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音楽コラム 『ロックの歴史』 -時代を彩る名ミュージシャンたち-  作者: Kobito


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第45回 ギター革命 ブルース・リックからの解放 ヴァン・ヘイレン 1978年~

アメリカのハード・ロック・バンド、ヴァン・ヘイレンのアルバムデビューは1978年2月の事です。

1978年といえば、エアロスミスやキッスといった華麗にショーアップされたスタジアム・ロック・バンドが商業的成功を収めた時期であり、ロックシーン全体が大衆迎合型の商業主義的傾向を強めていた時期でもあります。

ヴァン・ヘイレンも、路線としては、陽気でセクシーで向こう見ずな、いかにもアメリカのハード・ロック・バンドらしいイメージで売り出されていますが、彼らとその他のスタジアム・ロック・バンドとの間には、ロック史を揺るがすほどの決定的な違いがありました。


それは、ギタリストのエドワード(エディ)・ヴァン・ヘイレンの、恐ろしくモダンで斬新なメロディセンスと、信じがたいほど複雑で高速な速弾きテクニックの冴えでした。


これまでこのコラム連載で紹介してきたロックの進化の過程を振り返ってみると、まずアメリカの伝統音楽であるブルースのメロディが基礎としてあり、そこに、カントリーやジャズのメロディやリズム、テクニックが合わさる事で、ロックン・ロールが誕生した、という経緯があります。

その後も、ロックはクラシックやワールドミュージックなどその他の音楽ジャンルからの影響を取り入れながら発展して行きますが、基本的に、影響を受けたジャンルが何であるか、演奏を聴けばおおむね推察できる程度に、メロディの選択肢は制限されていました。

(イエスのスティーヴ・ハウ、キング・クリムゾンのロバート・フリップなど、独自色の強いメロディを創造できるギタリストも中には存在しましたが、あまたあるロックバンドのギタリストの大半は、ブルースやジャズをベースにしたメロディでソロ演奏を構築していたわけです。)


ところが、エディの奏でるソロ演奏は、ブルースやジャズ由来の使い古された常套フレーズを徹底的に避けつつ、新鮮で、それでいて耳馴染みのよい、爽快感のあるメロディを実現していたのです。


彼が自己のテクニックの参考にしたのは、プログレッシブ・ロックの一流ギタリスト、アラン・ホールズワースですが、アランの演奏が、複雑難解でつかみどころがなく、玄人の聴き手にしか好まれなかったのに対して、エディの演奏は、技巧的な面では比類がないほど高度で複雑であるにもかかわらず、一般聴衆の耳でも十分に楽しめるような華々しさと絶妙な構成力を備えており、これがヴァン・ヘイレンの商業的成功の秘訣となったといえます。


エディのギタープレイの革新性は、メロディラインの奇抜さだけではなく、技法の面でも際立っていました。

例えば、彼の主要テクニックに〝タッピング〟という演奏法があります。

右手と左手、両方の指で弦を押さえたりはじいたりして、従来のギター奏法よりも多くの音を素早く弾くテクニックです。

このテクニックは、前述のアラン・ホールズワースやジェネシスのスティーヴ・ハケットなどがすでにライブやアルバム等で披露しており、エディが考案したものではありませんでしたが、エディほど本格的な主要テクニックとして発展させたギタリストはそれまでにおらず、その完成度の高さも相まって、過去のオーソドックスなメロディや技巧の踏襲ばかりでマンネリ化しかけていた音楽シーンに衝撃を与える事になりました。


この、タッピングの技巧が存分に味わえるのが、ヴァン・ヘイレンのファーストアルバム『Van Halen(炎の導火線)』の中の、「Eruption」という1分40秒ほどのインスト曲です。この曲で繰り広げられる強烈なアーミング(ギターに取り付けられた棒を操作して音程を上下させるテクニック)の迫力と、速弾きの圧倒感は、ギターの技巧の歴史を新たな段階に引き上げるのに十分過ぎるほどのインパクトを放っていますし、エディの登場以降、ロックシーンがエディの模倣者であふれ返った事もやむを得ないと思えるほどの魅力に満ち溢れています。


また、ニュー・ウェイヴやスタジアム・ロックの隆盛によって、圧倒的なギター・ヒーローが久しく登場していなかったロック界にとって、エディは救世主のような存在にもなった事でしょう。


なお、エディの魅力ばかり熱心に話しましたが、ヴァン・ヘイレンにはもう一人、欠かすことのできない魅力的なエンターテイナーが存在しています。

初代ボーカリストのデイヴィッド・リー・ロスです。

彼の歌唱は、あけっぴろげで朗らかで、時にメロディが分からなくなるほど自由奔放な事から、「下手」と評する人も多いようですが、実際は高音シャウトから低音まで、驚異的な声域を持ち、感情表現も豊かな技巧派のシンガーです。

かく言う私も、最初に聴いた時は、あまり上手じゃないなと思ったんですが、聴き込むうちに、彼だけが表わすことのできる歌声の「楽しさ」の魅力というものに気が付いて行って、今では好きなシンガーの上位に来るくらいのお気に入りになっています。

彼の後任で加入したサミー・ヘイガーの方が、スタジアムロックの歌手としては安定感がありますが、あまりにオーソドックスにまとまり過ぎてやや物足りなさを感じるので、やはり、ヴァン・ヘイレンというバンドは、破天荒で面白いデイヴィッド時代が最高だと思います。(1985年~2007年まで脱退。現在はヴァン・ヘイレンで活動中)


1984年の楽曲、「Jump」のミュージックビデオを観ると、イケメンなのに面白い彼の性格が、バンドの大きな魅力になっているのが分かります。(アルバム『1984』に収録)




挿絵(By みてみん)




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