第51回 私の好きなシンガー ランキング・ベスト25 (10位~1位まで)
とうとう、私の好きなシンガー、ランキング・ベスト25の、10位から1位までを発表する時が来ました。
こういうランキングを作っていて、困るのは、発表した後で、「ああ、あの人を入れるのを忘れていた。この人を入れるくらいなら、あの人を入れればよかった。」、という見落としへの気付きが、必ずある、という事です。
でも、普段よく聴く音楽、その素晴らしさに強く惹かれた音楽って、意外と限られて来ますから、そこをしっかり取り上げていれば、ランキング上位の人選に関しては、後で変えたくなることは比較的少ないだろうとも思います。
という事で、私が今まで聴いてきた多種多様な音楽の中でも、きわめて高く評価している歌声の持ち主たち、厳選10傑を、どうか温かい目でご覧下さい。
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第10位 エルビス・プレスリー (【ロック】)
エルビスの歌声、その歌唱法、テクニック、表現力は、商標登録が取れそうなくらい、彼の個性と魅力に満ち溢れています。
誰が聴いても、「ああ、エルビスだな。」と分かる、あのしゃくりあげるような独特の節回し、若い情熱が迸る初期のシャウト、そして、ティーンエイジャーの少女たちを酔いしれさせた、独特なよれよれしたステージ・アクション。
ロックン・ロールの創始者のひとりでありながら、ロックという音楽に必要なもの全てを兼ね備えている、完璧なミュージシャン、それがエルビス・プレスリーという存在です。
ただし、私が好きな彼の歌唱は、あくまでも1950年代から1960年代初期の録音までです。
1960年代半ば以降は、歌唱法のレッスンを受けるなど、より音楽的深みを増そうとしたそうですが、かえって衝動性や荒々しさが薄れてしまい、「ポップス寄りのロック界最高のスター」という座に安住してしまったように思えます。
「ブルー・スウェード・シューズ」「監獄ロック」「ハートブレイク・ホテル」「テディ・ベア」「GIブルース」など、永遠に愛され続けるロックンロールの伝説的歌唱は、初期の録音に数多く結実しています。
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第9位 ジョン・アンダーソン (【ロック】イエス)
プログレッシブ・ロックというジャンルは、一曲の演奏時間が10分を超えるのが珍しくないという、過分に器楽演奏が前面に出た音楽性に特徴がありますが、完全な器楽演奏だけで大多数の音楽ファンの人気を得るのが難しい以上、やはり、大きな成功を収めたプログレッシブ・ロック・バンドには、優れた個性的なシンガーが在籍している、という事になります。
中でも、イエスのボーカリスト、ジョン・アンダーソンは、最も幅広い聴衆に好まれたログレッシブ・ロックのボーカリストと言って、過言ではないのではないでしょうか。
その天使のように軽やかで繊細な伸びのある高音の声が、イエスのダイナミックで攻撃的な演奏と合わさると、この上なく調和して聴こえるのですから、音楽の魅力というのは実に不可思議なものです。
「ラウンドアバウト」「燃える朝焼け」「ロンリー・ハート」、イエスの大曲の中で、彼の歌声はいつでも最も〝イエス的〟なサウンドを付加する事に寄与しています。
つまり、ジョンの参加していない曲は、イエスの曲に聴こえない、という事でもあります。
これは、彼が一時的に脱退した時期(1970年代末)のアルバムを聴けば、明白に感じられる事実です。歌声というのは、器楽重視のバンドの中にあっても、そこまで重要な役割を持つものなのです。
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第8位 カート・コバーン (【ロック】ニルヴァーナ)
カートの作り出す音楽は、私の耳には、とても美しく響くんですが、聴く人によっては、病的で付いていけない、と感じる人もいるようです。
歌詞にしても演奏にしても、好き嫌いの分かれる表現方法なのでしょう。
ニルヴァーナの最大のヒットアルバム、『ネヴァーマインド』(1991年)なら、まだポップな聴きやすさがあるので、好きという人も多そうですが、ファーストアルバム、『ブリーチ』(1989年)だとどうでしょう。重すぎる、と感じる人が増えそうです。
しかし、カートの本質は、『ブリーチ』のどろどろした情念の方にあり、『ネヴァーマインド』の聴きやすさは、小奇麗にめかしこんだよそ行きの姿だと思います。
ニルヴァーナの初期から中期にかけてのライブには、このドロドロした情念が如実に表れているという点で、私にとっては非常に魅力的です。
後期になると、ポップス的な聴きやすさがライブにも表れて来て、やや物足りなさを感じるようになります。燃え尽き現象とも言えるカートの心理も影響しているかもしれません。
私の好きなニルヴァーナのナンバーは、『ブリーチ』に収録されている「スクール」という曲です。
この曲の、同じワードを執拗に繰り返しながら、飽きの来ない濃密な聴き応えをもたらす彼の表現力は、本当に驚くべき才能だと思います。
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第7位 ジミ・ヘンドリクス (【ロック】ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス)
ジミ・ヘンドリクスは、もちろんギタリストとして数多くの後進から崇められる稀代の天才ですが、ボーカリストとして評価している人は、あまり見かけないようです。
かく言う私も、彼の音楽を聴きはじめた頃は、その驚異的な感情表現の巧みさを見せるギターの演奏こそぞっこんに惚れ込んだものの、ボーカルに関しては、低くくぐもった素人然とした声で、音程も不安定な感じがしていらいらする事さえある、どちらかというと嫌いな部類の歌声でした。
それが、今では好きなシンガーの第7位にランク入りさせるのですから、いかに人の好みが変化し、最初の印象があてにならないか、という事を如実に表していますね。
ジミ自身、音楽活動初期は、自分の歌声が好きではなかったそうですが、ボブ・ディランの、メロディを崩した語り口のような歌い方を聴いて、「あんな感じなら自分でも歌える。」と思って、それ以来自信を持って歌うようになれたのだそうです。
確かに、ジミの歌い方には、ディランの歌唱法からの影響が垣間見られることがあります。
でも、それは常に感じられるほど明らかなものではありません。
ジミはあくまでもジミの好きなように歌っています。
その歌い方、声のニュアンスが、実に正直なんです。
誰かの真似に固執せず、自分自身の好きなものを表わそうとしている。
そういった、自分の音楽をしっかり持ったところが、彼の歌声の魅力です。
そこに気が付くと、嫌いだった部分が、一転して唯一無二の彼だけが持つ魅力に変わって行くのです。
「エンジェル」という曲が、特に彼の歌声の美点を表わしている好きな曲です。
そして、この法則で好きになったシンガーが、第6位にも選出されているので、ご覧下さい。
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第6位 デイヴィッド・リー・ロス (【ロック】ヴァン・ヘイレン)
デイヴィッド・リー・ロスの歌声、最初は好きになれなかったですねぇ……。
なぜエディ・ヴァンヘイレンというとてつもなく凄いギタリストのいるバンドに、こんなに下手なシンガーが在籍していて、しかも音楽ファンから高く評価されているのかと、本気でいぶかしく思ったものです。
もう、自惚れた酔っ払いが好き勝手に歌っているような、ひどい印象でした。
でも、印象って、あてにならないものなんですねぇ……。(しみじみ……)
今では、好きなシンガーの6位にランク入りさせて、後悔しないくらい好きなんですからね。
例えて言うなら、生のウニの美味しさが分かるとか、浦上玉堂の絵の良さが分かるとか、そういうものですね。
良さが分かってくると、酔っ払いのようだった不安定な歌唱が、彼独特の他では聴けない表現力なんだと、楽しめるようになるんですからね。
ただし、あまりに羽目を外し過ぎると、本当に音程が外れたただの酔っ払いの歌みたいになってしまう時もあります。
そのギリギリのラインを攻めるところが、また何ともスリリングで良いというか……。
好きになると短所も長所に思えて来る、まるで恋愛の法則のようなものが、どうやら音楽にも働いているようです。
ファーストアルバムの一曲目、「Runnin' With The Devil(悪魔のハイウェイ)」が、ヴァン・ヘイレンの中で一番好きな曲です。おふざけに走る後年のアルバムよりは、ファーストアルバムの硬派な雰囲気が私の好みです。
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第5位 ジム・モリソン (【ロック】ドアーズ)
ドアーズの実質的なリーダーであり、カリスマ的な魅力のある歌声で、時代を越えて多くのファンがいるドアーズのジム・モリソンですが、声の調子が絶好調だったのは、セカンドアルバムまでで、それ以降は、過剰な深酒によって喉が焼かれ、天性の美声がしわがれただみ声になって行く過程を聴かされる事になります。
だからこそ、全盛期の彼の声を聴く事は、ドアーズファンにとって無上の喜びなのです。
初期の名唱の中でも、私は「ユア・ロスト・リトル・ガール(迷子の少女)」という曲がとりわけ好きで、高校生の時、そのほの暗く抑制された妖しい歌声を、頭の中で何度も何度も繰り返し思い出して口ずさんでは、自分がそんな風に歌えるような気になって悦に入っていたものです。
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第4位 ジョン・レノン (【ロック】ビートルズ、ソロ活動)
ジョン・レノンの歌声を、どんな感じか、言葉で表現できますか?
一聴して彼だと分かる声なんですが、はたして、あの声がどんな感じかを表わす、良い言葉があるでしょうか。
私には、子供の純粋さを大人になった人が表わそうとした声、のように感じます。
過去への憧憬が、彼の声、音楽性のバックグラウンドの大部分を占めている、と言うと、言い過ぎでしょうか。
過去への憧憬。
これは、彼の音楽を好むファン全般に見られる性質としても、当てはまるかもしれません。
彼の歌声や音楽性は、聴いた人を、過去への追想に誘うところがあります。
それも、良い思い出がある過去というよりは、わだかまりのある時点の過去であることが多いようです。
彼の人生を反映した効果なのか、定かではないですが、私には、そんな風に感じるアーティストです。
特に、初期のソロアルバム『John Lennon/Plastic Ono Band(ジョンの魂)』の中の「マザー」や「Love」など内面を掘り下げた曲に、その切ない悲しみを強く感じます。
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第3位 ジョー・リン・ターナー (【ロック】レインボー)
ジョーの、少女漫画から抜け出したような甘いルックスと、それにぴったりな憂いのある歌声は、女性にファンが多そうですが、どっこい男にだってファンはいるのです。
私の荒々しさを好む音楽的な嗜好からすると、ああいう西城秀樹的な男前アイドルの歌声は、あまり好きではない筈なんですが、なぜか、ジョーだけは聴き惚れますね。なぜでしょう。
私の好みのもう一つのキーワードである、抒情性が、ジョーの歌声には色濃いからでしょうか。
彼が加入していた頃のレインボーの楽曲に、硬派でありながら切ない感じの、良質なハードロックの名曲が多いからでしょうか。
いずれにしても、ハードロックのボーカリストの中では、私の好みの基準で欠点や弱点が見つけられない、最も完璧な歌声のボーカリストです。
1983年のレインボーのアルバム『Bent Out Of Shape』を聴いてみて下さい。
彼の才能の美点の全てが詰まった、素晴らしい作品です。
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第2位 ロバート・プラント (【ロック】レッド・ツェッペリン)
うーん、「ロックの最高のボーカリストは誰か?」、と聞かれれば、いかにジョー・リン・ターナーの歌声が好きだろうと、彼を一位に推す事はさすがにできません。
『聴きやすい』、という事と、『聴き応えがある』、という事は、往々にして反比例するからです。
ジョーの歌声は、非常に聴きやすいです。おそらく、たいていの人にとって、心地良い響きでしょう。
そこに、彼の歌声に対する評価の限界があるようにも、私には思えます。
『聴きやすさ』が十全に満たされる歌声には、私が音楽に期待するもう一つの大きな側面、『意外性』が不足する事が多いのです。
それも加味して、本当に最高だと言えるロックのボーカリストを検討すると、おのずと一人の名前が浮かび上がります。
それが、レッド・ツェッペリンの不動のボーカリスト、ロバート・プラントです。
彼の歌手としての全盛期、1969年から1972年にかけてと、1977年頃のライブを聴くと、その全身全霊を込めた凄まじい歌唱に、好きを越えた畏敬の念を抱きます。
なぜ、好きな時期が1972年から1977年で分断されているのかというと、その間には、彼の喉の不調の時期が挟まれるからです。
一説には、この間にのどの手術を受けたとの事ですが、それが功を奏してか、1977年頃のライブを聴くと、第2の全盛期を迎えたかのような声の張りと安定感で、見事な復調を見せています。
彼の凄い所は、復調を見せた時期のライブでも、喉を労わらずに高音のシャウトを連発するという、過酷な歌唱法を貫いている事です。
その時のベストが出せればいい、あとの事はその時に考えればいい事、という、歌手としての覚悟の凄みが、歌唱の迫力となってこちらに迫って来ます。
こういう、人生をかけた挑戦に、ただ美しいだけの歌声とは違う、本物の生々しい喜びを感じる、というのが、私のような聴き手の特徴であり、芸術至上主義的な罪な所でもあるのだろうと思います。
でも、そういう聴き手がいるからこそ、彼の熱唱は報われる、とも、私は信じています。
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第1位 ビリー・ホリディ (【ジャズ】)
今までのドラマーやベーシストのランキングでもそうでしたが、なぜか、私のランキングは、ロックの歴史というコラム連載の中で行われているにもかかわらず、生粋のロックンローラーが第1位を獲得できない、というジンクスが続いています。
そして、今回も、そのジンクスが破られる事は、ありませんでした。
自分にとって、最高の音楽はロックではない、という事でしょうか。
でも、毎日のように聴いているのは、大抵ロックの曲なんですけどね。
まあ、ともかく、私が今まで聴いてきた中で、一番素晴らしいと感じたのは、女性ジャズ・ボーカリストの草分け、ビリー・ホリディなのです。
これは、彼女の歌に、技術的な面でも、感情表現の点でも、アドリブの点でも、1位に推して悔いのない、芸術的な完成度の高さがあるからです。
派手なロックとは違って、ジャズはごまかしやハッタリがあまり利きません。
あくまでも、歌い手の歌声だけを判断基準に、技量や感情表現の度合いを、聴衆から厳密に吟味されます。
彼女の活動初期の歌声(1930年代後期)には、そういった高度な音楽性を求める聴き手を満足させるだけの、あらゆる魅力が溢れています。
若さ、華やかさ、愛、共感、夢、そして、それらを優しく包み込んだ抜群のスイング感。
壮大なロックからは求め得ない、繊細な心の機微を描いた日常から生まれた歌声、それがビリーの歌唱の魅力であり、簡単そうで誰も到達できない、歌手としての最高の境地と言える完成度を楽しませてくれる、それがビリーの才能の大きさなのです。
もちろん、彼女の歌を聴いても、いまいち良さが分からない、と言う人も多いでしょう。
私だって、聴きはじめた頃は、彼女の歌声が全ての歌手の中で最高だと思うようになるなんて、想像もしていませんでした。
でも、実際、自分の好みを突き詰めて行くと、彼女の何気ないような、それでいて奥深い歌声に行き着くのです。
もしかしたら、あなたにとっても、彼女の歌声は、そんな存在になるかもしれない。
その一つのきっかけとして、私の中の一番として、彼女を教えました。
もし、ご興味があれば、彼女の初期の音楽に接してみて下さい。
1940年代半ば以降の後年になると、残念ながら不摂生から声が荒れて来るので、まずは初期の録音を聴いてもらいたいです。




