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着任式の日の朝、ミスティアは何を着るべきかを悩んでいた。
本来なら拝受したビキニアーマーを着るべきなのだろう。
軍から支給されたということは、つまり公衣――小さいながらも公式の式典であり、これから生死を共にする仲間たちに敬意を払うならばこれを着るべきなのだろう。
しかし……これは本当に礼節に足る姿なのだろうか。
ミスティアは試しにビキニアーマーを身に着け、鏡の前に立ってみた。
「これは……ダメでしょう……」
二つのカップはちょうど乳房の形、絶妙な安定感でやわらかいくせにたっぷりとしたミスティアの胸元を支えてくれる。
だが、それだけだ。
腹筋の形がうっすらと浮かんだくびれた腹部は一つも隠されることなく晒され、それはあきれるほど白くなまめかしい。
アンダーも、履き心地の問題ではなく、見た目がとんでもなくいかがわしいのだ。
恥じらうような薄毛に覆われた一番大事な部分はかろうじて隠されている。しかし、それがはかったかのように恥丘すれすれに張り付くような大きさであるが故、うかつな動きをしたらいろいろと恥ずかしいものがこぼれだしてしまいそうな塩梅であった。
「こんな格好……まるで踊り子じゃないか!」
村の祭りのたびに呼ばれていた興行師、その中には踊り子もいた。
素肌のほとんどをさらすような衣装で、細身なのにやわらかそうな体をゆすっての蠱惑的なダンス……それは色気にあふれていて、女のミスティアですらドキドキするようなものであったが。
「私は踊り子じゃない」
ミスティアは悲しくつぶやく。
幼いころから鍛錬に明け暮れた体は筋肉質で、見るからに固そうだ。
踊り子のしなやかな色香になど、遠く及ばない。
「そう、私は軍人だ」
着任式には、自前の着慣れた鎧で行こう、とミスティアは考えた。
それは打ち重ねたレザーとチェーンメイルを組み合わせただけの、装飾もそっけもない普段使いだが、幾多もの戦場を共にした愛用の品だ。
いくつもの刀傷が刻まれたミスティアの戦歴の証である。
だからこそ、これから部下になる荒くれどもの前に立つにふさわしいだろう。
肌を無駄にさらすようなこともせずに済む。
ミスティアだって年相応に恥じらいはあるのだ。
「それに……」
鏡に映った自分の姿が、思った以上に筋肉質であったことを思い出して、ミスティアは悲しく微笑む。
「私は軍人だ」
破廉恥な衣装が人々を魅了する踊り子の柔らかな肉体をこそ彩るものであるように、『鎧』こそが軍人である自分の筋肉質な肉体を飾るにふさわしい。
ミスティアは鏡の前からそっと離れたのだった。