第27回 哀愁のロック UFO、マイケル・シェンカー・グループ 1974年~
1970年代初頭に、ディープ・パープルのギタリスト、リッチー・ブラックモアが、その卓越した速弾きと、クラシックやアラブ音楽から着想を得た耳新しいメロディラインの演奏で注目を浴びるようになると、既存のブルース・ロックの冗長なアドリブと、お決まりのメロディ・ラインに飽き足らなくなっていた若手のギタリストたちは、新しい方向性として、クラシカルなメロディを採り入れた速弾きという、華やかで胸のすくような演奏スタイルの創造を試みるようになります。
この方向性で、いち早く個性を確立し、成功を収めたのは、意外にも、ロックの本場であるイギリスやアメリカ出身のミュージシャンではなく、ドイツ出身のすご腕ギタリスト、マイケル・シェンカーでした。
マイケルは、兄で同じくギタリストのルドルフが結成したバンド、スコーピオンズに1971年に加入したことで、ロックシーンで最初の注目を浴びることになります。
若干17歳という若さでしたが、当時の音源(1972年のスコーピオンズのファーストアルバム)を聴くと、速弾きとアドリブの腕前は、すでに一流の域に達していますし、何より、彼の演奏の最大の魅力と言っていい、メロウな抒情性、いわゆる「泣き」と呼ばれるメロディラインの美しさも、この頃からすでに備わっていた事が分かります。
スコーピオンズでの活動中に、マイケルはイギリスのバンド、UFOのギタリストの代役として、急きょ彼らのライブに参加するという機会を得ます。UFOのメンバーは、マイケルのギターの腕前を見込んで、自分たちのバンドへの移籍を持ちかけます。英語力に難のあったマイケルではありましたが、熱心な勧誘に折れる形で、スコーピオンズを去り、UFOのメンバーとしてイギリスに渡ります。
1974年発表のUFOのアルバム、『現象(Phenomenon)』で、マイケルはその圧倒的な速弾きの才能と、アドリブの冴え、作曲の巧みさを、早くも余すところなく披露しています。
名曲、名演のずらりと並んだアルバムですが、「Doctor Doctor」の抒情性、「Rock Bottom」の、当時としては驚嘆ものの難しいリフやアドリブフレーズの速弾きなどが最大の聴きどころです。
マイケルの演奏や作曲の特徴である哀愁や抒情性は、明るさを好むアメリカよりは、本国イギリスや日本で好まれる傾向があり、日本には今でも熱心なファンが多く、マイケルも自己のバンド名義で頻繁に来日して公演を行なっています。
かく言う私も、抒情味のあるロックを聴きたいときは、マイケルの演奏が聴けるアルバムをチョイスする事が多いです。
ロックミュージシャンで、彼のような切ないほどの抒情性をギターで表現できるギタリストって、意外と少ないのです。
UFOは、ボーカル(フィル・モグ)、ベース(ピート・ウェイ)、ドラム(アンディ・パーカー)、いずれも実力派のミュージシャンで、マイケルの強烈なギターサウンドに負けない迫力ある演奏を楽しめるという点でも魅力的なバンドです。
マイケルは1978年までUFOに在籍し、5枚のスタジオアルバムと、1枚のライブアルバムを残していますが、いずれも力作ぞろいで、特に、『新たなる殺意(Lights Out)』(1977年)と、『UFOライブ(Strangers In The Night)』(1979年)は、ハード・ロックの代表的名盤として、ロックシーンで高く評価されています。
1970年代末には、世界的名声を得るまでになっていたUFOでしたが、セカンド・ギタリストやキーボーディストをバンドに加えるかどうかの争いなどが原因で、神経質なマイケルとフィル・モグの仲が以前から険悪となっており、1978年にはついに、マイケルが脱退するという形で、UFOは稀代の看板ギタリストを失う事になります。
マイケルは1980年に、自己のバンド、マイケル・シェンカー・グループ名義で、ファーストアルバム『神(THE MICHAEL SCHENKER GROUP)』を発表します。
このファーストアルバムによって、マイケルは活動を待ち望んでいたファンに、彼の速弾きと、作曲の才能と、哀愁を感じるメロディセンスが、健在である事を証明します。
ただし、UFOの頃に比べると、アメリカの市場を意識した、明るい曲調も多く、時代に上手く自分の個性を調和させたマイケルのセンスがあってこその、このアルバムの音楽的成功だったと言えます。
バンドには、ハード・ロックの名ドラマー、コージー・パウエルが参加しており、彼の腹に響くようなバスドラムの迫力も、冒頭の名曲「Armed and Ready」、「Cry for the Nations」、インストの傑作「Into the Arena」などの、大きな聴き所となっています。
ちなみに、私はボーカルのゲイリー・バーデンの歌声が好きなんですが、マイケル・ファンの中には、「蛙みたいに皺がれた声で、ライブでは音程が酷い」などと、かなり低く評価している人も見られます。
たしかに、ライブ音源を聴くと、酒の飲みすぎが原因だと思うんですが、声が裏返ったり、音程が不安定になる場面も多々見られます。
ただ、調子のいい時は、とてもワイルドで、個性的な、マイケルの音楽にぴったりの、素晴らしい歌声をしていると思うので、そこが楽しめないというのは、もったいないなと思います。
そんなゲイリーの歌唱も含めて、ぜひご自身で聴いてみて、判断してほしい、1980年代の数あるロック・アルバムの中でも特にお勧めのアルバムです。
マイケルのトレードマークは、逆さのV字の形のギター、通称「フライングV」です。
このギター、ラジカセのスピーカーから出るような、軽めの個性のある音で、愛用するギタリストは、けっこう少ないんですが、マイケルが弾くと、この上なくかっこよく響くから不思議です。
マイケル以外で、フライングVを使っていたのが印象に残っているギタリストとしては、デイヴ・デイヴィス(ザ・キンクス)、アルバート・キング、ジミ・ヘンドリクス、ランディ・ローズ(オジー・オズボーン)、ザック・ワイルド(オジー・オズボーン)などが挙げられます。




