組み直し
1時間でどれほど書けるかという挑戦をしました。
荒削りではありますが、どうぞよろしくお願いします。
「もうすぐ今年も終わっちゃうね…」
簡素なベッドの上でか弱く彼女は呟く。これからあと数時間で終わる2017年は彼女との別れも意味していた。
「そんなこと言うなよ…俺、次こそは奈緒美のこと絶対に幸せにするから…」
首を横に振り、彼女は俺の手を握る。無理に口角を上げた彼女は今年も幸せだよ、巧くんと一緒だったから、と言う。今年に入ってから涙は貯蓄していた分全てを使い切ったはずなのに、また流れてくる。
テレビの向こうでは天文学者の声が聞こえる。シリアスな声の中にはどこか楽しげな声音も混じっているようだ。去年も一昨年もその前の年も気にしなかったことなのに、今年はうんと鼓膜を通して精神に突き刺さり、その場に不必要な感情をじわじわと噴出させる。
『5年ほど前から地球の公転周期上にこことは少し違う無数の地球群と交わるブラックホールが観測されましてね、これにこの地球が入ると、その無数の地球群とぶつかってバラバラになってまた組み直されて出てくるっていう現象が起こってしまってるんですよ。そのせいで身近にいる人達が多少違った人物になってしまっているということになってましてね…ええ…』
今年の奈緒美は余命2年の宣告をされていた。彼女は俺と出会ったとき、真っ先に謝っていた。何も言うことができなかった俺はせめて、彼女が安眠できるようにそばにいてあげようと決めたのだ。
「次の私にも…優しくしてあげてね…ゲホッ…!」
苦悶の表情を浮かべつつも彼女は俺の手を離すことはなかった。窓から見える空に星は1つも見えなかった。ただそこにあるのは誰かがいたずらに塗りつぶした様な真っ黒の穴だけだ。
「じゃあ……ね……」
そう言い残し、今年が終わるほんの数秒前に彼女は彼女らしい笑顔を精一杯に浮かべ、2度と訪れないであろうこの地球で永遠の眠りについた。心臓の止まった音は耳鳴りに似ていて、その上にいつの間にか変わっていた年越しの特番での楽しげな声が乗っていた。
さようなら、奈緒美。
世界が組み直される3秒前に、俺は息をしない彼女にキスをした。
テレビには沈黙が流れる。
不思議なことに握った手の感触も、まだ柔らかい唇の感触も、不気味なあの音も残ったままだった。
目を開けると何も変わっていなかった。奈緒美はそこに眠ったままだし、外の世界も何もかも同じだった。
『ええー番組の途中ですが、ここで速報が入りました。5年前から観測されていた組み直しのブラックホールですが、2017年の終わる直前に突如消失いたしました…これによって、今年は組み直しがされないということになります。繰り返します…』
もう奈緒美には会えない。
一緒にいた奈緒美にも、次の世界の奈緒美にも2度と会えない。
ニュースキャスターのその報道は唐突な死刑宣告のように聞こえた。
俺は床に跪き、泣き喚きながら変われと叫び続ぶ。
彼女の身体を揺さぶり、起きろ、変われと何度も叫ぶ。
だが、彼女に目覚める気配は微塵もない。
俺はこんなにも世界を不条理に憎めるのか、などとつまらないことを冷静に考え、彼女の亡骸を抱きしめ続けた。




