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音楽コラム 『ロックの歴史』 -時代を彩る名ミュージシャンたち-  作者: Kobito


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第39回 私の好きなベーシスト ランキング・ベスト20 (10位~1位まで)

第38回のコラムに引き続き、『私の好きなベーシスト ランキング・ベスト20』と題して、オール・ジャンルから選出したお勧めのベース奏者をご紹介して行きます。

(オール・ジャンルと言っても、20人全員が、私が普段一番聴いているロックとジャズからの選出になりましたが……。)


今回は、いよいよ、気になる10位から1位までの発表です。




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第10位 ジョン・ポール・ジョーンズ (【ロック】レッド・ツェッペリン)


レッド・ツェッペリンの楽曲が持つ独特の曲調は、何によって特徴付けられているのか。

もちろん、ジミー・ペイジのギター・リフやソロ・ワークが、大きなウエイトを占めているのは確かなんですが、その後ろで真に曲の個性をつかさどっているのは、ジョン・ポール・ジョーンズの、やや神経質な感じの、ゴリゴリとした存在感のあるベース演奏ではないかと思います。

ベースというのは、聴き流していると、どのバンドも同じような似たり寄ったりのサウンドのように思うかもしれませんが、ギタリストと同様、ベース奏者もそれぞれに、好みのサウンドというのがあって、それをベース・メーカーごとの違いやモデルごとの違い、各種音響機材を駆使するなどして表現しています。

ジョンのベース音は、大音響の曲の中に紛れると、さほど個性はないような印象になりますが、ベースが目立つ曲、例えば、「アキレス最後の戦い(Achilles Last Stand)」などを聴くと、ジョンの音が独特の引き締まった心地良いサウンドとして個性を確立している事を感じ取ることができます。そして、その個性が、レッド・ツェッペリンの軽薄さの一切ない硬派なバンド・カラーに直結している、という所にも、彼の存在感の重要性があります。



レッド・ツェッペリン『BBCライブ』(1969年から1971年にかけてのラジオ用ライブ)




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第9位 フィル・チェン (【ロック】ジェフ・ベック)


ジェフ・ベックのインスト・アルバムの傑作『ブロウ・バイ・ブロウ』(1975年)でベースを担当した、腕利きのセッション・ベーシストです。

知名度はあまり高くないようですが、「コンスティペイテッド・ダック」などの複雑なベース・ラインを正確無比に弾きこなす様は、リズムの鉄壁な安定感も相まって非常に聴き応えがあります。

フィルの演奏に限らず、このアルバムは、ギター、キーボード、ベース、ドラムス、それぞれの力量が極めて高い水準で拮抗している所に、たぐいまれな価値があると思います。




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第8位 ノエル・レディング (【ロック】ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス)


世間では、クリームこそ史上最高のロック・トリオだと言われる事が多いようですが(3大ギタリストとか、ギター・ゴッドという称号もそうですが、お手軽に人目を引く肩書きをつけている所があるので、良し悪し、好き嫌いは、あくまでも自分の耳で判断する必要があります。)、私の中での最高のロック・トリオは、ロックを聴きはじめた頃から、ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンスから変わっていません。

テクニックやフレーズの多彩さで言うと、ジミのバンドのベーシストであるノエル・レディングよりも、クリームのベーシストであるジャック・ブルースの方がはるかに上な事は確かです。

ただ、音楽というのは、技量だけで魅力を測れない所に、面白さがある、と私は思っていて、技量以外の面、例えば、音楽的興奮への貢献度とか、サウンドの心地良さとか、音に滲み出た人柄とか、そういったものに重きを置く私から見ると、ベーシストとしての魅力はノエルに軍配が上がると感じます。

ノエルのベースは、ぼんやりした輪郭で、やや凝った演奏を見せる事も時折ありますが、それもあまり目立つことはなく、速弾きもあまりせず、ジミの明瞭なギター・サウンドの背後を霧のように覆っている事が多いという、何とも華の無いプレイが特徴です。

それでいて、ドラムスのミッチ・ミッチェルの大らかでありながら手数の多いサウンドと合わさった時には、電流が流れるような唯一無二の刺激を生み出すのですから、音楽のマジックと言う他ありません。

ジミは、不和が原因で1969年にノエルがバンドを去ったのちに、バンド・オブ・ジプシーズという新たなトリオをスタートさせますが、そのバンドでベーシストを務めたビリー・コックスの、音の粒が明瞭でオーソドックスな演奏を聴くと、ノエルの演奏がいかにジミのプレイにとって分かちがたい魅力の元になっていたかが、皮肉にも浮き彫りになっています。


ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス『ジミ・プレイズ・モンタレー』(1967年のライブ)

ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス『BBCセッションズ』(1967年の演奏を中心にしたラジオ用のスタジオ・ライブ)




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第7位 ジョン・キャンプ (【ロック】ルネッサンス)


私の一押しのプログレ・バンド、ルネッサンスのメンバーに、ドラマー・ランキングに続いて再びご登場いただきました。

この、クラシック音楽のソフトな響きを売りにしたバンドの楽曲を、ロック・ミュージックたらしめているのは、テレンス・サリヴァンの適度に抑制されながら芯のあるドラムスと、ジョン・キャンプのゴリゴリとした弾きまくりスタイルによるベースラインに他なりません。

ルネッサンスの生ピアノ主体の品の良い曲調に、ジョンの力強いベース音が、実によく映える事。しかも、どの曲でも全編にわたって大活躍なのですから、ベース好きには堪らないバンドです。

ところが、なぜか日本での知名度は低いまま。


ファンタジーの物語が好きな人なら、惚れこむこと請け合いの、想像力を刺激してくれる美しい音楽ですから、小難しい解説は置いておいて、ひとまず聴いてみてほしいです。



ルネッサンス『Ashes Are Burning』(1973年)

ルネッサンス『Novella』(1977年)




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第6位 グレッグ・レイク (【ロック】キング・クリムゾン、エマーソン・レイク&パーマー)


グレッグ・レイクは、キング・クリムゾンの初代ベーシストとして、また、エマーソン・レイク&パーマーのベーシスト兼ギタリストとして有名です。どちらも生粋の硬派なプログレ・バンドであり、技巧派のミュージシャンがメンバーに顔をそろえている事でも一致しています。

とはいえ、グレッグの技巧が注目されるのは、ベース専門誌などでの事が多く、一般的な音楽雑誌では、その抒情的な歌声の方に、より賞賛が集まる傾向にあるようです。

確かに、彼のベースは、例えばキング・クリムゾンの手の込んだアレンジの中では、奥の方で静かに鳴っている事が多いんですが、そのやや硬質なオルガンのような音が、寂しげな曲調に合っていて、とても良いのです。

そして、速弾きでは、ジャズ的なモダンなアプローチが、増幅を抑えたクリアなサウンドとマッチして、曲の重要な鑑賞ポイントになっています。


キング・クリムゾンのファーストアルバムは、日本人好みの切ないまでの哀愁から、今でも非常に人気が高いんですが、その魅力は、グレッグの詩的な歌声と、彼のベースの繊細な味わい無くして語る事ができません。



キング・クリムゾン『クリムゾン・キングの宮殿』(1969年)




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第5位 ジョン・ウェットン (【ロック】キング・クリムゾン、U.K)


ジョン・ウェットンはキング・クリムゾンでベースとボーカルを担当したことから、同じくキング・クリムゾンで活躍したグレッグ・レイクと似たタイプのミュージシャンだと思われがちですが、改めてきちんと聴き比べてみると、両者の違いは意外と大きい事に気付かされます。


まず、サウンドですが、グレッグはクリーンで繊細なトーン、一方のジョンは、歪みをナチュラルに効かせた荒いトーンを好んで用います。

演奏では、グレッグが比較的サポート重視の簡素なベースラインを奏でているのに対して、ジョンは全ての楽器に対抗するような攻撃的なラインで聴き手の注目を集めます。

彼らが似たタイプだと思われるのは、その歌声の、訴えかけるような詩的な味わいの類似によるところが大きいかもしれません。

私はソフトで控えめなものより、やや荒く押しの強いものに惹かれる傾向があるので、グレッグのベースよりは、ジョンのベースの方に、より聴き応えと親しみを感じます。

しかし、どちらも魅力的な個性を持っているのは確かなので、ご興味があれば、ぜひ両者を聴き比べてみてもらいたいです。



キング・クリムゾン『太陽と戦慄』(1973年)




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第4位 ポール・チェンバース (【ジャズ】マイルス・デイヴィス)


1950年代のマイルスの音楽的躍進と成功を支えた、当時ジャズ界でもっとも輝いていたリズム隊の一員です。

マイルス以外の同僚は以下の通り。


ジョン・コルトレーン(テナー・サックス)

レッド・ガーランド(ピアノ)

フィリー・ジョー・ジョーンズ(ドラムス)


1956年に大手のコロンビア・レコードに移籍する事に決めたマイルスは、「1956年までにLP4枚を製作する」というプレスティッジとの契約の残りを果たすために、わずか2回のセッションでLP4枚分の録音を完成させます。このうち、『クッキン』と『リラクシン』は、やっつけ仕事とは到底思えない名演揃いの歴史的な傑作です。ジャズ・ミュージシャンが本気を出すと、どれほど凄いか、私はこのエピソードとアルバムの演奏を聴いて教わりました。ポールの演奏は、曲を引き立てる魅力的なメロディラインと、他のミュージシャンの演奏に対する反応の良さが持ち味です。特に、テンポが変化した時に、完璧に音のタイミングを合わせて行く様は、ジャズの醍醐味である即応性のスリルを、最高の水準で味わわせてくれます。




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第3位 ジョン・エントウィッスル (【ロック】ザ・フー)


ザ・フーの炸裂的パワーは、ピート・タウンゼントのノイジーなパワーコードと、キース・ムーンのエネルギッシュな一気呵成のドラミング、そして、ジョン・エントウィッスルのトゥワンギーな速弾きベースのカッコ良さが合わさる事で生み出されています。

ジョンのベース・サウンドは、1960年代初期に人気を博したギタリスト、デュアン・エディが常用した、弦をたわませることで得られる「ベロンベロン」という独特なギター・サウンド(三味線の「ベンベン」というサウンドにやや似ています)を拝借したもので、面白い事に、この〝トゥワング〟と呼ばれるサウンドを取り入れた後進ミュージシャンは、ギタリストよりも、ベーシストの方に多く、ジョンの他には、イエスのクリス・スクワイア、レッド・ツェッペリンのジョン・ポール・ジョーンズ、キング・クリムゾンのジョン・ウェットンなどが、デュアンの代表的後進として挙げられます。


キース・ムーンの破天荒なドラムスに任せていると、収拾がつかなくなるので、楽曲が破たんしないように、ジョンがベースでコントロールしていたと、ジョン自身がインタビューで答えているのを、最近読んだんですが、ジョンのベースは、そういう理知的な調整役を担っている事を感じさせない、強烈なグルーブと自由自在なテクニックの冴えに満ちています。

ベーシストである以前に、素晴らしいロックン・ローラーであるところが、彼の魅力です。



ザ・フー『フィルモア・ウエスト』(1968年のライブ、2018年発売)最近まで公式発売されなかったのが不思議なくらいの凄まじい名演です。




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第2位 クリス・スクワイヤ (【ロック】イエス)


クリス・スクワイヤの魅力は、とにかく分かりやすいです。

トゥワンギーなゴリゴリとした重低音サウンド、弾きまくりスタイルだけど音の粒はしっかりしたタイトなライン、大音量の中でも埋もれない押し出しの強さ、私の好きな要素が見事に揃っています。

思えば、私がベースという楽器に興味を持つようになったのは、クリスの名演の数々に接して、すっかり虜になってしまった事が大きいと思います。

私と同じクリス経由で、ベース好きになった人、けっこう多いのではないでしょうか?


イエスの個性的なサウンドの要であるだけでなく、演奏面でもギタリストのスティーブ・ハウやキーボーディストのリック・ウェイクマンといった超絶技巧派と丁々発止の絡み合いを見せる、ベース界の真のスター・プレイヤーです。


イエス『こわれもの』(1971年)




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第1位 スコット・ラファロ (【ジャズ】ビル・エヴァンス・トリオ)


ビル・エヴァンス(ピアノ)のトリオで、たぐいまれな才能を披露してくれたスコット・ラファロが、わずか2年程度の在籍で、交通事故により他界した事は、ジャズ界全体にとっての、計り知れない損失でした。

ジャズでもロックでもそうですが、器楽演奏家やボーカリストなど次世代を担う輝ける才能が、若くして他界してしまうという事が、時代の節目ごとに起こっています。ジャズではクリフォード・ブラウン、エリック・ドルフィー、ブッカー・リトル、ロックではバディ・ホリー、エディ・コクラン、ジミ・ヘンドリクス、カート・コバーンなどが挙げられます。

もちろん、このタイミングは運命などではなく、悲しい偶然なわけですが、そういうリーダー的なミュージシャンを失うことで、業界全体が停滞する事もあり、一人一人の天才が、音楽界にとっていかに貴重な存在かを、改めて思い知らされます。


スコット・ラファロの演奏の美点は、洗練された、それでいて力強い、モダンという言葉がぴったりの高度な音楽性と、増音器を用いないウッド・ベースならではの温もりのあるサウンドの深みにあります。


正直、彼のベースはジャズ理論に基づいた難解なフレーズの連続なので、私は魅力の全てを理解できていません。しかし、彼の演奏の不思議さは、分からないなりに聴き流していても、その素晴らしさに酔いしれることができる、聴きやすさを持っている所にあるので、ジャズをこれから聴きはじめようと考えている人で、ピアノ演奏が好き、という人には、自信を持って、スコット在籍時代のビル・エヴァンス・トリオのアルバムを勧める事にしています。ビルの演奏にも、スコットと同じ、高度ではあっても聴きやすいロマンチックな美しさがあり、二人の相性の良さが、このトリオの最大の魅力と言えます。



ビル・エヴァンス・トリオ『ポートレイト・イン・ジャズ』(1959年)

ビル・エヴァンス・トリオ『ワルツ・フォー・デビイ』(1961年のライブ)




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選外にもれたけれど、ベースの歴史にとって欠かすことのできないジャズ・ベーシストが二人います。

チャールズ・ミンガスとジャコ・パストリアスです。

チャールズ・ミンガスは、黒人としての歴史やアイデンティティを前面に押し出した、独特のアクの強いミュージシャンで、その野性的なうなるようなスタイルは、演奏でも作曲面でも際立った個性として表れています。公民権運動が盛んになりはじめたアメリカで、音楽を通じて黒人を鼓舞した熱い人でもあります。1960年発表の『ミンガス・プレゼンス・ミンガス』が、そういった主張と音楽的内容の濃さが一致した名作です。

日本人はとかく、「音楽に政治を持ち込むな。」なんて言って、政治的発言をするミュージシャンや文化人やタレントを批判しますが、それは権力を利する行為であり、民主主義を否定する愚かな考えだと私は思います。誰でもどんな立場の人でも、自由に政治について語れる、これが、理想的な民主主義の姿ですし、現に、今の私たちが享受している民主的な社会は、ミンガスをはじめとした政治的な発言、主張を堂々と行った人々の努力もあって、勝ち得たものですから、それを手放させようとする論調には、先人への感謝も尊敬も感じられないという点で、全く賛同できません。


ジャコ・パストリアスは、フレットレスのエレキ・ベースのサウンドの面白さを最大限に引き出した演奏法を確立した事で、ベースの歴史上重要な人物とされているミュージシャンです。

彼が音楽シーンに登場した1975年頃というと、ジャズとロックが融合したフュージョン・ブームが盛り上がろうとする時代で、彼の特徴的な演奏は、すぐに人々の注目の的となり、最高峰のフュージョン・バンド、ウェザー・リポートに加入してからは、いよいよ時代を代表するベーシストとして人気を不動のものにして行きます。

とはいえ、私はジャズ界からフュージョンにアプローチした作品が、あまり好きではないので(ロック界からのフュージョンへのアプローチは好きです)、ジャコの演奏にも、それほど惹かれるわけではありません。ただ、後進のフュージョン系ベーシストに与えた影響力の大きさは、彼の特徴的な演奏からはっきりと聴き取る事ができます。


上記の二人以外にも、ファンクでよく見られるスラップというテクニック(弦をパチンとはじいたり叩いたりする事で、アタックの強いサウンドを得たり、リズムを強調したフレーズを奏でる手法)を駆使した高度にテクニカルなベーシストたち、ラリー・グラハム、マーカス・ミラー、ヴィクター・ウッテン、フリー(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)などの演奏も、乗りが良くて好きな面もあるんですが、ではスラップ特有の音やリズムを取り除いた時に、彼らに何が残るかと考えてみると、感情表現の面で深みはそれほど期待できないようにも思えるので、ランキングに入れる事は控えておきました。


テクニック、個性、斬新さ、派手さ、これらはもちろん、音楽の重要な要素ではあるんですが、たとえそれらが無くとも、音楽は魅力的になれるし、むしろ、それ以外の部分にこそ、私は期待しているのだと、このランキングを作りながら改めて感じました。





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