第54回 ジミ・ヘンドリクスのテクニックと現代的サウンドの調和 エリック・ジョンソン 1986年~
第53回のコラムでは、ジミ・ヘンドリクスのフォロワーの代表格として、スティーヴィー・レイ・ヴォーンを紹介しましたが、ブルースロックのミュージシャンとして、ジミのテクニックとサウンドメイクにアプローチしたスティーヴィーとは異なる、より現代的な方向性から、ジミの影響を消化し、自分の物としたミュージシャンも存在します。
それが、1986年にソロ・アルバム・デビューしたギタリスト、エリック・ジョンソンです。
ちなみに、エリックはスティーヴィーと同郷のアメリカ、テキサス州のオースティン出身です。どちらもジミの音楽性を演奏の基盤としており、同業者としても意識し合っていたようですが、結果的に各々が独自の異なるスタイルの演奏者として大成した、というところが面白いです。
彼の演奏の特徴は、ブルース、ジャズ、カントリー、クロスオーバー、ポップスといった、幅広いジャンルからの影響と、アラン・ホールズワースやエディ・ヴァン・ヘイレンが多用するモダンなメロディラインの応用、そして、それらをエリックらしさに変えるための、こだわり抜いて調整したギターの音色にあります。
クリーントーンの時も歪ませたトーンの時も、リバーブ(残響)を強く利かせた、非常にまろみのある、柔らかで現代的なサウンドです。
リバーブを取り除いた際のギターのトーンを想像すると、かなりジミのトーンに似ています。
演奏内容も、随所にジミを思わせるフレーズやアーミングが入るので、もし深いリバーブによるカモフラージュがなければ、スティーヴィーと同様に、よりジミのフォロワーとしての側面が目立つことになったでしょう。
しかし、前述の通り、彼の音楽性はブルース・ロックにほぼ特化したスティーヴィーよりもはるかに多様性があり、まろやかなタイム感覚の中で繰り広げるフレージングの自由度も驚異的で、速弾きの冴えもあ然とするばかりの高度さなので、ここまで来るともう誰のフォロワーであるかという事を越えて、一個の個性的な天才ミュージシャンと呼んでも差し支えない水準に達していると思います。
こういう、一筋縄ではいかない複雑さと多様性のある音楽性を持っているという点で、私はスティーヴィーよりもエリックの演奏の方が好きです。
バンドとしての演奏も、リズム隊の自由度が高く、アドリブも上手いので、スティーヴィーの〝従〟に徹したリズム隊よりは楽しめます。
1986年のソロアルバム『Tones』と、1990年の『Ah Via Musicom』が、彼の良さが詰まったお勧め盤です。
ジェフ・ベックが先鞭をつけたギター・インストゥルメンタルのジャンルの、最良の進化形とも言える名演の数々が堪能できます。「Cliffs of Dover」のリズミカルなソロ演奏は中でも印象的。
エリックの歌入りの曲も、コクはいま一つですが、髪さらさらイケメン系のさわやかな歌声で悪くありません。
ギターの演奏技術と、表現力という点で、エリック・ジョンソンはおそらくロックの歴史上、最高の到達点の一つと言って過言ではないでしょう。
ただし、だからといって、エリックがロック史上最高のギタリスト、という事にはならない所に、音楽の不思議さと面白さがある、という事も、個人的な意見として言い添えておきます。




