第58回 特別編 台湾のすご腕ロック・ウクレレ奏者 フェンイー
子どもが演奏する。
しかも、大人を凌駕するテクニックと、純朴な鋭い感性から来る表現力で。
そういう演奏家に出会えると、私はいつも、誰かに紹介したくなります。
というわけで、今回は、ギタリストランキングを急きょお休みして、私が最近見つけた素晴らしい少年ミュージシャンを紹介するコラムを、特別編としてお送りしようと思います。
彼の名前はフェンイー(Feng E)。台湾人の現在12歳の男の子です。
彼の主要な演奏楽器は、ウクレレ。
そう、ハワイアンなどで用いられる、ギターを小さくしたような、ポロンポロンという音色も可愛らしい、あのアコースティックな楽器です。
驚くべきは、彼の選曲と演奏スタイルにあります。
試しに、彼がYou Tubeで公開している演奏動画を観てみて下さい。
https://www.youtube.com/watch?v=l9YLOlUa7ro
曲目は、レッド・ツェッペリンの「Stairway to Heaven(天国への階段)」です。
完全に、ロックギターの要領でウクレレを用いているのが分かります。
ウクレレ奏法独特の、コードを素早くかき鳴らすテクニックも、時折交えてはいますが、基本はアルペジオや、単音のメロディとコードを組み合わせたフィンガースタイルで構成されています。
これは、簡単そうで相当難しい事が想像できます。
何しろ、弦が4本しかない上に(ギターの弦は6本)、ネックも短いので音階が少なく、複雑なメロディを奏でるのに限界があるに違いないからです。
しかし、素晴らしいのは、彼がそういうハンデを乗り越えるために、自分の演奏技巧を高度に磨き上げるという事を実現できている点です。
https://www.youtube.com/watch?v=rZSLz50zY48
続いて、こちらの動画では、ジミ・ヘンドリクスの「Voodoo Child」を披露していますが、これがまたすごい。(大阪でのライブ映像です。)
ウクレレをワウペダルで鳴らすと、こんなにもへヴィな音が出せるんですね。
細部のニュアンスもジミの粘っこい雰囲気が上手く再現されています。
ウクレレがロックの楽器としてほとんど用いられない理由が、へヴィさが足りないせいならば、彼は大手を振ってロック界に参入して行ける通行証をすでに手にしていると言えます。
ただ、本当に、今の彼の演奏水準で、ロックの名だたるミュージシャンの演奏と同様に、何度聴いても飽きない魅力的な演奏になっているのかと、厳格に問うならば、まだ、そこまでの域には達していない、とも私は感じます。
それは、やはりウクレレの自由度の低さが、演奏の端々に隠しきれず表れてしまっているからだろうと思います。
特に、弦の短さや胴の小ささから来る、音の残響の短さを補うために、コードを小刻みにかき鳴らす手法に頼っている点など。
もちろん、彼はまだ若干12歳ですから、これからさらに成長し得るミュージシャンです。
ちなみに、彼はギターの腕も、ロックからジャズまで消化した本格的なものですが、一ロックファンとしては、彼がウクレレでロックの最前線に躍り出て、目新しさだけでライトな市場で消費されるのではなく、真にオリジナルで刺激的な作品を生み出して、ロックの歴史に名を刻んでくれる事を、心から願い、応援しています。
ロックの最高峰たちの、「上手い!」のさらに上にある演奏に、いつか達してくれたら嬉しいです。




