さようなら地球
割れた道路には陽炎が立っている。
そこに遠慮や気遣いは微塵もない。
大昔にタイヤは廃止され磁力によって超高速でクルマは走り、自動運転が確立された今は小学生までもが免許を持っているのだが、今は何も走っていない。
街から人は消えていた。
警報だけがやかましく鳴り響いている。
空には巨大で歪な形をしたナニカが浮かび街を見下ろしていた。
「日本国政府より非常事態宣言が発令されました。速やかに屋内にー」
学生服の男は空間に映し出されたニュースを観ていた。
「本当に行くの?」
頭に大きなライダーゴーグルをかけた金髪の少女が隣にいる学生服の男に心配そうに問う。
「だってあれを倒せるのは俺しかいないだろ」
「でも.....!!!」
「大丈夫。きっと帰ってくる。」
そう言い残して学生服の男は走り去っていった。
2050年の日本の夏は異常気象だった。
蝉すら鳴かないほどだ。
何処かのダムは干上がり、水不足らしい。
「夏はうんざりだ。ただ蒸し暑いだけの季節なんて誰もいい気分にはならないだろ。」
空間に映し出された3Dのゲームを淡々とこなす制服姿の高校生が、机の上にだらしなく寝転がっていた。
彼の名前は健二。
痩せ型で少し背丈はあり、髪はボサボサでシャツが半分出ている。
ここは健二が所属する高校の部室。
ドアにはpc部という文字にバツ印が書いてあり、その隣にオタク同好会♡と落書きされている。
部屋の角に一台設置された扇風機は、強になっているが、それでも暑い。
窓からは運動場が見え、様々な部活が掛け声をあげながら練習している。
「おい健二。夏は彼女出来る確率がグーンと上がる素晴らしい季節なんだぞ?それをどう言うつもりだ?」
そう言い返すのは悟。
机の上の機械をいじりながら椅子に座っている。
こちらは普通の体型で身長は健二より小さい。
大きな丸メガネをかけており髪は生まれつき茶髪でそれがずっとコンプレックスのようだ。
健二が悟を部活に勧誘し半ば強引に入部させられた。
「それ去年も言ってたよな!それで勢いで山田に告白して振られただろ!」
健二は体を起こしながら説教口調で言う。
「その話は思い出して辛くなるからやめようって約束しただろ!大体健二もこんな昼間っからゲームばっかり!しかもやってるのはマインスイーパー!そんなんだから彼女出来ないんだよ!」
言われ放題の健二は何かいい返そうとしたがやめた。
「あっちぃからあんまり喋りたくねぇ......」
そういうと健二はまた机に寝転がってしまった。
そうしてしばらく運動場を見ながらぼーっとしていた。
「出来た!ほら健二!出来たよ!」
悟がずっといじっていたものが完成したようだ。
「お!ついに出来たか!」
健二は起き上がり、生気を取り戻した。
「じゃあスイッチ押すよー!3...2...1...」
今まさに押そうとした時、部室のドアが乱暴にバンッ!と開いた。
「やっぱりここにいた!健二!文化祭の準備あんた以外来てるんだけど?はやくきなさいよ!」
其処に立っていたのはミカ。
健二のクラスメイトであり幼馴染である。
「うるせぇ!てか俺宣伝担当だろ?別に参加しなくてもいいだろ!」
健二は負けじと反論する。
「そういう問題じゃないの!......ってなにやってんのあんたたち?」
「ふっふっふっ...これはですねぇ...」
目標が機械に移ったのを感じて悟は自慢気に説明しだした。
「いわゆる完全記憶再現装置って奴ですよ!」
明らかにミカの頭上にクエスチョンマークが浮かんでいる。
さらに悟は続けた。
「えっと簡単に説明すると、一度見た人間の動きを装着者にほぼ100%再現させる装置なのです!野球選手の動きを記録すればまんま剛速球投げちゃうことができたり、格闘家の動きを記録すれば喧嘩負けなし!最強の男になることだって出来る夢の装置なのです!」
「ふーんそうなんだ。」
明らかに興味がないミカをみて悟はひどく落ち込んでしまった。
「そんな事より、ほら健二!いくよ!みんな待ってんだから!」
「おい引っ張んなよ!自分で行けるからいいって!」
ミカに引っ張られながら落ち込んだ悟を残して健二は去っていった。
放課後。
外はすっかり暗くなり、文化祭の準備が終わったクラスのみんなはどうやらファミレスに行くようだ。
健二はミカに誘われたが早く帰りたいと断った。
ミカはどうやら行くようだ。
下駄箱から靴を取り出す瞬間何故か悲しくなった。
音楽を聴きながら下校する。
健二のすむ街は完全管理社会を実現しようと盛んに開発にされている。
至る所に防犯カメラが設置され、人工知能によって犯罪が行われた瞬間通報され警察が駆けつけるようになっている。
しかし未だ開発されていない地域も多く、健二はその未開発の地域に住んでいた。
未開発の地域は開発済みの地域に比べ土地は安いが治安は悪い。
スーパーや図書館の隣にスナックや風俗店があるほど人口は密集している。
罵詈雑言が絶えず聞こえ、事件事故が多発しているような場所もある。
日本政府としてはそのような地域をなくしたいのだが、監視されて生きるよりはマシと人は集まり、そのような地域の人口は増加傾向にある。
あと5分ほど歩けば家に着くという所。
横たわる人影が見えた。
どうやら女性の様だ。
「大丈夫......ですか?」
声を掛けながら近づく。
20代くらいの外国人の女。
髪は銀髪で腰ぐらいまである。
肩をゆすろうと手を伸ばした時。
気付いた。
腕がないのだ。付け根のあたりから。
地面は大きな血溜まりができていた。
「....ッ!?救急車!」
健二は怖くなり、携帯を取り出そうとカバンを開けようとするが手が震えなかなか開かない。
ようやく取り出し掛けようとしたその時。
「...人間...カ?」
女が喋った。
「え!?今から救急車呼ぶから!」
「キュウキュウ...シャ?」
「そう!だから大人しくしてろ!」
「必要ない...お前の身体さえあればな......」
「えっ...?」
瞬間。
女は不自然に、体を反らしながら立ち上がった。
明らかに人間の動きではない。
同時、健二に強く抱きついた。
「なんだ...!?やめろ離せ...!!」
必死で振り解こうとするが離れない。
とんでもなく力が強い。
骨がミシミシと悲鳴をあげている。
「なんだこれ!!!」
女の手と健二の首が触れているところが健二に根をはるかのように一体化していく。
どんどん健二に女が入っていく。
段々意識が遠のきやがて健二は気を失ってしまった。
ーーー。
何か聞こえる。
ーーーろ。おきろ!
誰かの声で健二は目を覚ました。
朝になっていた。
どうやら自分の部屋のベッドに寝ているらしい。
頭が割れる様に痛い。
あれは夢だったのか...?
ミカへの度重なるストレスで精神でも病んでしまったのか?
「あれは夢ではないぞ。私がお前の記憶を覗き、身体を動かしてここまで連れてきたのだ。」
「そうか...そういう事か........」
「うむ」
「..........」
「はぁあああああ!?!?!?」
人生で二度と出すことがないであろう叫び声を今まさに出した。
「どういうことだ!?......ってかお前誰だ人の家に上がりこんで!」
「む。名乗っていなかったな。私はルシファー。
神の怒りを買い逃走中の堕天使だ。」
ルシファーを名乗る見た目中学生くらいの上下黒い執事服を着た女の子。
丁寧にお辞儀をしながら理解し難いぶっ飛んだ事を言っている。
「......わかった。わかったから。そういう年頃はみんなに等しくある。早くお家に帰りなさい。親御さん心配してるぞ?」
慈愛の笑みを健二は浮かべながら言った。
健二は思考停止していた。
「む、本当に私は堕天使だぞ!よし分かった見せてやろう。天使の力を。」
そう言うと健二の部屋にある机に飛び乗り、手を広げた。
「ハッッ!!」
女の子が叫んだ瞬間空気は乱れ、部屋の窓が粉々に割れ、飲みかけのペットボトルは破裂し、棚に入れておいた漫画や参考書がすごいスピードで飛び交い始めた。
「はっはっはっ!これがルシファーの力だ!怯えろ!跪くのだ!」
悪魔の様な高笑いをあげながら健二を見ている。
「やめろ!わかった...信じるから!!!......やめろって言ってんだろ!」
健二は飛んできた漫画をキャッチして彼女の頭を叩いた。
「ぐはあぁあぁ!」
ルシファーは力無く倒れた。
どうやら収まったようだが部屋は滅茶苦茶になってしまった。
「なんでお前あんな所で倒れてたんだ?」
ガラスを片付けながら健二は尋ねた。
「む。それはだな。神共にやられたのだ。
奴らは会議で人類を滅ぼす事に決めた。私は反対した。そしたら殺されかけたのだ。」
ルシファーは続ける。
「そして、致命傷を受け死にそうなところをお前が通りかかってきたので取り憑いたのだ。
生憎今私の身体は不完全でな。お前に寄生しないと死んでしまうようだ。すまない。」
健二が入れたお茶を飲みながら深々と礼をしてきた。
「全く...まぁ人類の為に神に反抗してくれたみたいだし、いいよ。もう。」
「本当か!いやぁお前は優しい人間だな!
そうだ!部屋を片付けるのを手伝ってやろう!」
そう言うと指をヒョイっとあげた。
途端散らかっていた部屋が元どおりになっていき、完璧に復元された。
「どうだ!?」
「いや......初めからやれよ!!」
「あっそうだ。お前は今私、天使とと契約したものと同義な存在だ。」
御構い無しに彼女ルシファーは続ける。
「なんだ?何かあるのか?」
「当然だ。大体そうだな.....1km離れたらリンクが切れその状態が5分続くと私とお前は死ぬ。
そして私の願い、人類滅亡を阻止すると言うことが達成されないとかの契約破棄はできない。」
彼女はそう淡々と説明した。
「はぁ!?滅茶苦茶じゃねぇか!てか俺のメリット何もない!違法契約だ!」
健二は泣きそうになりながら訴える。
「もちろんお前にもメリットはある。私の能力『究極記憶解放』をいつでも使うことができる。」
「何それ?厨二病みたいな名前だな」
「確かに私が小さい頃考えた名前だが、この能力は凄いのだぞ!?いいか?例えばここをグーで殴る。」
そう言って思い切り机を殴った。
木の部分が少し凹んだ。
「ぐ......痛い......そして殴った部分を触る。」
すると凹みは消え元どおりになった。
「すげぇ!便利な能力じゃん!」
「......まだ終わりではない。手を出してみろ。」
そう言われ健二は手のひらを差し出した。
その上にルシファーは拳を乗せた。
「いくぞ....?解放!」
瞬間健二の手のひらが何かに殴られたように弾かれた。
「痛ってえ!どうなってんだ?」
「ふふふ...これが私の能力だ。
場所に蓄積されたダメージを吸収し自由自在に開放することができる能力なのだ!」
ない胸を張りながらルシファーは自慢気に言った。
「すげぇ!!これ俺でも使えんのか?」
感激しながら健二は尋ねた。
「勿論だ!しかしお前との契約忘れるなよ?これから幾多もの神が人類に攻めてくる。それをお前が迎撃、排除。つまり神殺しをするのだ!」
「やるしかねぇよな。親に....悟になんて言おう....」
健二はこの時気付いてなかった。
大きな災厄が自分の身に降りかかっていることを。
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