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音楽コラム 『ロックの歴史』 -時代を彩る名ミュージシャンたち-  作者: Kobito


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第38回 私の好きなベーシスト ランキング・ベスト20 (20位~11位まで)

本題に入る前に、古い音楽の魅力について、ちょっと話したくなったので、語らせて下さい。

最近、オールマン・ブラザーズ・バンドの1971年のフィルモア・イーストでのライブ映像を観たんですが、当時のロック・シーンの代表的バンドの、しかも絶頂期の演奏という事で、その場の雰囲気から伝わって来るスリルがたまらなかったです。

音だけで楽しんだ時よりも、映像もあった方が、とてつもなく難しい事をやっていたんだなという事がよく分かります。合奏の一体感、各演奏者のたるんだところの一切ない目くるめくアドリブ・プレイ、音楽の世界観に没入した各自の表情、昔のミュージシャンの、派手なショーマンシップとはまた違ったひた向きなカッコ良さにしびれます。

スライド・ギターのデュアン・オールマンの手元を見ていると、ピックを用いないフィンガースタイルで、流れるような実になめらかな指さばきで弾いています。右手も左手も、まるで優しくギターを撫でているだけみたいなのに、奏でられるメロディは複雑で緩急があり、音のニュアンスも繊細で豊かです。

練習した通りにメロディを弾いているのではなく、その場で即興的にメロディを生み出している、体と心とギターの一体化が感じられます。

ジミ・ヘンドリクス(ロック・ギター)やチャーリー・パーカー(ジャズ・サックス)といった一流のアドリブ奏者の映像を観ると、やはりこの一体化が、表情や体の動き、生み出されたメロディやサウンドなどから伝わって来ます。

私が好きになる音楽には、どこかしらこの、音楽と人の一体化の凄みがあるように思います。


ということで、第30回と第31回のコラムでやったドラマー・ランキングに続いての今回の試み、『私の好きなベーシスト ランキング・ベスト20』でも、ご紹介するのは、私が好きな、ストイックな音楽への没入タイプのアーティストが中心になると思います。


ところで、ベーシスト(ベース奏者)というのは、好きな人にはたまらなくカッコいいポジションなんですが、興味の薄い人には全く意識されないポジションでもありますよね。

ドラムスのリズムを補強し、ギターなどリード楽器の演奏に和音(主に低音部)を提供する、それがベースの基本的な役割ですから、どうしても脇役、裏方、というイメージが付与されがちです。


しかし、ベーシストの中には、リード・ギタリストに匹敵するアドリブ能力を備えた、華のあるベーシストもいますし、サポートに徹するベーシストの中にも、職人的な味と個性を持った名物ベーシストが多数存在するので、興味を持って聴けば、音楽を聴く際の新たな楽しみになる事は間違いなしです。


とはいえ、私自身、ベーシストの好みが極端に狭いので、ドラマー・ランキングのように二十人ものアーティストを挙げて、しかも、彼らを順当だと思える順番でランク付けする事ができるかどうか……。


まあ、自分の知識のおさらいと、新たな魅力への気付きを期待して、取り組んでみます。


なお、今回のベーシスト・ランキングは、ドラマー・ランキングの時と同様に、完全に私的な好みに基づくランキングであり、技術の高低や歴史的な意義は、一番の判断基準ではない事をお断りしておきます。

また、ベーシストのランキングという事で、チョイスする面子は自然と、ベース音が目立つジャンル、ジャズやプログレッシブ・ロックからが多くなります。それでいて、現代のテクニック至上主義的なベーシストがランキング入りしていないのは、冒頭で語った、アドリブに関する私の好みが関係しています。



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第20位 クリス・ノヴォセリック (【ロック】ニルヴァーナ)


ニルヴァーナのライブを聴いていると、トリオ編成のバンドであることを忘れるくらい音が充実している事に感心させられますが、それは、カート・コバーンのギターの単音とコードの絡み合いや、鋭角で不安定なサウンドの響きの魅力と、クリス・ノヴォセリックの地を這うように動き回りながらも安定したベースラインの堅実さ、そして言うまでもなく、デイヴ・グロールの重く叩きつけるドラムスの迫力という、三位一体の演奏力が為せる業です。

クリスはソロ演奏で耳目を集める演奏家ではないですし、グランジという音楽の性質上、ギターより前面に出る事も少ないので、バンド・サウンドの迫力やぴょんぴょん飛び跳ねるいかしたステージ・アクションに比べて、その実力が注目される事はあまりないように思いますが、その役割は、ジミ・ヘンドリクスのバンドのベーシスト、ノエル・レディングと同様、バンド・サウンドに欠かせない縁の下の力持ち、という所にあります。



ニルヴァーナ『ネヴァーマインド』(1991年)

ニルヴァーナ『ライブ・アット・ザ・パラマウント』(1991年のライブ映像、2011年にDVDで発売)




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第19位 リック・ダンコ (【ロック】ザ・バンド)


ザ・バンドの、郷愁を誘う独特のノスタルジックなサウンドは、キーボード奏者のガース・ハドソンのオールド・ミュージックに通じたセンスに負うところが大きい、と、以前のコラムで書きましたが、リック・ダンコの、常套句を避けつつも主張の少ないまろやかなベースラインも、バンド・サウンドを定義する上で重要な要素の一つとなっています。

代表的な名演は、1968年のデビュー・アルバム『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』と、1969年のセカンド・アルバム『ザ・バンド』で聴く事ができます。




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第18位 ロバート・トゥルージロ (【ロック】オジー・オズボーン)


オジー・オズボーンが1980年に発表したソロ・デビュー・アルバム『ブリザード・オブ・オズ』と、セカンド・アルバム『ダイアリー・オブ・ア・マッドマン』(1980年)のベーシストはボブ・ディズリーですが、2002年に発売されたリマスター版のCDでは、なぜか全編別人のベース演奏に差し替えられていました。その別人こそ、ロバート・トゥルージロです。

ロバートは、2002年当時のオジーのバンドのメンバーらしいんですが、差し替えられた演奏が、違和感なくカッコ良かったので、すぐに好きになりました。

オリジナルのボブ・ディズリーの方が、表現の深みはあるんですが、ロバートの演奏には、引き締まった音の粒立ちの良さと、合奏の中でも埋もれない自己主張があって、へヴィ・メタルの知識がまだ浅かった当時の私には美点が分かりやすかったのだと思います。

初心者に観賞物を勧める時、最初に難解な物を提示するよりは、分かりやすい物から紹介した方が、共感できてその分野に入って行きやすくなる、という好例ですね。

今では、お陰様でボブ・ディズリーの良さも楽しめるようになりました。

ロバートの好演に感謝です。


なお、上記の通り、『ブリザード・オブ・オズ』と『ダイアリー・オブ・ア・マッドマン』には、オリジナル・メンバーのCDと、メンバーを差し替えたCDの2バージョンが存在するので、購入時にはくれぐれもご注意を。




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第17位 ジミー・ブラントン (【ジャズ】デューク・エリントン・オーケストラ)


ジミー・ブラントンは、元来単純なリズム・キープの役割を任されるだけだったベースという楽器を、ソロもこなせる楽器にまで引き上げた、ベースの歴史を語る上で欠かせない重要人物です。

本格的に音楽シーンに登場して数年で、病により若くして亡くなったので、彼の演奏は1939年~1941年の間の録音でしか聴く事ができません。

当時の録音技術は、まだ音の明瞭さに不十分なところがあり、エリントンのオーケストラのバックで奏でられるブラントンのベース音を聴き分けるのは、かなり難しいんですが、幸いな事に、エリントンは、少数精鋭の編成での録音にも、ブラントンを起用してくれていて、エリントンのピアノとブラントンのベースのデュオなんていう、ブラントンの演奏を楽しむために格好の録音まで残してくれています。

「ピーター・パンサー・パター(PITTER PANTHER PATTER)」がそれです。


そこで聴くブラントンの演奏は、力強くて自由闊達、とても彼一代で築いた演奏スタイルとは思えない完成された素晴らしいメロディの連続で、聴けば聴くほどその味わい深さを楽しめます。




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第16位 クラウス・フォアマン (【ロック】ジョン・レノン&プラスティック・オノ・バンド)


ジョン・レノンの1970年からの本格的なソロ活動を、ベーシストとして堅実に支えた人です。

クラウスはビートルズ時代からジョンと顔見知りだったようです。そのいきさつや、ベースを始めたきっかけをウィキで読むと、なかなか面白いですし、音楽の歴史上の運命的な流れといったものさえ感じます。

ジョンがソロ活動を始めるにあたって、なぜアマチュア的なクラウスをベーシストとして起用したのか。これも不思議な所ですが、彼のプレイを聴く限り、技術というより感性で弾いているラインと、温かい、控えめなサウンドで、ジョンの内省的で極端に虚飾を省いた音楽にこの上なく美しくなじんでいます。


『ジョンの魂』(1970年)

『イマジン』(1971年)




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第15位 ポール・マッカートニー (【ロック】ザ・ビートルズ)


言わずと知れたザ・ビートルズの中心人物の一人ですが、彼が優れたベーシストであることを評価しているのは、一般的なファンではなく、コアなファンではないかと思います。

あまりに自然に曲に馴染んでいるので、その妙味や複雑さを意識せずに聴き流せてしまうからですが、その技術の高さから、フェイバリットに挙げるベース愛好者も多いです。


彼のベースの凝ったラインや、整った美しさが作品に現れ出したのは、バンドがシンプルなポップスから実験的な楽曲の作成に踏み出し始めた1966年のアルバム『ラバー・ソウル』あたりからです。

ちなみに、ラバー・ソウルのラバーは、Rubber(ゴム)であって、Lover(恋人)ではありません。

だから、カタカナ表記も、ラヴァーではなく、ラバーとなります。



ザ・ビートルズ『リボルバー』(1966年)




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第14位 ジミー・ギャリソン (【ジャズ】ジョン・コルトレーン・カルテット)


ジョン・コルトレーン(テナー・サックス&ソプラノ・サックス)の圧倒するような凄まじい演奏に埋もれずに自己主張し、なおかつ楽曲を美しく引き立てる事ができるベーシストとは誰か。

ジミー・ギャリソンが最高、かどうかは分かりませんが、少なくとも、彼以上にジョンの演奏にフィットできるベーシストは、同時代にはいなかっただろうと思えます。

前任のベーシスト何人かと、ジミーの演奏を聴き比べてみると、ジミーはジョンと同様、新しい時代のジャズの感覚を持っている、という事が浮き彫りになります。

ベースラインが完全にハード・バップの常套句から脱しているし、フラメンコのギターを思わせるソロ演奏も抒情的で個性的です。

ソロ演奏のあまりの長さに、飽きが来そうになる事も、時にはありますが、これほどの高みにまで達したジャズマンたちに、さらに完ぺきを求めるというのも、贅沢というものでしょう。



ジョン・コルトレーン『至上の愛』(1965年)




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第13位 アンディ・フレイザー (【ロック】フリー)


フリーの、ごく簡素な、ホワイト・ソウル(白人のソウル・ミュージック)といった地味な音楽性の中で、アンディのメロディアスなベースは、曲を奥深いものにするための重要な要素として存在しています。

このバンドの主役の一人であるギタリストのポール・コゾフは、クラシック・ギターの素養があるテクニシャンであることを隠すかのような、シンプルこの上ないギター演奏に徹するので、もしアンディがいなければ、バンド・サウンドは相当薄く、器楽演奏だけの個所では特に、スカスカになってしまうところです。

しかし、フリーの良さは、その演奏のシンプルさでもあるので、そこを損なわずに、音を充実させるには、ベーシストが適度にすき間を埋め、必要とあらば前面に出さえする、というスタイルが最善なのです。

アンディはその難しい役目を、常に最高のバランスで担える、稀有なベーシストと言えます。



『ファイアー・アンド・ウォーター』(1970年)




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第12位 ジェフ・バーリン (【ロック】ビル・ブルーフォード)


英プログレッシブ・ロック界の名ドラマー、ビル・ブルーフォードのソロ活動で、ビルの生み出す軽妙自在な変拍子のリズムに楽々寄り添うテクニカルなベースさばきを披露したのは、アメリカのベーシスト、ジェフ・バーリンでした。

ジェフのプレイは、メイン・メロディに対して和音をびっしりと敷きつめてテクニックを誇示する、という弾きまくりスタイルではなく、むしろ、ユニゾンで流したり、音を少な目にする事で、リズムや乗りの変化を生み出すという、省エネ型のスタイルを特徴としています。それでいて、要所では驚異的な速弾きも披露するという、緩急の美を追求したプレイヤーでもあります。

ビルのソロ活動は、ビルのドラムスを楽しむのが第一目的なので、ジェフの職人タイプのやや控えめなスタイルは、私にとってはちょうど良いと感じます。

それに、ビルのバンドには、アラン・ホールズワースという、超絶技巧の速弾きギターの達人も在籍しているので、もしベースまで才能を誇示するタイプだと、バンドはキング・クリムゾンのようにやや音が充実し過ぎて、疲れる音楽性になっていたかもしれません。

気軽に変拍子を楽しみたいときに聴くバンド、それが、私にとっては、ブルーフォードのプログレ・バンド、という事です。



ビル・ブルーフォード『フィールズ・グッド・トゥ・ミー』(1977年)

ブルーフォード『ワン・オブ・ア・カインド』(1979年)




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第11位 ジャック・ブルース (【ロック】クリーム)


1960年代後半、ロック史上最高のトリオ・バンドとも言われたクリームで、ギター・ヒーロー、エリック・クラプトンの延々と続くアドリブ・プレイに匹敵する創造性豊かなアドリブを、ベースによってはじき出していたのが、2014年に惜しくも亡くなったジャック・ブルースという人です。


私は、彼の膨らみがありながら前面に出ようとするベースの音が、実はあまり好きではないんですが、それでも、長足の曲を終始アドリブ・プレイで通すことができるという偉大な才能は、ロック・ベースの可能性を大きく切り開いたという点で、高く評価せざるをえません。



クリーム『クリームの素晴らしき世界(Wheels of Fire)』(1968年)




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(第39回につづく)





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