第7回 歌詞の解放 ボブ・ディラン 1962年~
1960年代初頭の、ビートルズに代表されるアイドル的なロック人気は、ローリング・ストーンズ、ザ・フー、クリーム、ジミ・ヘンドリクス、ビッグ・ブラザー&ザ・ホールディング・カンパニー(ジャニス・ジョプリン)といったよりハードなサウンドを志向するバンドの台頭によって、1960年代半ばにはファンの嗜好の幅を大きく広げる事になりました。
レコードの主な購買層である十代の少女たちからの支持を得やすい単純な甘いラブソングの量産から、より深みのある玄人好みの音楽への発展が、各バンドのソングライティング能力の向上と相まって押し進められたのです。
歌詞の分野で、より自由な表現に市場のニーズがあることを証明し、同時代のロックバンドの作詞に大きな影響を与えたのは、アメリカのフォーク・シンガー、ボブ・ディランでした。
ディランは先ごろノーベル文学賞を受賞したことで注目されましたが、彼の書く歌詞は、社会への風刺や問題提起、私小説風の独白、聖書を背景とした謎めいた物語性など、アイドル的な音楽とは一線を画する硬派なもので、本人は自作の歌詞が文学と定義されることに慎重ではあるものの、読み応えという点で、文学と比するに相応しい充実した内容であることは確かでした。
ディランのレコードデビューは1962年の事なので、奇しくもアイドル的な人気を博する事になるビートルズのデビューと同じ年です。
デビュー当初のディランは、古いフォークソングを踏襲した持ち歌が多かったため、人気もさほど出ませんでしたが、徐々に時代に即した強いメッセージ性を持つオリジナル曲を書くようになり、それがフォークファンのみならず、幅広い音楽ファンからも評価されるようになり、彼の成功を目の当たりにしたビートルズをはじめとするロック系のミュージシャン達に、作曲の技巧だけではなく、作詞のオリジナリティでもセンスを競い合う流れを作らせたことで、彼はロックの歴史に間接的な立場からターニングポイントをもたらしたミュージシャンとしても、その名を刻まれる事になりました。
また、ディラン自身、ブリティッシュ・インヴェイジョンのロックバンドの影響を受けて、1965年頃からロックミュージックにも取り組むようになっており、ロックシーンへの直接的な影響力という点でも大きな存在感を発揮しました。
代表曲は、フォーク時代の曲では、『Blowin' in the Wind』『Don't Think Twice, It's All Right』、ロックに取り組み出してからの曲では『Like a Rolling Stone』や『All Along the Watchtower』などが挙げられます。