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第15回 プログレッシブ・ロック クラシックとジャズへの接近 1967年~ 【前編】

これまでに本コラムで語った、1960年代までのロックの歴史を振り返ってみると、より技巧的で、高い演奏能力を披露するミュージシャンが人気を博するようになって行った、という事が分かりますが、1960年代末頃になると、ブルースやカントリーミュージックといったロックの基本要素から離れて、特に作曲の面で、クラシックやジャズといったより技巧的で難解なジャンルからの影響を前面に出す事で、聴衆にその腕前をアピールするロックバンドが表れるようになりました。


目まぐるしい変拍子や、ロックでは珍しいコード進行やテクニカルなフレーズの採用といった、複雑な演奏を特徴としたこれらの音楽は、『プログレッシブ・ロック』とか『アート・ロック』と名付けられて、1960年代末以降、一つの人気のジャンルとして、多くの聴衆を獲得するようになって行きます。


プログレッシブ・ロック(略して『プログレ』とも呼びます。)が流行し始める、その最初期に成功を収めたバンドとしては、ピンク・フロイド、キング・クリムゾン、イエス、エマーソン・レイク&パーマーなどが挙げられます。


:ピンク・フロイド:

イギリス出身のバンド、ピンク・フロイドのレコードデビューは1967年と、他のプログレバンドに比べて早かったものの、デビュー当時は流行のサイケデリック・ロック(極彩色の幻覚を思わせる摩訶不思議な音楽)を演奏するバンドとして、人気を集めていました。

活動初期の音楽性の中核をなしていたのは、ヴォーカルとギター担当のシド・バレットの存在でした。

彼の書く怪しく危うげな魅力を湛えた曲や歌詞、また演奏の素晴らしさは、ファーストアルバム『夜明けの口笛吹き』に凝縮されています。

(シドはルックスも良く、1970年代に流行する中性的魅力が売りの〝グラム・ロック〟というジャンルの、デヴィッド・ボウイやマーク・ボラン(Tレックス)といったミュージシャンが、ファッションや音楽性などで影響を受けた憧れのアーティストとして名前を挙げています。)


残念ながら、シドはピンク・フロイドの活動が軌道に乗る頃には、薬物依存や成功から来るプレッシャーなどにより、ライブ演奏が困難なほど精神を病んでしまい、アルバム一枚を残してバンドを去ることになります。

音楽的支柱を失ったピンク・フロイドは、競合するバンドの多いサイケデリック・ロックから、より複雑で計算された、個性的な音楽の創造へと方向転換する事で、活動の心機一転を図ります。

ファーストアルバム以降の数枚のアルバムでは、現代音楽にインスパイアされた、試行錯誤の実験的な作風が続き、一部の熱心なファンを獲得するに留まりましたが、1970年に発表したアルバム『原子心母』の頃から、バンドは過分に実験的な作風をようやく脱して、20分を越える大曲でありながら聴きやすさも併せ持つ表題曲に象徴される、大衆向けのプログレバンドとしての個性を徐々に確立しはじめます。(『原子心母』は全英1位を記録。)

そして、1973年のアルバム、『狂気』において、バンドはついに、全米チャート1位を獲得するという快挙を成し遂げます。人間の狂気という暗部をテーマにした作品が、明るさを好むアメリカで大ヒットするのは異例でしたが、彼らの演奏能力の高さ、作曲の才能、プログレファン以外のロックファンにも受け入れられやすい分かりやすさ、アルバム全体が一つのコンセプトで統一されている、という完成度の高さなど、作品が持つ魅力の多さを考えれば、話題が話題を呼んで、大ヒットに至ったのも、あながち奇妙な事ではないと分かります。

また、このアルバムは、発表後、15年にもわたって、ビルボートのチャートにランクインし続けるという、驚異的な記録で、ギネスブックにも掲載されています。一般的な認識では、この『狂気』こそが、プログレッシブ・ロックを代表する歴史的名盤、という事になりそうです。今現在の私の耳には、アドリブの要素が少ない、譜面重視の演奏なので、やや分かりやす過ぎるようにも感じますが、プログレを聴きはじめた頃には、やはり即座に気に入って、何度も繰り返し聴いたのを覚えています。



:キング・クリムゾン:

イギリスのバンド、キング・クリムゾンは、1969年のファーストアルバム発表以来、目まぐるしくメンバーチェンジを繰り返しながら、今現在も活動を行なっている、最古参のプログレバンドです。

活動期間が50年以上というロックバンドは、実は意外と多いのですが(それだけ、1970年前後に登場してヒットを飛ばしたバンドが、多かったという事でもあります。)、キング・クリムゾンのような難解で攻撃的な音楽性を主体にしたバンドが、これほど長期にわたって、断続的とはいえ、創造的に活動を持続できているというのは、本当に驚くべき事だと言えます。


キング・クリムゾンの音楽性は、メンバーチェンジが多いバンドだけあって、アルバムごとに大きな変遷を見せますが、ファーストアルバム『クリムゾン・キングの宮殿』で表わされた、切ないまでの哀愁と、どう猛な激しさのせめぎ合いというコンセプトは、その後の全てのアルバムで、底流に流れるバンドの個性として、受け継がれているように思います。

バンドメンバーで、唯一一貫して在籍し続けているのは、ギタリストのロバート・フリップです。

バンドはある意味彼のものであり、彼の音楽性や嗜好が、バンドの基本的な方向性になっているのは間違いないでしょう。

つまり、加入するメンバーの個性は、技巧面やサウンドに変化や彩をもたらすための素材、というのが、キング・クリムゾンというバンドの特性という事になります。

その歴代メンバーの技量の高さや豪華さでも、バンドはロックファンの尊敬を集め続けています。


・グレッグ・レイク(ベース、ボーカル)エマーソン、レイク&パーマー

・ピート・シンフィールド(作詞)エマーソン・レイク&パーマー

・ジョン・ウェットン(ベース、ボーカル)U.K

・ビル・ブルフォード(ドラムス)イエス

・エイドリアン・ブリュー(ギター、ボーカル)ソロ活動


いずれも、他の著明なロックバンドやソロ活動で名を成した、プログレファンなら馴染み深い名前ばかりです。

中でも、私にとって重要なのは、詩人のピート・シンフィールドの参加です。私は英語が得意ではないので、洋楽を聴く時には、あまり意味を気にせず、言葉の響きを楽しんでいるだけなんですが、ピートの書く歌詞は、意味が分からなくとも、言葉がとても美しいという事と、他のロックバンドが好んで用いる常套句を、極力避けながら、流れの良い、特徴的な歌詞を紡いでいる事が、響きから感じ取れるという、素晴らしさがあります。

彼がバンドから脱退して(1972年)以降の曲は、明らかに歌詞の魅力が低下しているのが分かります。

私はピートの作詞に出会う事で、音楽を引き立たせる上での歌詞の(音楽的な響きの)重要性に気がつく事ができました。

これは、歌詞が英語だったからこそ、なおさらはっきりと認識できた事です。



【後編】につづく



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