第43回 パンク 反動という名の伝統 セックス・ピストルズ 1976年~
〝パンク〟という、1970年代半ばに勃興した反逆的な若者を象徴するスタイルを語る時に、イギリスのパンクバンド、セックス・ピストルズはそのかなめとも言える重要な位置を占める事になります。
ちなみに、パンクという言葉は音楽ジャンルを指すだけではなく、ファッションの分野でも、黒を基調とした細身のシルエット、多数の鋲を打ち込んだジーンズや革製の素材、ツンツン尖らせたヘアスタイルなど、独特なこわもての雰囲気を持つスタイルを指す言葉として普及しています。
パンクのイメージは、主にこういったファッションの特徴や、パンク・スタイルを愛好する若者たちの向こう見ずで粗野で反抗的な立ち居振る舞いによって形作られているので、音楽におけるパンクも、斬新で過激なアイデアが見られるようなイメージを持たれがちですが、実際は伝統に根差したオーソドックスなサウンドとテクニック以外、際立った新しさはない、という所に特徴があります。
パンクが流行し始めた頃の音楽シーンは、プログレッシブ・ロックに象徴される、高度なテクニックに裏付けられた超絶技巧を聴き手に誇示するタイプのロックか、より大衆に受け入れられやすい、派手に飾り立てられた音楽性を持ったスタジアム・ロックが人気を博していました。
こういう状況に、ロック本来の衝動的で原初的な荒々しさを求める人々が不満を募らせた結果、パンクは誕生した、というのが、現在では定説になっています。
ですから、パンクというのは、新しい表現の創造というよりは、原初的なロックンロールへの回帰、という心理がもたらした音楽だったと言えます。
セックス・ピストルズの音楽を聴けば、それはすぐに分かります。
彼らの音楽で前面に出ているのは、社会や権力者に対する不満や憤りをシニカルにアジテーションして行く、ボーカルのジョニー・ロットンの人を食ったような攻撃的な歌声ですが、その背後で奏でられている伴奏は、まぎれもなく、チャック・ベリー・スタイルのロックの基本とも言うべきシンプルなロックンロール・サウンドです。
この、一見不釣り合いで時代錯誤に思える組み合わせの、実に刺激的で、カッコ良く耳に響く事。
なお、ジョニーの歌い方は、無名時代に親交のあったスクリーミング・ロード・サッチというイギリスのノベルティ系のロック歌手の影響を受けているんですが、このロード・サッチのバンドには、ディープ・パープルのリッチー・ブラックモアや、レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジとジョン・ボーナム、ジェフ・ベック、ザ・フーのキース・ムーンなど、後にロックの中心人物になる錚々たる逸材が多数出入りしており、一見破天荒で唯一無二に思えるジョニーの歌唱にも、やはりロックの伝統が根ざしている、という事の裏付けになっています。
セックス・ピストルズが活動していたのは、1975年から1978年までで、ファーストシングル「Anarchy In the U.K. / I Wanna Be Me」の発表は1976年、ファーストアルバム『Never Mind the Bollocks, Here's the Sex Pistols(邦題・勝手にしやがれ!!)』の発表は1977年10月の事です。
アルバムには、「Holidays in the Sun」、「No Feeling」、「God Save the Queen」、「Problems」、「Anarchy in the U.K.」、「E.M.I.」といった、似たり寄ったりの曲調でありながら、それぞれに主張と個性を持った素朴な魅力のある名曲の数々が目白押しです。
彼らの音楽の、批判の対象を明確に名指ししてバッシングするスタイルは、特に「God Save the Queen」や「E.M.I.」といった楽曲で、強烈な印象として聴き手に届きます。
残念ながら、バンドはアルバム発表後のアメリカツアー中(1978年1月)に、メンバーが仲違いを起こして解散してしまうので、パンクの象徴として崇められさえしているセックス・ピストルズの公式スタジオアルバムは、現在に至るまでこの1977年のファーストアルバム、たった一枚、という事になります。
このような、古典的なロックンロールと、王道的なロックに根差した、オーソドックスとも言えるバンドの、しかもたった一枚のアルバムが、現在でも世界で多くの愛好者を獲得し続け、音楽界のみならず、社会的にも影響力を保ち続けている、というのは、考えてみると、不思議な事だと思いませんか?いったいどこからそんな魅力が生まれているのでしょうか?
それは、ロックというものの本質が、〝高度なテクニック〟や〝飾り立てられた派手さ〟ではなく、〝衝動〟や〝心意気〟にあり、セックス・ピストルズの音楽からは、それを感じ取る事ができる、という所に集約されるのではないかと思います。
もちろん、〝高度なテクニック〟や〝飾り立てられた派手さ〟が大衆に求められることは、これからも変わらないのですが、一方で、〝衝動〟や〝心意気〟を求めるロック・ファンも根強く存在することで、ロックはその本質を見失わずにいることができるのだろう、というのが、私の考えです。




