第8回 暗がりからの告白 ドアーズ 1967年~
1960年代半ばのロックシーンは、演奏・作曲の技能、作詞の質、楽器やエフェクターなど機材の性能、録音やレコードの技術、といった、音楽の創造に関わる部分が、急速に発展、発達した時代でもありました。
それに伴って、ロックバンドも音楽性の多様化が進み、ボーカル主体の3分程度のラジオ向けの曲でヒットを飛ばす従来型のバンドから、10分を越える器楽演奏主体の大曲で人気を博するバンドまで、幅広い個性を持ったバンドが群雄割拠する、ロックファンにとっては自分の嗜好に合わせて応援するバンドが選べる、非常に魅力的な時代になって来ました。
特に、ロックの過激な面に惹かれた聴衆の支持を集めたのは、ザ・フー、ジミ・ヘンドリクスといったエキセントリックなパフォーマンスを得意とするミュージシャンでした。
彼らの派手なステージアクションや楽器破壊のパフォーマンスは、ロックミュージックの向う見ずなイメージを体現した分かりやすさがあったという点で、大多数の聴衆から受け入れられやすかったとも言えます。
一方で、同じ時代に、そういった外向的な過激さとは異なる、内向的な過激さで人々に熱烈に支持されたバンドも現れました。
それが、1967年にレコードデビューしたアメリカのバンド、ドアーズです。
ドアーズの音楽の最大の特徴は、フロントマンであるボーカルのジム・モリソンの浪漫的で退廃的な魅力を湛えた声と、彼の書く、従来の道徳観とは相いれない、人間の暗部をテーマにした詩的な歌詞でした。
デビューアルバムに収録された「ジ・エンド」という12分近い曲の中で、ジムは、父親殺し、近親相姦、虚無的な死という、ポピュラー音楽のあらゆるタブーを破ろうとするかのような挑戦的な歌詞で、聴き手を自身の独特な世界観に引き込みました。
重要なのは、そういった過激さが、単に奇をてらった露悪趣味や嗜虐心の吐露ではなく、音楽的な美しさを伴った高度な芸術性に昇華されていた、という事です。
ロビー・クリーガーの、ジャズやフラメンコ、インドのシタールのテクニックを応用したギターフレーズの斬新さや、キーボードのレイ・マンザレクとドラムスのジョン・デンズモアの優れたアドリブの才能も相まって、ドアーズは人間の心の暗部をテーマにした音楽のまだ未開であった時代に、人々からカルト的な人気を集めました。
ドアーズ自体は、初期の二枚のアルバムで示した個性的なスタイルから、徐々に既存のポップスやブルースを下敷きにした演奏に音楽性が変化して行ったことで、音楽的魅力も減退して行きますが、彼らがロックミュージックにもたらした、人間の心のタブーへの挑戦というスタンスは、後のキング・クリムゾンやニルバーナといった暗い内面世界を表現するバンドが出現するための、非常に大きな足がかりを築いたという点で、とりわけ高く評価すべきだと思います。




