第36回 ロックの転換点、スタジアム・ロックの時代へ エアロスミス 1973年~
ロックというジャンルが幅広い大衆の人気を得て、ショー・ビジネスとして全世界で一つの大きな市場を確立し始めたのは、1960年代初頭のビートルズの登場によるところが大きいですが、1970年代半ばになると、これまでこのコラム連載で紹介してきたような数多くの優れたロック・アーティストの登場もあって、その市場規模は、第二次産業、第三次産業といった経済活動の中の一角を占める、一大産業と呼べるほどにまで発展していました。
それに伴って、ロック・ミュージックや、それを生み出すミュージシャンは、レコード会社から市場価値のある製品と見なされる傾向が強くなり、斬新さや奥深さといった音楽的価値よりも、いかに多くの消費者にアピールして行くか、という宣伝効果に重きが置かれた、派手さや分かりやすさが求められるようになって行きます。
こういった、音楽産業の肥大化に乗って、数万人規模のスタジアムをソールド・アウトにするような人気を獲得したアーティストの生み出す音楽は、現在やや大味過ぎるという揶揄も込めて、〝スタジアム・ロック〟と呼ばれています。
そのスタジアム・ロッカーたちの走りとして、早い時期に成功を掴んだバンドの代表格として、今回はアメリカ東海岸の雄、エアロスミスをご紹介します。
【エアロスミス】
スティーヴン・タイラー(ボーカル)
ジョー・ペリー(リード・ギター)
ブラッド・ウィットフォード(リズム・ギター)
トム・ハミルトン(ベース)
ジョーイ・クレイマー(ドラムス)
このメンバーは、バンドの全盛期の面子で、1971年~1979年までと、1984年以降は、このメンバー構成で活動しています。
彼らの音楽を特徴づけているのは、スティーブン・タイラーの一聴して彼の声だと分かる癖のあるしゃがれたハイトーン・ボイスと、ジョー・ペリーのマイナーを好んで用いるメロディ・ラインや張りのあるギター・サウンドですが、ジョーイ・クレイマーの腹に響くタイトなドラミングも、エアロスミスのパワフルなサウンドに不可欠な存在だと言えます。
ファースト・アルバムは1973年の『Aerosmith(野獣生誕)』ですが、まだこの頃はありきたりなブリティッシュ・ロックの亜流といった、個性を確立できていない中途半端な音楽性なので(スティーブンの歌声も別人のようです)、1970年代のアルバムから聴くのであれば、1976年発表の4thアルバム『Rocks』がお勧めです。このアルバムでは、エアロスミスらしさと言える要素が揃っており、収録曲の良さも相まって、非常に聴き応えがあります。一曲目の「Back in the Saddle (バック・イン・ザ・サドル)」は、このバンドの持ち歌で私が一番好きな曲です。『Rocks』は全米チャート3位と、大きな成功をおさめ、この頃から、エアロスミスは数あるロック・バンドの中でも圧倒的な観客動員数を誇るスタジアム・バンドとしての地位を確固とし始めます。
次に好きなアルバムは、ちょっと時代をまたいで1993年発表の『GET A GRIP(ゲット・ア・グリップ) 』です。
遊び心と、作り込んだキャッチ―な楽曲の数々が、全編通して楽しめます。アルバム全体の流れを重視した統一感も聴き所です。全米アルバムチャート1位獲得も頷ける、非常に完成度の高いアルバムです。
ただ、正直言うと、この2枚のアルバム以外のアルバムは、日頃ほとんど聴く事がないです。
私の好きなロックとは、何かが違う、何か物足りない、という感じが、エアロスミスの音楽からは感じられます。
イギリスのロックバンド、フリーと、その主要メンバーが結成したバンド、バッド・カンパニーの違いと同じです。
フリーは好きで今でもよく聴きますが、バッド・カンパニーは昔何度か聴いたきりで飽きてしまいました。
フリーにはポール・コゾフという、情念で弾くギタリストがいて、彼の演奏聴きたさにフリーの音楽を何度も再生しているところがありますが、バッド・カンパニーには、覚えやすい佳曲は多々あれど、情念や衝動性といった、私がロックに求める根本的な魅力が希薄なんです。
エアロスミスを含む、数多のスタジアム・ロック・バンドにも、この問題点が常にネックとして感じられます。
この辺のフラストレーションは、1970年代中ごろに勃興した、パンク・ミュージックの流行につながる感情だと思います。




