第20回 サザン・ロック アメリカ南部という音楽 オールマン・ブラザーズ・バンド 1969年~
今回は、アメリカで生まれたロックの一ジャンル、サザン・ロックについて、語ってみます。
サザンとは、英語で「南の…」を意味する形容詞です。
アメリカ南部の、カントリーやブギ、ブルース、R&Bといった濃厚さのある伝統的音楽を下敷きにして、土の香りがするような気だるいサウンドをロックのリズムに乗せて奏でる。それがサザン・ロックの特徴です。
サザン・ロックというジャンルが定義される前にも、ブルース・ロックというジャンルはありましたが、サザン・ロックはブルース以外の音楽からも多くの特徴を取り入れている、という点で、ブルース・ロックよりも演奏に幅のある、自由度の高い音楽と言えます。
サザン・ロックは、1960年代から、トニー・ジョー・ホワイトやデイル・ホーキンスといったブルース系、R&B系の白人ミュージシャンたちを中心にして演奏されるようになり、1970年代に代表的な二つのバンド、オールマン・ブラザーズ・バンドと、レナード・スキナードが人気を博したことで、音楽ジャンルとして広く普及するようになりました。
今回は、私にとってより思い入れの深い、オールマン・ブラザーズ・バンドについてご紹介します。
:オールマン・ブラザーズ・バンド:
オールマン・ブラザーズ・バンドは、グレッグ(弟)とデュアン(兄)のオールマン兄弟を中心にして1969年に結成されたバンドです。グレッグはキーボードとボーカルを担当し、デュアンはギターの担当です。
バンド結成前から、デュアンはセッションミュージシャンとして様々なジャンルの音楽を演奏する仕事をこなしており、そこでの経験が、彼のたぐいまれなギターの才能を開花させたと言えます。
バンドは6人編成で、ボーカル&キーボード、ギター二人、ベース、ドラム二人、という、ロックバンドとしては珍しいメンバー構成です。特に、ドラムが二人というのが、このバンドの音楽的な豊かさに大きく貢献していると思います。
演奏を聴いてみると、ドラムの二人はそれぞれに個性を主張するのではなく、あくまでも一人のドラマーが叩いているような一体感で、終始違和感なく複雑なリズムを提供し続けます。
ジャズドラマーのエルヴィン・ジョーンズが編み出した、複数の異なるリズムを同時に叩いてグルーヴ感を生み出すテクニックを、このバンドでは二人で実現したと捉える事もできます。
また、ギターが二人というのも、このバンドが聴衆の支持を得る上での重要な要素となりました。
デュアンの相方のギタリストは、ディッキー・ベッツ。自由奔放なスライド奏法で聴衆を魅了するデュアンに対して、ディッキーは堅実なブルースロックのフレーズで曲を飾り、二人のギタリストの個性の違いが、曲に彩とギターミュージックとしての聴き応えをもたらしています。
彼らの代表作は、1971年に発表されたライブアルバム『アット・フィルモア・イースト』です。
彼らのテーマソングである「ステイツボロ・ブルース」に始まり、20分を超えるアドリブの応酬が楽しめる「ウィッピング・ポスト」など、ここでのバンド演奏の素晴らしさは、サザン・ロックの魅力を全米のロックファンに知らしめるに十分な、決定版と呼べる内容でした。
スタジオアルバムでは、大人しいサウンドに収まりがちな彼らなので、ご興味が湧いたようであれば、まずはこのライブ盤から聴き始めてほしいと思います。
しかし、順風満帆に思えたバンドですが、デュアンは、このライブアルバムの成功直後の、1971年10月29日、オートバイ事故により、惜しくもこの世を去ってしまいます。
才能を世の中に認められてからの実質的な活動期間は3年程度と短かったものの、彼が残した名演の数々は、多くのロックファンに愛され、聴き継がれ続けています。
デュアンとエリック・クラプトンとの共演が実現したデレク・アンド・ザ・ドミノスのスタジオアルバム『レイラ』での活躍も聴き逃がせませんが、それは十分に紙幅を割いてお話ししたい事なので、また次の機会に。




