番外編 映画『ボヘミアンラプソディ』についてのよもやま話
先日、映画『ボヘミアンラプソディ』を観ました。
イギリスのロックバンド、クイーンの伝記映画です。(クイーンの詳細は第26回のコラムをご参照下さい。)
まず、娯楽映画として、非常によくできているなと感じました。
こういう、人気のある著名人をテーマにした映画を作ると、どうしても、ファンだけが興味を持つような事実に基づくエピソードを盛り込み過ぎて、ドキュメンタリー調になってしまいがちですが、『ボヘミアンラプソディ』は、クイーンをよく知らない人でも楽しめるように、内輪の話はほどほどに抑えて、全体のバランスを考慮してシナリオが書かれているので、観終わった後に、良く練られた映画を見たな、という充実感を味わうことができました。
映画として面白くするために、事実とは異なるエピソードを挿入したり、時系列が変更されたりしているので、史実にこだわる人には、ツッコミどころのいくつかある作品と言えますが、事実通りに描けば、これほど楽しめる内容にはなっていなかったのは間違いないので、この点については脚本家とプロデューサーの手腕の許容範囲内として、私は高く評価しています。
ただ、この映画の内容をおおむね事実だと受け止めてしまうと、よそで話題にした時に、事実誤認を語る事になり、困る事になる部分もあると思うので、事実と異なる重要な個所だけ、ここで教えておこうと思います。
まず、クイーンの人気が世界規模になったのち、フレディが別のレコード会社と巨額のソロ契約をして、バンドメンバーがそれに反発してけんか別れしてしまうという場面がありましたが、実際は、その頃、メンバー全員が疲弊して休暇を望んでおり、喧嘩をしたり仲違いをしたりという経緯は無く、みんなが合意してバンド活動を一休みした、というのが事実だそうです。
また、映画では、1985年のライブエイドという一大イベントの直前に、フレディのHIV感染がメンバーに知らされて、そこから一丸となって最高のショーを繰り広げたところに、感動が生まれたわけですが、実際は、フレディにHIVの感染の診断が下されたのは1987年の春頃の事だろうと言われています。
ですから、ライブエイドに向けてフレディが病気に向き合ったり立ち向かったり、バンドメンバーに打ち明けて結束したりといった描写は、演出だったという事になります。
ここが、最も変更の影響が大きい箇所でしょうね。
最大の山場なだけに、演出だったと知って、がっかりされる方も多いだろうなと思います。
ただ、クイーンというバンドが、フレディのHIVの悪化による死(1991年11月24日)の間際まで、彼と活動をつづけ、その病気の影響を感じさせない伸びやかで力強い絶唱を、アルバム『イニュエンドウ(Innuendo)』(1991年)や『メイド・イン・ヘヴン(Made in Heaven)』(1995年)でファンに届けてくれたという事は、本当に素晴らしい事実なので、映画を盛り立てるための演出として、病気の発覚を前倒しした事も、許してほしいな、と、なぜか関係者ではない私がお願いしたくなる、そんな映画でした。




