03 閑話
ルナレイアを客室まで案内したフォルカは、ユスティの部屋に戻った。
宮廷魔術師のユスティは、王宮の部屋を一室、与えられているのだ。
「なあ、あれ、どう思う?」
フォルカはルナレイアのことを疑っていた。怪しすぎるのだ。
「僕はあの子、好きだけどね。美人だし、かわいいし。まさかうちのベッドにいきなり現れるとは思わなかったけど」
「そこがおかしいんだ。ここの部屋のベッドに潜り込んで、素知らぬ顔で寝ていた、なんてことがないとは言えないだろう。記憶がないのも本当か怪しいところだ」
「でもあの子、聖女の色してるよ。同じ色した子がスラム街にいても教会が拉致……、保護するのに、あの子が見つからなかったとでも?」
考え込むフォルカ。
「まあいい。俺はあいつを疑ってかかる。お前はどっちでもいい。とにかく寝首だけはかかれるなよ」
「誰に言ってるのさ。これでもこの国一番の魔術師だよ」
「それもそうだな」
幼馴染の気軽さで、笑いあった。
2つ歳が違う二人だが、幼い頃から一緒に過ごした。タイプは違うが、なんとなく気が合った。
「そういえば、本当にレイも連れて行くのかい?」
先ほど話に出てきた、聖女、レイのことを聞いてみた。
「ああ、もちろんだ。疑っているとは言え、聖女ルナレイアのことは利用させてもらう。お前は死ぬなよ、ユスティ」
ユスティは苦笑した。
「死なないように頑張るよ。レイもルナレイアも、死なせたくないし、ね」
聖女ふたりは、この身に変えても守ろう。ユスティはそう思った。なぜだかわからないけれど、守りたいのだ。
「見た目からして聖女とはいえ、あいつが言っていたセカイなんてあるのか?」
「さあ、どうだろう。あるかもしれないし、ないかもしれない。でも、君の顔は知っているふうだったよ。僕のことも」
「お前にわからないなら誰にもわからないだろうな。俺とお前の顔なんて、この国にいる限り誰でも知っているだろう。なにせ、王と宮廷魔術師だ」
「それもそうだね。でも、近衛の……、ラナリー? だったっけ。君のことが大好きな子。あの子のことも知ってたら驚きだよね」
フォルカはラナリーのことを思い浮かべる。
「あの娘か……。俺のことが大好きなんじゃなくて、身分が好きなだけの、側妃になりたい女だろう。アレの身分じゃ王妃は狙えんしな」
「でも、近衛の団長が養女にしてもいいなってこの前言ってたよ。それなら、王妃になれるわけだ」
「まて、そんな話聞いてないぞ。というかそうしても王妃になどせん。面倒だ」
「そんなこと言っても、お世継ぎさまは作らないとダメだよ。周りにもせっつかれているんだろう?」
苦い顔をするフォルカ。
「お前までそのことを持ち出すのか。……魔王の件が片付くまでは嫁などいらん。面倒なだけだ」
「早く誰かとくっついてくれないと、ルナレイアが取られてしまいそうだからね。前の世界の勇者様とやらが好きだったみたいだし」
「ん? 遅い初恋がようやく来たのか? 趣味はいいとは言えんが、応援するぞ。手も出さん」
「かもしれないね。一目ぼれというやつだよ」
フォルカはその気持ちがわからないでもなかった。あの少女は、美しい。
得体の知れないところが傷だが、所作は紛れもなくどこかの貴族令嬢のものだし、高位貴族の令嬢だとしたら、王妃候補に上がっていてもおかしくない少女なのだ。
「あげないよ」
そんなフォルカの考えを読んだのか、ジト目でフォルカを見るユスティ。
「いらん。というかまだ手に入れてもいないだろう。チビ聖女のほうも考えとけよ」
「レイのこと? あの子は僕に懐いてるけど、恋愛感情じゃないよ。お父さんみたいなものだよ」
「チビでも女だ。甘く見てると痛い目を見るぞ」
「えー、ないない。僕から見ても娘みたいなものだよ。ルナレイアと瓜二つであってもね」
聖女であるレイは、ルナレイアによく似ていた。白銀の髪に、黄金の瞳。お姫様のような長い髪。
「忠告はしたからな」
フォルカとユスティは談笑を続け、キリのいいところで政務に戻るのだった。




