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年のころは二十も半ばというところだろうか、面は細く優男の風情。
どちらかというと童顔で、笑うと無邪気なくらい目元がきゅうっと細くなるのが印象的だ。
少なくとも、今までミスティアの身近にはいなかったタイプの男である。
ミスティアの男兄弟は、みな限界まで肉体を鍛え上げた戦士だ。言動も男らしく――といえば聞こえがいいが、要するには粗暴。
笑顔は油断の表れと思っているのか、めったに笑うことはない。兄妹間のコミュニケーションといえば組手と怒声だと思っているような連中である。
そんな兄たちを育てた父も似たようなもの、ミスティアは生まれてこのかた父の笑った顔を見たことがない。
だから、へらへらと笑顔を見せるこの男を、本気で心配したのだ。
「君は、本当に戦えるのか?」
「ひどい言いぐさだな、いちおう歴戦の戦士ってことになっているんだが?」
「それにしては肉付きも……」
マーシュの体は確かに良く鍛えられている。しかし、戦士というには少し下半身が弱く、どちらかといえば労働者の体つきだ。
それに言葉遣いも戦場育ち特有の野粗なところが一つもなく、きれいなイントネーションをしている。これは町育ちの、それなりに裕福な家庭で育ったせいであろう。
彼は握手をほどかず、ミスティアをぐっと引き寄せてささやいた。
「ところで、隊長さんよぉ」
彼としては精一杯にガラの悪さを演出したつもりだろうが、巻き舌がうまくいかないせいで怖くもなんともない。
それでも、彼の放った次のひとことが、ミスティアを震撼させた。
「軍から支給されたアレ、着ないんすか?」
「な、なぜアレのことを知っている!」
「俺はな~んでもお見通しなんですよ。あんたのことなら、なんでも、ね」
ミスティアはぞっとして、彼の手を振りほどいた。
「私のことを調べたのか?」
「そりゃあ、自分の上司になる人なんだから、最低限はね。だけどそれ以上に、『戦場の紅狼』はあまりにも有名だ、軍に居ればいろんな噂も知れるわけですよ」
「私がアレを支給されたことも、噂になっているのか?」
「ああ、いや、それはちょっと個人的な伝手で……」
なんだか気味が悪い……ミスティアはそう感じて男から離れた。
彼はそれをとがめも、また落胆もせず、小さく肩をすくめた。
「アレを着た方がいい。あれは軍から支給された、いわば公衣……」
「そんなことはわかっている! だが、あんな破廉恥なものが着れるか!」
「それでも、着るべきだ。なぜならあんたは、あれを着るためにここに呼ばれた」
「なんだと、どういうことだ?」
「まあ、そのうちわかるさ」
それっきり、マーシュは黙ってしまう。
すっきりしない気持ちのまま、ミスティアは着任式を終えたのであった。