第28回 ラテン・ロック 中南米のリズム サンタナ 1969年~
1960年代末にレコードデビューしたバンドで、紹介し忘れていた重要なバンドがあったので、少し時系列を戻して紹介します。
ラテン・ロックの源流、サンタナです。
ラテン・ロックというのは、中南米やカリブ海の島国の伝統的な音楽、ラテン音楽を、ロック・ミュージックと融合した音楽です。
特徴としては、アフリカの土着的なリズムを発展させた、ダンス向きの複合リズムと、気だるい哀愁を感じる曲想やメロディが挙げられます。
コンガやボンゴといったラテン音楽で用いられるパーカッションが、ドラムスと並んで活躍するのも、ラテン・ロックの特徴の一つです。
サンタナは、ギタリストのカルロス・サンタナを中心に、1966年にアメリカのサンフランシスコで結成されたバンドで、結成当初はオーソドックスなブルース・ロックを演奏していましたが、次第にラテン音楽の要素を前面に打ち出すようになり、それとともに、従来のブルース系のロックに飽き足らなくなっていた聴衆の間で、大きな人気を獲得するようになって行きます。
サンタナのサウンドのかなめは、三人のパーカッショニストによる厚みのあるラテン・リズムと、グレッグ・ローリーの奏でるハモンド・オルガンの切ない響き、そしてカルロス・サンタナの硬軟自在なリズムギターや、燃え上がるような長足のソロにあります。
サンタナのギター・サウンドは、一聴して彼の音だと分かる丸みと艶のあるトーンで、ラテン・ロックにぴったりの哀愁が、音自体に備わっており、バンドの世界的成功は、このトーン(音の感触)あればこそだとも言えます。
奏でた音の余韻を力強いまま長く伸ばせる、サステインという効果を、巧みに生かして獲得したトーンです。
1969年のデビューアルバムでは、まだ中途半端なラテン・ロックに留まっていましたが、セカンド・アルバム『Abraxas(天の守護神)』(1970年)では、収録曲の曲調が安定して、カルロスのギターソロも、ブルースからの盗用フレーズを脱して、より自由なメロディラインによる多彩な演奏を聴く事ができます。
このアルバムは、米のアルバム・チャートで1位という、驚異的な成功を収めます。1970年というと、レッド・ツェッペリンやディープ・パープルといったハードロックの始祖たちが、人気を定着させてロック・シーンをリードし始めた頃です。そんな中で、1位にまで上り詰めたわけですから、いかに、当時の聴衆が、新興のラテン・ロックというジャンルに魅了されたかが分かります。また、サンタナの音楽が持つ、一般受けする分かりやすさも、成功の要因だったのだろうと思います。
1971年には、3枚目のアルバム、『サンタナⅢ』が発表されますが、このアルバムでは、若干17歳の天才ギタリスト、ニール・ショーンがメンバーとして迎えられた事で、カルロスとのツインギターによるギターバトルが最大の聴き所となっています。
ニールは、当時デレク&ザ・ドミノスで活動していたギタリストのエリック・クラプトンからも、バンドへの参加を持ちかけられていましたが、あまりにも高名なエリックと組むのは分不相応だと感じたらしく、その誘いを断って、比較的成功から日が浅いサンタナに加入する事にした、という事です。
『サンタナⅢ』の中の、「祭典(Toussaint L'Overture)」という曲での、カルロスとの壮絶なまでのギターバトルを聴くと、ニールがエリック・クラプトンと組んだ場合に、どんな演奏になったのかも、聴いてみたかった、という気持ちになります。
このアルバムも全米1位に上り詰めた事で、サンタナは名実ともに、アメリカを代表するロックバントとしての地位を揺るぎないものにしました。
とはいえ、私が好きなサンタナは、このアルバムまでで、以降はフュージョン色が濃くなるにしたがって、ロックの衝動性や、挑戦精神、斬新さが損なわれて行ったように思います。
1999年に発表したアルバム、『スーパー・ナチュラル』が、グラミー賞の9部門を独占し、2500万枚もの売り上げを記録した事を考えると、サンタナの人気は今でも極めて根強いと言えますが、世間一般での評価と、ロック・アルバムとしてどれほどのインパクトや深みがあるか、という歴史的な意義は、必ずしも一致しないという、一つの格好の例だと言えます。




