祝第40回 洋楽ロック以外のお勧めミュージシャン 1936年~1978年
私が普段好んで聴くのは、洋楽ロック、ブルース、ジャズ、クラシックですが、あまり似た傾向の音楽ばかり聴いていると、さすがに飽きて来るので、ポップス系の洋楽も時々聴きたくなります。
津軽三味線や、フォーク世代の日本の音楽にも、ほんの少しですが好きなミュージシャンがいます。
というわけで、今回は、節目の第40回という事もあり、洋楽ロック以外の、私が好きな音楽から、選りすぐったミュージシャンを紹介してみようと思います。
古い音楽が中心ですし、かなりマニアックなミュージシャンも含まれますが、今聴いても新鮮さを感じる、素晴らしい作品ばかりなので、紹介文でご興味がわいたなら、ぜひ探して、聴いてみて下さい。
年代順に紹介して行きます。
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・ロバート・ジョンソン 『コンプリート・レコーディングス』(1936年と1937年)
戦前を代表する、ブルースの弾き語りミュージシャンです。彼の録音は、1936年と1937年の2回のレコーディングで記録された59テイクのうち、現存する42テイクが全てです。
楽曲数で言うと、29曲ですから、残された作品数の比較的少ないミュージシャンだといえます。
しかしながら、彼の演奏や歌唱が、特に1960年代のロック系の白人ミュージシャンに与えた影響は、極めて大きいです。
なぜ、多くのブルースマンの中で、ロバートの演奏がそれほど人気を得ているのかというと、一つに、その演奏技巧の多彩さ、高度さ、表現力の豊かさが挙げられます。
おそらく、ギター表現の総合的な巧みさという点では、古今のあらゆるジャンルのギタリストの上位10傑に入ると思います。
十字路で悪魔と契約する事で、その驚異的なギターの腕前を得た、といううわさが伝承するほど、彼のギタリストとしての才能は飛び抜けています。
そして、その激しい情念のほとばしりを、彼がアコースティック・ギター一本で表わし得ている、という所にも、彼の演奏家としての凄みがあります。
ロックという衝動の音楽が生み出される原点となった、ロック史にとっても極めて重要なアーティストです。
・ウィルヘルム・フルトヴェングラー(指揮者)「ベートーヴェン・コリオラン序曲」(1943年録音)
クラシックの指揮者で、一番好きなのは、ドイツの巨匠、フルトヴェングラーです。
彼の指揮で聴くクラシック曲の数々は、他の指揮者では味わえない深刻さと衝撃的なダイナミズム、そして、今生み出された音楽であるかのような新鮮な即興性のスリルが楽しめるという点で特別です。
クラシックは決して懐古趣味の音楽ではなく、ハード・ロックの迫力にも対抗できる、大胆な音楽なんだ、という事を、彼の演奏ほど教えてくれるものはありません。
フルトヴェングラーは、第2次世界大戦中もドイツにとどまり、ナチスの要請に応じて演奏活動を行なった事から、戦後、ナチスの協力者と糾弾され、音楽界から追放されましたが、友人の音楽家たちの証言により、ナチスの文化政策に抗議したり、ユダヤ人の音楽家を多数助けたことが明らかとなり、1947年に汚名がそそがれ、指揮活動に復帰しました。
(フルトヴェングラーに限らず、ナチスに協力的だった音楽家などの文化人は、戦後、その分野から追放されたり、干されたりした人も多かったようです。当然の事とはいえ、あらためて、文化人の戦争への向き合い方について考えさせられます。)
何はともあれ、フルトヴェングラーの才能は、排除されるにはあまりにも惜しい偉大さです。
その演奏の迫力は、戦時中の録音である1943年の「コリオラン序曲」の凄まじさを聴いてもらえばわかります。
なお、フルトヴェングラーの「コリオラン序曲」は、録音年の異なるバージョンがあるので、最も迫力のある演奏を聴きたい場合は、1943年の録音を探してみてください。
Furtwangler Beethoven Coriolan Overture
・エディット・ピアフ 『Platinum Collection』(ベスト盤 3枚組)
1940年代の録音で全盛期の歌唱が聴ける、フランスのシャンソンを代表する歌手です。
日本で言うと、美空ひばりさんのような、単なるスターではない、その才能を語り継がれる偉大な存在です。(美空ひばりさんの歌唱法は、多分にピアフの影響を受けており、その声質の近さもあって、初めてピアフを聴く人の中には、美空さんを想起する人も多いのではないかと思います。)
モーツァルトは、「フランス人に音楽は分からない」という言葉を残していて、私も、フランスの音楽にありがちな甘さに流れる傾向が苦手なんですが、ピアフに関しては、全く当てはまりません。
人生の悲喜こもごもを、自ら体験し、歌唱に込めた、歌こそ人生という、本物のミュージシャンです。
「愛の賛歌」や「パダン・パダン」を聴くと、古き良き芸術の都パリの趣きを感じることができます。
・アンドレス・セゴビア 『Works For Guitar Solo』(1947年~1949年録音)
アコースティックとエレキを合わせると、ギタリストは(一流に絞ったとしても)、古今東西、世界中に数えきれないほどいますが、最も優れたギタリストは誰か、と問われれば、私はクラシック・ギタリストのアンドレス・セゴビア(Andres Segovia)と答えます。
「ギターを歌わせる」、という、耳慣れた慣用表現がありますが、それを実際に、ギターが歌うように自由自在に行なうことができる数少ないギタリストであり、どんなに難しいフレーズでも、情感を込めて弾きこなすことができる完璧なテクニックは、他の追随を許さないほど高度に完成されたものです。
一聴して彼の演奏と分かる、セゴビア・トーンと呼ばれる哀愁を帯びたサウンドが、アコギから生み出されている点も、驚くべき特徴です。
レッド・ツェッペリンのギタリスト、ジミー・ペイジがフェイバリットに挙げるギタリストであり、彼らの楽曲、「ハートブレイカー」の無伴奏ギター・ソロの末尾部分には、セゴビアがギター編曲したバッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」の中の一節が用いられています。
クラシックとロックは、縁遠いようで、意外なところで密接につながっているのです。
なお、セゴビアは活動期間が長く、晩年まで精力的に演奏の録音を行なっていますが、全盛期は1940年代なので、聴くとすれば、まずその時代の演奏をお勧めします。
・高橋竹山『源流・高橋竹山の世界~津軽三味線』(1963年)
1950年代から名声を確立した、津軽三味線の第一人者です。
今でこそ、津軽三味線は全国的にポピュラーな楽器ですが、高橋竹山の活動初期は、東北の一地方で親しまれている伝承芸能に過ぎませんでした。
そんなマイナーな音楽を、身一つで全国的な知名度にできたのは、取りも直さず、竹山の圧倒的な演奏技巧と、音色からにじみ出る人生の悲哀の深々とした魅力による所が大きいです。
『源流・高橋竹山の世界~津軽三味線』は、史上初の津軽三味線独奏のLPレコードであり、全盛期の彼の最高の芸が余すところなく記録されているという点で、非常に貴重なものです。(CD化もされています。)
現代の津軽三味線は、若手がロックと共演するなどアイドル的な人気を博することもあるようですが、そういったファッションとしての軽やかな音色と、竹山の人生の悲哀を映した複雑な音色とを聴き比べてみると、現代の日本の音楽が失った大切なものが見えて来る気がします。
まお、「高橋竹山」の名前は、弟子の一人(女性)に継承されているので、私が紹介した高橋竹山にご興味がある方は「初代」の演奏を探すようにして下さい。
・キム・ジョンミ(金廷美・Kim Jung Mi)『NOW』(1973年)
このミュージシャンの事は、近頃ユーチューブで見かけて知ったんですが、1970年代に韓国で活躍した歌謡曲系の歌手のようです。
曲調は、1960年代後半の洋楽サイケデリック・ロックの影響が色濃い、韓国版サイケといった感じです。郷愁を誘う少し気だるいハイトーンボイスの歌声が、そんな曲調に実にマッチしています。
加えて、このキム・ジョンミのアルバム、バックのバンド演奏が非常に良いのです。
ギターと、ドラムスの演奏が、特に光っています。
洋楽ロックの受容という点では、日本よりも韓国の方が、真摯で深みがあるようです。
このアルバムのギタリスト、Shin Joong Hyunという人は、今では韓国・ロックの大御所と評価されているそうなので、各楽曲の完成度の高さは、彼の貢献が大きいのでしょう。
英語以外の外国語歌詞の音楽で、言語に関係なく楽しめた、数少ない経験でもあります。
同じく1973年発表の『Wind』というアルバムも聴いてみましたが、やはりギターが、歌を引き立てる良い音で鳴っています。
・カーペンターズ『ホライズン』(1975年)
言わずと知れた、リチャードとカレンのカーペンター兄妹によるポップス・デュオです。
カーペンターズの魅力は、カレンの歌声無くしては語れない、そのくらい、彼女の美声は人々の心をとらえるものでした。
歌というものは、まず歌い手の声質を楽しむものだという事が、カレンの歌声を聴くとよく分かります。
まろみとコクのある琥珀色のお酒のような、澄んだ低音の声です。
どんな曲のリズムにも軽やかに乗れる節回しの巧みさは、ドラマーとして音楽活動を始めたカレンの、天性の資質でしょう。
カーペンターズの音楽に出会ったことで、その他の洋楽も聴くようになった、という人も、けっこういるのではないでしょうか?
『ホライズン』は、数あるカーペンターズのアルバムの中でも、陰影豊かな、カレンの深みのある歌唱が楽しめる名盤です。「希望の鐘」、「オンリー・イエスタディ」、「デスペラード」、「悲しみの夕暮れ」など、リチャードのアレンジの才能と相まって、何度聴いても聴き飽きる事のない音楽体験を堪能できます。
ちなみに、クイーンのボーカリストであるフレディ・マーキュリーが、嫌いな音楽としてカーペンターズを挙げていたそうで、カレンのしっとりと歌い上げる歌唱にフレディと共通する所があるだけに、ちょっと意外な感じがします。
・ABBA 『ABBA』(1975年)
1970年代中期から1980年代初頭にかけて世界的成功を収めた、スウェーデン出身の4人組ポップ・グループです。
彼らの成功のカギは、高音、低音を担当する女性二人のボーカルの華やかさと美貌、男性二人のコーラスの爽やかさ、印象的な楽曲の数々のほとんどで英語歌詞を採用した事による受け入れやすさが挙げられます。
男性メンバーのビョルンとベニーの作曲コンビが、極めて才能豊かな事は、ABBAの名曲の数々を聴けばすぐに分かります。
親しみやすく、覚えやすく、聴き応えもある、三拍子揃ったセンスのある音楽性です。
ギタリストのリッチー・ブラックモアが、好きなグループとして名前を挙げていましたが、確かに、ハード・ロック好きが聴いても、甘ったるくない引き締まった乗りの良さと、アレンジの奥深さがあります。
・山崎ハコ『流れ酔い唄』(1978年、4枚目のアルバム)
フォーク全盛期の女性シンガー・ソングライターです。演歌調のほの暗い歌詞、底力と伸びのある哀愁漂う歌声、いかにも一昔前の日本人好みな音楽性ですが、演歌のメロディを基礎にしながらも、洋楽フォークの要素も取り入れた幅のある曲想や演奏に惹かれるところがあって、日本語の歌が楽しみたいときは、時々聴いています。弾き語りスタイルだけでなく、ロック・バンドやフルート、弦楽器など、様々な編成の演奏が聴けるのも嬉しい所です。どの曲も編曲が適切なので、安心して聴いていられます。このアルバム以外のアルバムは、演歌のマンネリズムが表れ過ぎていてあまり好きではないので、彼女の曲を聴く時はこのアルバムばかり聴いています。




