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ロコモシ王国はファニ=ファイミ公国からの侵攻を受けて交戦中であった。
だから、武門の家に生まれたミスティアが国の守りのかなめである中央軍に呼ばれたのは当然のことなのである。
男女の別なく武人は足りていないのだし、それが優秀な人材であればなおのこと。十三歳という若さで兵士訓練校を卒業し、十七歳になる今日まで重ねた武勲は数知れず、返り血に染まったその姿から『戦場の紅狼』の異名をとる彼女であればこそ、田舎の自衛軍に埋もれさせておくのはもったいないと、中央軍の一個小隊の隊長として異例の大抜擢をされたわけだ。
ところが、このミスティア、新しく支給された防具を前に戸惑っている最中であった。
場所は中央軍参謀室、軍参謀長直々の接見であるのだから、何一つ粗相があってはならぬ。
しかし、その防具はあまりにも……。
「ビキニアーマーだ」
頬骨の張りつめた顔に表情すら浮かべず、参謀長はミスティアを見つめている。
「ビキニとは古代ロコモシ語で『福音を与えるもの』の意味、つまりこれは福音を与える天使のための装備であると、そう聞いている」
「し、しかし、これはあまりにも……」
素材はきちんと良質な鋼であるらしい。磨き上げられた表面は窓からのうららかな日差しを跳ね返して白銀に光っている。
しかし、あまりにも小さい。隠されるのは胸部――それも大きく張り出した二つの乳房のみ。それを隠すカップを白銀の鎖でつないだだけの破廉恥な形状だ。
「下もあるぞ」
その言葉とともに差し出されたのは、股間の、恥じらう毛が生えたごくわずかな部分のみを覆う小さな金属片。こちらも白銀の鎖で丹念につながれて下着の用を果たすように作られている。
上官への反意などとんでもないことだと心得ているミスティアも、さすがにこの破廉恥装備を押し返して言った。
「こちらはお返しします。装備なら自分で持参したものがありますので」
「それは、男用の重たい鎧だろう。これは体力のない女性にも負担の無いように軽量化された、女性専用の装備だ」
「確かに軽量であることは認めますが、これでは身を守る鎧としての意味を成さぬように思います」
かたくなに拒むミスティアを見て、参謀長は深いため息をついた。
「防御力など必要ないのだよ、君は女なのだから」
「それはつまり、内勤をしろということですか?」
「そうではない、君には前線で指揮を執ってもらおうと思っている。だが、女には防御など必要ないのだ」
「どういうことですか」
「戦場に女がいれば命を懸けてでもこれを守る、男とはそういう生き物だからさ。ロコモシ8千の兵士すべてが君の鎧となるだろう」
「だから、装備はこれで十分だと?」
「そういうことだよ」
「納得がいきません」
「上官命令でもかね?」
「う……」
「ミスティア=フィリス、このビキニアーマーを装備して、王立軍十二小隊を指揮せよ。これは軍命である」
そういわれてはやむを得ない。
「拝命……いたします」
彼女は両手を差し出して、恭しく、そのビキニアーマーを受け取った。