第22回 グラムロック ビジュアル系のルーツ T・レックス 1968年~
現在、日本に定着した音楽ジャンルに、『ビジュアル系』というのがありますよね。
きらびやかな、けばけばしい衣装を着たり、男性が化粧をしたりして、個性をアピールする、見た目重視のミュージシャンやバンドの事です。
この、ファッション性の特異さが重視されるジャンルの、源流をたどって行くと、イギリスを中心に1970年代初頭から人気が出始めた、『グラムロック』と呼ばれるスタイルに行き当たります。
グラムロックというジャンル名は、例えば、ハードロックとかへヴィメタルといった、音楽性が似たバンドをひとくくりにしたジャンル名とは、いささか意味合いが異なります。
上記のビジュアル系の説明文で挙げた、『きらびやかな、けばけばしい衣装を着たり、男性が化粧をしたりして、個性をアピールする、見た目重視のミュージシャンやバンド』という定義は、グラムロックの定義にも当てはまります。
つまり、外見的特徴をアピールするミュージシャンやバンドであれば、とりあえずグラムロックに属するとみなされていたわけで、音楽性の共通点で選り分けられた他のジャンルに比べると、属するミュージシャンやバンドの音楽性には、際だった類似点がないという点に、このジャンルの特徴があったとも言えます。
イギリスではT・レックスとデヴィッド・ボウイ、アメリカではアリス・クーパーが、グラムロックの象徴的存在と言えます。(1970年代半ばに一世を風靡したバンド、クイーンも、デビュー当時はその奇抜なステージ衣装から、グラムロックと見なす人もいたそうです。)
今回は、グラムロックの中でもシンプルで親しみやすい、T・レックスを紹介することにします。
【T・レックス】
ギタリスト兼ボーカリストのカリスマ、マーク・ボランを擁し、1970年代初頭に、10代の女性ファンを中心に絶大な人気を博した、グラムロックの代表的なバンドです。
マーク・ボランは、1968年にはティラノサウルス・レックスという二人組のフォークロックグループでデビューし、一部の熱狂的なファンを獲得していましたが、本格的な成功を得るのは、バンド名をT・レックスに改め、4人組になって1971年に発表したアルバム、『電気の武者(Electric Warrior)』の頃からです。
このアルバムを聴いていて思うのは、1971年の作品とは思えない、サウンドの先進性が感じられる、という事です。
1971年のロックシーンといえば、レッド・ツェッペリンがアルバム『Ⅳ』、ディープ・パープルがアルバム『ファイアボール』を発表するなど、ブルースロックを基調にした硬派な演奏が、依然として多くのロックファンに好まれていた時代でした。
そんな時代に、T・レックスは、ブギーのリズムを基調にした単純ながら、軽やかでノリの良いダンサブルな演奏、ささやくようなセクシーな歌声、口ずさみたくなる印象深いリフやメロディといった、現代のギターポップに通じる、ロック初心者にもとっつきやすいロックサウンドを、すでに明確な個性として確立していました。
随所に用いられるコーラスワークや、ピアノ、管楽器のアレンジも、それぞれが曲を最大限に引き立てるように設計されているという点で、極めて洗練されており、この作品が当時の音楽ファンに与えた新鮮な印象は、きっと現代の私たちが受ける新鮮な印象以上のものがあった事だろうと想像できます。
特に、「Bang A Gong (Get It On)」は、時代を超えた名曲です。
個人的には、ドラマーのビル・レジェンドの絶妙に重いサウンドが、このアルバムの重要な聴きどころになっていると思います。
線の細いボーカルと、洗練されたアレンジだけでは、ロックとしてはやや物足りなくなりそうですが、そこに彼のドラムの重厚さが加わることで、軽妙さとの良い対比になって、全体にロックらしい迫力と活力を生み出しているのです。
グラムロック自体は、1970年代半ばにはパンクなど他のジャンルの台頭を受けて衰退して行きますが、T・レックスの、遊び心とアレンジセンス溢れる聴き応えのある音楽は、これからも幅広い音楽ファンに愛聴され、新しいファンを獲得し続けるに違いない魅力を保ち続けています。
人気絶頂期のマーク・ボランの肖像画です。筆先が割れて描きにくかったので、ちょっと天野喜孝さん風の怖い感じの絵になりましたが、実物はイケメンの優男です。




