第二話
私が目覚めたのは大きな樹の下であった。葉の間からきらめく日の光と高らかな鳥の鳴き声が私を気持ちよく起こしてくれる。
上体を起こし、周りを見渡してみると樹の周りは小高い丘となっていて見渡す限り草原が広がっていた。
なるほど、草原の主のように一本だけここに生えているらしい。なんとも絵になることだ。
美しい景色のおかげか、すがすがしい気分であることに気が付く。いや、違うか。このすがすがしい気分は「150キロのストレートを全力で空振りした時」の気分である。因みに監督からはバントの指示がでていた。
やってやったという気分とやってしまったといった感覚としょうがないねといった言い訳が私を慰める。
私はチート能力を「髪の毛を生やす能力」にしてしまったことがことのほか精神を蝕んでいるらしい。
せっかく異世界に来たのにこの気分と景色では景色を楽しみつつボーっと一日経ってしまいかねない。大きく息を吸い込んで気分転換を図る。
とりあえずweb小説の前例に則りチート能力の確認をすることにする。不思議と生まれる前から持っていたようにこうすれば能力を使用できるとわかるため自分自身に使用してみる。
ただ漠然とイメージをしないで使用したためか、私の髪質通りに伸びて半年間髪を切っていないようなもっさりとした髪になった。
前髪が目に当たって鬱陶しいし、そこはかとなく頭が重くなってすがすがしい気分が台無しである。ポケットや周りを見渡して髪をくくる道具、あるいは切る道具を探すが見当たらない。
なるほど、能力のみの転生らしい......
(この見渡す限りの草原地帯を日が沈むまでに脱却しないといけないのか......)
神様ももう少し融通を効かせて村までの地図など用意して欲しかった......
(最悪の場合野垂れ死にかなぁ)
いつの間にか握っていた拳から汗が垂れるのがわかる。不安をこらえるように勢いよく立ち上がる、揺れる髪が鬱陶しい。
「心はホットに、頭はクールに」
人生の座右の銘をつぶやき、冷静を保つ。大丈夫だ私、能力は能力でも腐ってもチートである。
村や町につけば私の患者は大勢いるのだ、この見渡す限りの草原地帯を脱却すればいいだけだ。何も問題ない。
周りをよく見渡して道がないかどうか舐めるように観察するが、けもの道すら見つけることができない。
視覚がダメなら聴覚だ! 目を閉じて静かに音を聞くが高らかに歌う鳥の声しか耳に入らない。
とりあえず鳥が来た方向に行くしかない。早く移動しなければ夜になってしまう、現代人の私は野宿のすべなど知らないし野外で安全な寝床を作る技術などわからないのである。
日暮れ前には人と会いたいな......
ため息一つ、これから移動する距離を考えると少なからず気分が暗くなる。
テンションを上げるために好きな歌でも歌いながら自分を励まそう。
「パンツくいてぇ~」
「変態だー!?」
第一異世界人発見である。