第31回 私の好きなドラマー ランキング・ベスト20 (10位~1位まで)
第30回のコラムに引き続き、『私の好きなドラマー ランキング・ベスト20』と題して、一押しのドラマーをランキング形式で紹介して行きます。
今回は、いよいよ10位から1位までの発表です。
はたして、皆さんのお好きなドラマーが、ランキング入りしているでしょうか?
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第10位 キース・ムーン (【ロック】ザ・フー)
その破天荒な行動から生まれた数々の武勇伝や逸話の持ち主としても知られるキース・ムーンですが(有名なのは、ホテルの壁を打ち破って隣室の宿泊客を驚かせたという件。本当はバンド・メンバーを驚かせたかったのですが、隣室には別の客が宿泊していたというオチ。)、彼のドラミングは一聴するとその行動同様荒々しいようでいて、実はきっちりと曲への効果を計算して叩き出している、高度なプレイヤーとしての才覚を聴き取る事ができます。
デジタルに変換されると、音がしょぼくなってしまう代表的なドラマーでもあり、初期のCDでは、その良さを十全に味わう事はできません。
彼のパワーとテクニックの冴えを楽しむには、最新のリマスターされたアルバムを買ってもらえればと思います。
代表的名演は、ザ・フーのアルバム『Who's Next』(1971年)に詰まっています。
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第9位 テッド・マッケンナ (【ロック】ロリー・ギャラガー、マイケル・シェンカー・グループ)
テッド・マッケンナの演奏を初めて聴いたのは、ロリー・ギャラガーのライブ集、『BBCセッションズ』の中の一曲、「Cruise On Out」(1978年)においてです。
この演奏が、実に小気味よくて気持ち良いのです。
スタジオアルバムも聴いてみましたが、どうも乗りが違って、それほど良いとは思えません。
ライブでこそ本領を発揮するドラマーのようですし、この曲の程よいアップ・テンポが、彼の資質と見事にかみ合ったからこその名演だったのでしょう。
この一曲の演奏のみで、9位に選出です。
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第8位 アラン・ムーア (【ロック】ジューダス・プリースト『運命の翼(Sad Wings of Destiny)』(1976年))
錚々たる顔触れがそろうこのランキングに、アラン・ムーアの名前が入ると、奇異に感じるというか、誰?と思う方が多いかもしれません。しかも、8位にねじ込むなんて、かなり恣意的です。アランは、ジューダス・プリーストの1976年の名作アルバム、『運命の翼(Sad Wings of Destiny)』に参加したドラマーなので、演奏を聴いたことがある人は多いかもしれません。ただ、この一作を限りに、バンドを脱退してしまったので、余程の音楽通でない限り、名前を知らない人の方が多いでしょう。
ドラマーとしての一般的な評価も低いようですが、私はへヴィ・メタルらしい激しさを強調して行く後年のジューダス・プリーストよりも、この頃の、重厚感と音楽的な幅のある演奏が好きですし、アラン・ムーアのドラミングはそのほの暗い雰囲気に程よくマッチした、湿度のある打音とリズム感の妙味があると思います。
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第7位 リンゴ・スター (【ロック】ザ・ビートルズ)
言わずと知れた、ザ・ビートルズのドラマーですが、ジョン・レノンやポール・マッカートニーの存在感に隠れているので、彼のドラミングの素晴らしさを意識しながら聴いている人は、案外少ないのかもしれません。
彼の良さは、どんな曲調の曲にもとけ込む、サウンドのそつの無さとまろやかさにあります。
しかし、意識して聴いてみると、例えば「Come Together」(1969年)での彼の演奏は、曲の雰囲気を規定する濃厚で味わい深いリズムが醸し出されているのが分かりますし、ジョンのソロ活動での「Mother」(1970年)では、最初の鐘の音が終わった後の、ドラムの入りの音からして、このサウンド以外考えられないという、適度に抑制された、それでいてパンチのある打音を奏でており、単なるポップ・スターの一員ではなく、ロック・ドラマーとして最高峰のセンスを持ったミュージシャンであることを証明しています。
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第6位 D・J・フォンタナ (【ロック】エルヴィス・プレスリー)
オールディーズのドラマーは、音楽雑誌等のドラム・ランキングでは軽視される傾向がありますが、エルヴィス・プレスリーの初期の大ブレイクを陰で支えた、D・J・フォンタナのプレイは、現代の私たちが聴いても、ロック・ドラムの原点とも言える素晴らしさを堪能できます。
「Hound Dog」(1956年)での、強烈で印象深い打音を聴けば、今も昔も、ロックという音楽の、聴衆を引きつける理由に変わりはないのだと分かります。
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第5位 リチャード・ベイリー (【ロック】ジェフ・ベック)
ジェフ・ベックのアルバム、『ブロウ・バイ・ブロウ』(1975年)に参加した、フュージョン系の名ドラマーです。
このアルバム以外で、際立った活躍がないのが、不思議なくらい、ここでの彼の演奏は圧倒的な素晴らしさがあります。
フュージョン系のドラマーの中では、一番好きなドラマーです。
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第4位 ミッチ・ミッチェル (【ロック】ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス)
ミッチ・ミッチェルは、ジミ・ヘンドリクスのメジャー・デビューを華々しいものにするために、必要不可欠なドラマーだったと思います。テクニック充分、アドリブも得意で、何より、ジミの斬新なギター・プレイとの相性が抜群です。ベーシストのノエル・レディングとのコンビは、多士済々のロック界のリズム隊の中でも、一二を争う、絶妙の組み合わせです。
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第3位 ビル・ブルーフォード (【ロック】イエス、キング・クリムゾン、U.K)
最高峰のプログレ・バンドを渡り歩いたすご腕ドラマーとして、ビル・ブルーフォードはロック史にその名を刻まれています。
目まぐるしい変拍子をものともせず、正確無比に叩き出す彼のリズムは、テクニカルなドラマーの多いプログレというジャンルの中でも唯一無二のものです。
とはいえ、ドラマー・ランキングの3位に位置付ける人は、そう多くはないのではないかとも思います。
私は彼のドラミングの特徴である、スネアドラムの「コン」という音が好きで、それだけを理由に、3位に選出しました。
癖になる気持ちの良い音です。
代表的名演の数々は、イエスのアルバム、『こわれもの(Fragile)』(1971年)と、『危機(Close to the Edge)』(1972年)を手始めにお楽しみ下さい。
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第2位 ジョン・ボーナム (【ロック】レッド・ツェッペリン)
ロック・ドラマーの頂点は誰かと問われれば、多くの人がレッド・ツェッペリンのジョン・ボーナムと答えるのではないでしょうか。
その迫力、テクニック、多彩さ、サウンドの味わい深さ、どれをとっても、ロック・ドラムに求め得る最高の演奏を聴かせてくれる、それが、彼の素晴らしさです。また、彼のテクニックの基礎には、ジャズのスイング感があり、これが、ジャズからフレーズだけを移入する一般的なロック・ドラマーの単調になりがちな演奏と、彼の味わい深い演奏との違いとなっています。
スタジオ・アルバムでは、やや大人し目の演奏なので、彼のドラミングの真髄は、ライブで聴きたいところです。特に、1969年~1972年と、1977年のライブは、バンドの調子も良く、メンバーを煽りたてるボンゾ(ボーナムの愛称)の、豪快さと緻密さを併せ持った気迫あふれる演奏の数々を体感する事ができます。
公式発売のCD、『BBCライブ』が、最も入手しやすいので、1969年~1971年の、彼らの絶頂期の演奏と、ボーナムの名演の数々を楽しんで頂ければと思います。
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第1位 エルヴィン・ジョーンズ (【ジャズ】ジョン・コルトレーン・カルテット)
ドラムスというのは、メロディ楽器ではないので、ギターやピアノのように、音階や和音を複雑に組み合わせた演奏というのが、本来はできません。(電子ドラムや、音階を整えたドラムセットであれば、複雑なメロディを奏でる事も可能ですが、それは特殊な演奏であって、基本的には、ドラムスはリズムを刻んだり、迫力やメリハリなど楽曲に音響効果を加えるという役目を担います。)
そういう、表現に制限のある楽器でありながら、管楽器や弦楽器などソロ楽器と同等の聴き応えを生み出し、ドラム奏法の一つの到達点を示したのが、ジョン・コルトレーンのカルテットでジャズを極限まで進化させる事にまい進したエルヴィン・ジョーンズです。
エルヴィンの奏法は、複数のリズム・パターンを同時に奏でる、『ポリリズム』と呼ばれるテクニックが主軸になっています。
例えば、ドラムをタン、タン、タン、タンと打つパターンと、タタン、タタン、タンと打つパターンと、シンバルをチーチッキ、チーチッキと叩くパターンを同時に奏でる、という事です。
しかも、同じリズムパターンを曲中ずっと繰り返すのではなく、臨機応変に変化させて行き、しかもスイング感は失わないという、極めて高度なテクニックが要求される演奏です。
現在では、ポリリズムを体得したドラマーは、ジャズを中心にして少なからずいますが、エルヴィンほど深みと重みのある、芸術的高みにまで達した演奏ができるドラマーは、まだ現れていないようです。
彼の絶頂期は、テナー・サックス奏者のジョン・コルトレーンと共に、ポリリズムを確立して行った1960年から1966年までです。
1961年に発表されたコルトレーンのアルバム、『My favorite things』のタイトル曲が、ジャズに慣れない人にも親しみやすい、かっこいいテーマで、エルヴィンのプレイもすでに完成された特徴的な流麗さを示しているのでお勧めします。
ロックに飽き足らなくなった方は、ぜひ、ロックに負けない迫力と、多彩なミュージシャンを擁するジャズに、足を踏み入れてみて下さい。
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なお、今回惜しくもランキング入りすることができなかったけれど、ランキング入りしてもおかしくない、大好きなドラマーは以下の通りです。
ブライアン・ベネット(【ロック】シャドウズ)
ブライアンの小気味よく切れのいいドラミングは、バッキングでもソロでも聴いていてスカッとする心地良さがあります。彼の前任のトミー・ミーハンについて、ザ・フーのドラマー、キース・ムーンが影響を受けたドラマーとして名前を挙げていますが、私はジャズ的なソフトさがあるトミーよりも、ブライアンのドラミングの方が、ロックらしい威勢とメリハリがあって好きです。
チャーリー・ワッツ(【ロック】ローリング・ストーンズ)
チャーリーのドラミングは、どこまでもタイトで安定していて、羽目を外すことがない、というスタイルで、ローリング・ストーンズの粗野でやんちゃなイメージとは、正反対の真面目な印象を受けます。
しかし、もし、ストーンズのドラマーがチャーリーではなく、もっと好き勝手に羽目を外す、キース・ムーンのようなドラマーだったら、バンドの演奏や楽曲はただ荒々しいだけのチープな印象になってしまい、その魅力は大きく損なわれてしまっていた事でしょう。
バンドにとって、最適なメンバーの組み合わせというのは、実は似た傾向のミュージシャンであればいいという単純なものではない、という事が、チャーリーの演奏を聴くと分かります。
デヴィッド・ゲッツ(【ロック】ビッグ・ブラザー・&ザ・ホールディング・カンパニー)
ビッグ・ブラザー・&ザ・ホールディング・カンパニーの事を評する時、なぜか、「演奏能力が低い」と言う人がいるんですが、どうしてそんな見当違いな事を言うのか、不思議で仕方がありません。
あれだけ野放図に、感興のままに演奏しながら、楽曲として破綻させないだけの一体感を維持できる、そんなミュージシャンたちの、演奏能力が低いなんて、ありえない事です。
このバンドは、ジャニス・ジョプリンのソウルフルな歌声と、二人のリード・ギタリストによる豪快な演奏に注目が集まりがちですが、デヴィッドのドラミングの冴えも、いたるところで曲を盛り上げる事に貢献しており、そのテクニックの多様さも見事なものです。
ビル・ワード(【ロック】ブラック・サバス)
ブラック・サバスの、スローで陰鬱なサウンドに、ビル・ワードのゆったりとしたシンバルワークと重いビートは、ベストな組み合わせだったと言えます。ブラック・サバスも、演奏能力が低いと評される事のよくあるバンドですが、シンプルに徹した演奏をすることで味を出す、というのも、一つの表現手法であり、テクニックなのだと、気が付く必要があります。
ブライアン・ダウニー(【ロック】シン・リジィ)
アイルランドの英雄として今でも敬愛されているバンド、シン・リジィの、全盛期を支えた名ドラマーです。
テクニックを誇示するタイプではありませんが、彼が繰り出す引き締まった音やテンポが、リジィの楽曲のシャープで間を活かした雰囲気にとって、極めて重要な役割を果たしていたことは明らかです。ライブでの長足のドラム・ソロも、安定したテクニックと確かな構成感で聴き応えがあります。




