第59回 私の好きなギタリスト ランキング・ベスト30 (10位~1位まで)
ロックの最重要楽器とも言えるギター。
そのギターを操って、誰のものでもない個性とスゴ技を聴かせてくれる、綺羅星のごときギタリストたち。
もちろん、優れたギタリストは、ロック界だけにいるわけではありません。
ロック以前のブルースやクラシック音楽には、ロックギタリストが束になってもかなわない、技と表現力を備えたミュージシャンが少なからず存在します。
今回のランキングでは、それらギターを用いたオールジャンルの音楽から、とりわけ巨匠と呼べる域に達したギタリストたちが、ずらりと顔をそろえています。
彼ら無くして、ギターの歴史は語れない、そのくらい重要度の高いミュージシャンたちです。
では、前置きはこのくらいにして、さっそく参りましょう。
お待ちかねの、ギタリストランキング、10位から1位までの発表です。
注目の1位の栄冠は誰の頭上に輝くのか。
「どのくらい好きか。どのくらいすごいと思ったか。」を突き詰めてたどり着いた、渾身のランキングを、とくとご覧あれ。
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第10位 デュアン・オールマン (【ロック】オールマン・ブラザーズ・バンド、デレク&ザ・ドミノス)
デュアン・オールマンの他に類を見ないほどの高みに達したスライド奏法の熟練度は、あまりにもスムーズに弾くため、ともすると簡単な事のように思えてしまうほどです。
実際は、正確な音程をフレットではなく弦の上で捉えて奏でなければならないという、極めて精密な感覚が求められる演奏法であり、デュアンのように多様なメロディラインのアドリブソロを延々と奏で続けるなんて、誰にもまねのできない途方もない才能なのです。
デュアンは1971年10月に、惜しくも24歳の若さでバイク事故で亡くなってしまいますが、その年のライブ演奏を聴くと、モードジャズからの影響を消化して、さらにアドリブの質が高まって行こうとしている様子が伝わって来ます。
デュアンの演奏を引き立てるディッキー・ベッツの味わい深いリズムギターも聴き所です。
最近はオールマン・ブラザーズ・バンドのライブCDのラインナップが充実してきているので、ぜひ1971年の演奏に耳を傾けてみて下さい。
お勧め盤 The Allman Brothers Band「A & R Studios: New York, 26th August, 1971」
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第9位 スティーヴ・ハウ (【ロック】イエス)
スティーヴ・ハウの演奏は、常套句をあくまでも避けようとするオリジナリティに、その魅力の大部分が見出せますが、興奮をかき立てる攻撃的な演奏スタイルは、小手先のテクニシャンではない、紛う事なく情熱的なロック魂を持ったミュージシャンの系譜の一人である事を証明しています。
しかし、不思議な事に、これだけ達者な演奏技巧を持ったミュージシャンでありながら、ライブではアドリブをあまり行なわず、スタジオバージョンをなぞる演奏が多いです。
ここが、彼に対する唯一の不満点です。
イエスの曲は、編曲の複雑さに特徴があり、クラシック音楽のような厳密な演奏が求められるので、アドリブを入れる余地があまりないのだろうと思います。
それに加えて、スティーヴはソロの構成も、作曲的に厳密に作るタイプなのでしょう。
ゆえに、どの曲のソロも非常に完成度が高くてカッコいいんですが、少しでもいじるとせっかくの構成美が崩れてしまうという難しさがあるようです。
古典的なクラシック音楽にアレンジを入れて演奏すると、どこか物足りなく感じる、あの感じです。
ですから、彼の演奏の良さを十全に楽しむには、やはり全盛期の1970年代初頭のスタジオ盤をお勧めする、という事になります。
お勧め盤 Yes『Close To The Edge』(1972年)
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第8位 ランディ・ローズ (【ロック】オジー・オズボーン)
オジー・オズボーンの多難が予想されたソロ活動を、船出から華々しいものにした一番の立役者こそ、白面の好青年ギタリスト、ランディ・ローズでした。
彼の演奏の特徴であるクラシカルなフレーズが、オジーのゴシックな暗いイメージと相性抜群だったのは、オジーの初期の2枚のアルバムで聴かれる通りです。
しかも、ローズの素晴らしい所は、ライブでより大胆で迫力ある演奏ができる、優れた表現者だった、という点です。
以下のお勧め盤のライブ演奏と、スタジオアルバムのオリジナルバージョンを聴き比べてもらうと分かりますが、ライブ盤のギターサウンドには、彼の激しい情念がありありと表れていて、その勢いに、ギター好きなら興奮せずにはいられません。
ライブでのソロ演奏が、スタジオバージョンとほぼ同じメロディという特徴は、ランキング第9位のスティーヴ・ハウと同様なんですが、ランディが弾くと、どこか即興のような新鮮な響きになっているから不思議です。
これこそ、音楽が魅せる魔法の一つです。
『Tribute(トリビュート〜ランディ・ローズに捧ぐ)』(1981年録音のライブ盤)
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第7位 エリック・クラプトン (【ロック】クリーム、デレク&ザ・ドミノス、ソロ)
エリック・クラプトンは、第5回のコラムで紹介した通り、ロックにギターヒーローという文化を根付かせた、最初期のすご腕ギタリストです。
彼の代表的名演は、1960年代末に活動したバンド、クリームのアルバムに数多く収録されています。
クリームには、「アイ・フィール・フリー」「ストレンジ・ブルー」「サンシャイン・オブ・ユア・ラヴ」「ホワイトルーム」など、ポップな感覚を生かした優れた楽曲が多く、当時流行していたブルースロック一辺倒ではない多彩な表現が楽しめる所が大きな魅力となっています。
クリーム解散後、クラプトンはデレク&ザ・ドミノス名義での活動やソロ活動で、ますます柔軟なポップス感覚あふれる演奏を聴かせてくれますが、個人的には、クリーム時代の若さから来る攻撃的なギターのトーンの方が、ギターヒーローと呼ぶにふさわしいカッコ良さがあるように思います。
オアシスのギタリスト、ノエル・ギャラガーも、インタビューの中で、「クラプトンのギターのトーンはクリーム時代が素晴らしい。」と言っていましたが、同時に、「戻すことはないだろうな。」とも語っていました。優れた表現者はその時の自分にふさわしい音を出そうとする、という事なんでしょうね。
お勧め盤『フレッシュ・クリーム』(1966年)
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第6位 ロバート・ジョンソン (【ブルース】)
1930年代、戦前の、アコースティックギターによる弾き語りスタイルのブルースを代表するミュージシャンです。
若い頃のエリック・クラプトンやローリング・ストーンズのメンバーが惚れ込んだという逸話で、ロックファンにも比較的馴染みのあるブルースマンですが、ブルース初心者が最初から彼の演奏の良さを十全に感じ取るのは、かなり難しいかもしれません。
まず、古い録音のため、ノイズが多く、歌とギターの分離も悪い、という問題があります。
これは、近年のリマスター技術の向上で、改善しつつありますが、それでも、音を綺麗にし過ぎて、肝心の土着的な雰囲気まで洗い流してしまうパターンもあり、それが嫌で、私は今でも、ノイズはあるけれど音に力強さがある昔の音源で彼の演奏を聴くようにしています。
もう一つの問題は、彼の歌声の、独特な甲高い強烈さの陰に隠れて、ギター演奏の素晴らしさが把握しづらい、という点です。
しかし、ギター好きな人なら、じっくり時間をかけて聴き込んでいるうちに、その音色、フレーズ、リズムに、彼一流のセンスの冴えわたる凄みがある事に気が付くはずです。
お勧め盤 Robert Johnson『Complete Recording』
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第5位 マディ・ウォーターズ (【ブルース】)
マディ・ウォーターズは、ブルースにエレキギターが用いられ始めた1940年代に、電化サウンドの特性を最大限に引き出したコクのある演奏で、数多くの名演を生み出した、ブルースの歴史上、極めて重要度の高いミュージシャンです。
あの、粘りつくような官能をかき立てる音色、抜群のリズム感とテクニックを伴った表現力の豊かさ。
エレキギターを用いた感情表現という点では、歴代の数多のギタリストの頂点に挙げても差し支えないと、個人的には評価しています。
しかし、いかんせん、ブルースは、万人受けするジャンルではないので、音楽ファンが皆、彼の素晴らしさを感じ取れるわけではないでしょう。
そんな中で、もしあなたが、流行りの音楽以外の、もっと深みのある音楽に接したいという気持ちがあるのであれば、ぜひ、マディの1940年代の名演に接して、私が彼の演奏のどこに惹かれているのかを、感じ取ろうとしてみて下さい。
その時すぐには分からなくとも、色んな音楽体験を重ねた後で、いつか、マディの演奏を再び聴く機会を設けた時に、「すごい!」と思える日が、もしかすると来るかもしれない。
私が、ガイド本や色んなミュージシャンから、ブルースの良さを教わって、遠回りしながらも、そこにたどり着く事ができたように。
お勧め盤 Muddy Waters『The Best Of Muddy Waters』
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第4位 エドワード・ヴァン・ヘイレン (【ロック】ヴァン・ヘイレン)
ヴァン・ヘイレンのギタリスト、エドワード・ヴァン・ヘイレンは、とにかくすごいギタリストです。
たった一人で、ロックギターの旧態依然のフレーズを刷新して、新鮮極まりないメロディーを、惜しげもなく音楽シーンに提供してくれたのですから。
1970年代半ば以降のロック・ギタリスト、特に、へヴィ・メタル系のギタリストで、直接的にせよ間接的にせよ、彼の影響を受けていないギタリストは、皆無と言って良いくらいです。
ただし、彼の超絶技巧を駆使した速弾きギターの腕をもってしても、越えられない壁はあります。
それは、彼がブルースやフラメンコを弾いた演奏を聴くと、よく分かります。
音が軽くて、コクがないんです。
この特徴は、底抜けに陽気で元気なヴァン・ヘイレンの楽曲や、明るいポップスのカバーの中では、非常に魅力的なサウンドとして役に立ちます。
しかし、悩みや哀愁を表したブルースやフラメンコといったほの暗さのある土着的な音楽では、彼の表現力の限界が見えてしまうのです。
どんなに革命的で超越的な天才でも、全てを手に入れるのは難しい、という事ですね。
お勧め盤 Van Halen『1984』(1984年)
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第3位 ジミー・ペイジ (【ロック】レッド・ツェッペリン)
ジミー・ペイジは、言わずと知れたレッド・ツェッペリンのギタリストですが、それ以外の活動で、目覚ましい音楽的成果を上げることができていない、という所に注目すると、彼とレッド・ツェッペリンというバンドの、分かちがたい関係性が見えて来ます。
第9回のコラムで、詳しく述べたとおり、レッド・ツェッペリンは、メンバーそれぞれの音楽的才能が、ロック界の最高峰という、夢のような構成のバンドです。
ジミーも、恵まれた環境の中で、思う存分アドリブを弾きまくる事ができ、各楽器の相乗効果で、その偉大さをより聴衆にアピールする事ができたのです。
この絶妙のバランスは、同時に、一人でも欠けると、容易に崩れてしまう、奇跡の魔法でもありました。
1980年に、ドラマーのジョン・ボーナムが不慮の死を遂げた時、レッド・ツェッペリンは事実上存続が不可能になり、解散を余儀なくされ、ジミーも最高の自己表現の舞台を失う事になりました。
しかし、幸いにも、レッド・ツェッペリンには多くのスタジオアルバムと、数枚のライブアルバム、そして、膨大な数のブートレッグが残されています。
ジミーの輝かしい才能を、最も堪能できる、全ての好条件がそろった伝説のバンド、レッド・ツェッペリン。
さあ、まだ体験した事がないなら、かけがえのないその瞬間に、今から出会いに行きましょう。
お勧め盤 Led Zeppelin『CODA』(1982年。ジョン・ボーナムの追悼アルバム)
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第2位 ジミ・ヘンドリクス (【ロック】ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス)
むむむ、むむむむ、これは、まさか。
私の一番好きなロック・ギタリスト、ジミ・ヘンドリクスが、ランキング第2位にもう登場してしまった。
それじゃあ、第1位は誰なの、と、気になるところですが、まずは、ジミへのリスペクトを込めて、彼の紹介に力を注がせて頂きます。
ジミのギターの魅力、これは、第4位のエドワード・ヴァン・ヘイレンの紹介文で語った、「ブルースやフラメンコといったほの暗さのある土着的な音楽では、彼の表現力の限界が見えてしまう」という弱点が、ジミにはない、という所です。
彼のギターテクニックの基礎には、本格的な黒人ブルースのドロドロとした情念があります。
それを、彼はただ定型的なブルース演奏の中で活かすのではなく、斬新でモダンなサウンドと、うねるようなダイナミックな曲調に乗せて、エネルギーとして表出したのです。
だからこそ、彼の演奏には、他のミュージシャンでは体験できない、圧倒的なパワーと、生々しいまでの生命感を感じるのです。
彼が作り上げた音空間には、『衝動性』、『即興性』、『冒険精神』といった、〝ロック〟が失ってはならない魅力の全てが詰まっています。
ジミの演奏技巧の高さは折り紙付きですが、それに上記の魅力が加わる事で、彼はロックの歴史の中で不滅の存在となり、今でも多くのミュージシャンが崇め、目標とするアイドルとなっているのです。
このように、言葉にすると数行で済むジミの魅力の芯の部分ですが、体現できるミュージシャンはごく稀です。
それは、1970年のジミの死から、五十年もの時が流れて、多くのギタリストが、登場しては消えて行く中で、ますます明白になっているようです。
お勧め盤 Jimi Hendrix 『BBC Sessions』(1960年代のラジオ局でのライブ演奏集)
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第1位 アンドレス・セゴビア (【クラシック】)
スペインのギタリスト、アンドレス・セゴビアの名前を聞いた事がある人は、クラシックファンの中でも、少ないかもしれません。
日本では、村治佳織さんという人気ギタリストが、1993年にCDデビューした事で、クラシック音楽のギター演奏に対する関心が高まり、愛聴する人も増えて来ているようですが、それでも、やはり、ヴァイオリンやピアノなどの花形楽器に比べれば、ギターに関心を寄せる層は、依然として限られているようにも思います。
それは、クラシックギターの演奏自体が非常に難易度が高く、聴衆が演奏者に求める技術の水準が、他楽器に比べて高度になりがちな所に由来しているようにも思います。
そんな厳しいクラシックギターの世界で、セゴビアの演奏はどのように位置づけるべきか、と問われれば、私は、「完璧」という評価を与えても何の問題もないと考えています。
セゴビアは、音楽界でまだギターの地位が低く、演奏曲目も充実していなかった、今から120年ほど前の1900年代から演奏活動に入り、研鑽を積む中で新たな奏法の数々を生み出し、徐々にギターの地位を向上して行き、ついには、ギターをコンサート楽器として聴衆に認めさせた、という、ギター界全体にとっての真の恩人です。
そんな、現代ギターの奏法の生みの親的な存在でありながら、彼の演奏は、理想的に均整の取れた、完璧さを備えているのです。
技術、抒情、情念、即興性、歌心、そして人生、あらゆる美点が、彼の演奏には備わっています。
スペインのギタリストだけあって、その音色は潤いのある愁いを帯びています。
「セゴビア・トーン」と呼ばれる、彼の個性ですが、個性を出すことを好まないクラシックファンの間では、否定的に言う人もいるようです。
しかし、私はこのトーンがあるからこそ、セゴビアのギター演奏が大好きなんです。
哀愁ある、昔を懐かしませるような切ない響き。
アコースティックギターから、こんな音が出せる事自体、驚異なんです。
これまでの人生で、様々なジャンルのギター演奏を膨大に聴いて来たからこそ、なおさらその凄さが私には分かります。
喜び、哀しみ、寂しさ、苦悩、憧れ、愛、あらゆる感情が、一分の隙も無い高度なテクニックによって奏でられ、しかも生き生きとした音楽に昇華されて私たちの心に届けられます。
世の全ギタリストの頂点であり、今も彼を超えるギタリストは現れていないと断言できます。
お勧め盤 Andres Segovia『J.S. Bach Guitar Works』(1947年~1949年。彼が50代の頃の、バッハの曲を中心とした演奏集です。人生の重みが必要なバッハの曲を、ギターで聴く時は、彼の演奏に限ります。)