でドワーフが作成した杖ともなると神話に語り継がれるほど強力なものとなる。
世界樹の葉は超強力な活性化アイテムである。自然回復力の上昇、身体能力の上昇、魔法力の上昇......数えるのが面倒なほど力が上昇する。
また、エリクサーの材料としても有名で錬金術師としては垂涎の的である。
世界樹の雫は世界で最も希少な回復アイテムである。世界樹の朝露がこぼれ、一定の場所に溜まるそれは一口飲むだけで些細な切り傷を回復し、体調を改善する。雫を蒸留し、濃縮したものをポーションといい、使用するだけであらゆる外傷を治療する。
問題なのは上記すべてのアイテムを鳥人族だけが管理している事実である。
様々な種族は世界樹のアイテムを求めて貿易を要求するが鳥人族は断固拒否。
それに激怒して攻めてきた種族に対しては大量にポーションを使用して勝利を確実なものにしてきた。
まあ、端的に言って鳥人族は他種族に嫌われていたのである。
住む場所は神話に語られる聖域の世界樹であり、希少なアイテムは周りの種族には恩地をもたらさず、プライドが高く、貿易されている少数のアイテムはぼったくり価格である。
多くの不満を抱えていた他種族は人族が開発した呪いをきっかけに秘密裏に結託した。それがこの戦争の大筋である。
であるから、呪いが回復し大量の兵士が復活したことで他種族は焦った。
勝利を確信していた矢先の出来事であり、鳥人族からの救援要請を拒否した私たちは世界樹のアイテムを手にすることは生涯ないどころか貿易されている少数のアイテムをも貿易停止されかねない状況なのだ。
なんとしてでも人族に勝ってもらわないといけない。だが、現状の鳥人族に勝つのは不可能だ。
例え人族に協力し、兵士の人数を倍にしたとしても勝てないのだ。
周囲の森が行軍を阻み、対面できる人数はどうしても少数になってしまうし、相手は常に世界樹の葉により活性状態であり、ポーションも常備している。勝てる道理がない。
そんな彼らが選択したのは......
「すいませんでした!!!」
「出来心でした!!!」
「貿易停止は勘弁してください!!」
全力の土下座である。秘密裏に協力した種族のすべての使者と人族の使者が世界樹に集まり、許しを乞うていた。
困ったのは鳥人族である。
そもそもの発端は身から出た錆である。少しでも世界樹の恩地を周りの種族に分けて入れば、呪いがかかっていて敗戦濃厚であっても救援要請に応じてくれただろうし、他種族の国に避難もできただろう。
当初の予定としては人族のみ罰して周辺国には世界樹の貿易をすることでもうこのようなことがないようにするつもりだったのだが、周辺種族すべてが結託していたと話されてしまっては人族だけ罰するのは無理がある。
また、今回の救世主であるカノアの主人は人族である。その点を鑑みて、鳥人の王は決断した。
「今回の戦争は私たちが世界樹の恩地を独占したために起こったことです。本来ならば私たちは世界樹の恩地を周囲に与え、世界の秩序を保つべきでした。」
すっと息を吸い、使者一人ひとりの顔を見渡していく。
「私たち鳥人族は今回の件を反省し、世界樹が無理しない範囲で世界樹アイテムの貿易を開始したいと思います。また、その他のアイテムに関しましても大幅な値下げと品数増加をさせていただきます。」
「この戦争は勝者なく終戦しました。そのため、賠償金などは必要ないと各王にお伝えください。」
未来で歴史の転換点として語られるこの戦争は歴史書にはなくてはならない戦争として語られ、様々な美談と批判の上で人々は「世界樹戦争」、またの名を「禿戦争」と呼んだ。